第2話 魔法と乳母とおっぱいと
「ステータス オープン」
転生したらおちんちんついてきました。ステータスに性別が書いてあったらもっと早く気づいたのにね。
「ライト」
転性した事を知ったのは昨日。もう日が昇って大分時間がたっている。それでもまだ衝撃の事実から立ち直れていない。だって29年間も女の子してたんだもん。いきなり男の子になったっと知っても、はいそうですか、とはなりませんって。
現実から逃避したくなっちゃうけど、逃避したところで現実は変わらないって分かってるんだよ。わかっていても、気分が高ぶらないものは仕方ない。だから毎日頑張っている呪文練習の声には力がない。
「ウォーター ボール」
「ファイヤー アロー」
やる気が出ない理由は他にもあるんだよ。生まれてから1か月くらい。何をやっても魔法が発現しないのだ。無詠唱は無理だったし、呪文を声に出しても何も起こらない。
「サンダー レイン」
もしかすると、魔法がない世界なのかもしれない。いやーな予感が頭の片隅をよぎる。
天井に電灯はなく、床も壁も石で出来ている。
窓にはガラスがなく、木の扉がついている。
ベビーベッドは木製で、おむつはぼろ布。
(ここがアフリカだったとしても、電気は通っているはずだし、スマホも使っているはずよね)
そうだとしたら、生まれ変わった先は現代の地球ではなさそうだ。
悪い事に中世か古代くらいの文明レベルなのかもしれない。
魔法がなくても、現代みたいに文明が発展していたら文句はないよ。でもでも周りを見渡すと中世、もしかすると古代なのかもと不安になる。
特に怖いのが夜。暗いのだ。
「闇は恐怖を呼び起こす」ってほんとだよ。暗くて指先が見えないと、自分が闇に溶けてなくなってしまいそうで、ホラー映画も真っ青の怖さなんだよ。
スイッチをぽちって押したら明るくなる現代文明か、「ライト」って言ったら明るくなる魔法文明。両方なんて贅沢は言わないから、片方だけでもプリーズ。
両方なかったら、罰ゲームとか無理ゲーになっちゃうよ。私はEasy モードが好きなんだよー。だから神様仏様、魔法が使えるようにお願いします。
「そなたの願いをかなえよう」
って唐突でもいいから龍の神様でも出てこないかな。
もし本当に魔法がない世界なのだとしたら……
快適な現代社会を過ごしていた私は生きていけるのかな。
◇
魔法はともかく、どうして私は前世の記憶をもっているんだろう。前世があるって事は
今後の生活がかかっているから、ほんとうに真剣な悩み事なんだからね。全く手探りの転生ってこんなに辛いものだったとは、もう予想外だよ。ぷんぷんだよ。
転生しちゃった漫画や小説の主人公はあまり悩んでないみたいだったのに。どんだけ能天気で中二病でメンタル強いんだろう。私も心臓に毛を生やしてほしいよ、まったく。
◇
“ちゅんちゅん”と外から鳥の鳴き声が聞こえてくる。
今日もいい天気みたい。窓から差し込む光がまぶしいくらいだ。
“ぎぃー”
考えても無駄な事をなんども頭の中で繰り返していると、扉を開いた時に出る木が擦れた音が聞こえてきた。
ベッドに寝ている私の顔を覗き込む女性2人の顔が見える。ひらひらが多く華美な衣装をまとった栗毛の女性と、それに付き従う質素な服の女性。
華美な方が転生後の私の母。落ち着いた雰囲気で気品溢れるたたずまい。優しそうな茶色の目が2つ、こちらを見ている。真正面から見つめられるとちょっと恥ずかしいぞ。
質素な方は乳母。顔に幼さが少し残っているから20歳にはなっていないと思う。
「********?」
とろけそうな笑顔で母が私を抱き上げ、何やら語りかけてくる。だけど何をいっているのか全くわからない。その笑顔に返事ができなくてちょっと申し訳なくなった。
「ラングエージ トランスレーション」
と唱えてみても何も起こらない。母には「あうえーい おあうえーお」って聞こえてるんだろうな。魔法が使えたらお話できるのに。残念無念。
私が声をだした事に喜んだのか、私をだっこした母が頬ずりしてくれた。うんうん。赤ちゃんの成長にはスキンシップが欠かせないからね。盛大にだっこしてくれたまえ。
「********」
乳母に声をかけた母は、私を乳母に引き渡す。たぶん授乳するよう言ったんだろう。おっぱいをあげるのが乳母の役目だけど、ちょっとさみしいよ、おかあさん。
乳母のおっぱいを飲みながら母の方を見ると、母もちょっと寂しそうに授乳されている私を見ていた。母も自分で授乳したいのかな? それなら乳母に任せなかったらいいのに。
もしかすると、子供をたくさん産まないといけない立場なのかな? 授乳していると生理が戻るのが遅くて、出産間隔が開いてしまう。だから高貴な家柄では早く妊娠するために乳母を雇うって聞いた気がする。
前世で甥の周くんに授乳していた姉は幸せそうだったな。
(おかあさんに授乳してほしいな)
そう伝えたいけど言葉がわからない。だから手をおかあさんの方に差し出すように動いたら、両手で包むように握ってくれた。おかあさんに笑顔を戻ってきてくれて私もうれしいよ。
おっぱいを飲んでいる周くんを見て曲を作ったことを思い出した。音楽の授業の課題だったから、自発的に作ったわけじゃないけど、私にとっての思い出の曲。大きくなったらおかあさんにも歌ってあげたいな。
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