前世の知識は預言なの? 11世紀イタリアで知識・内政チートな物語。アメリカ大陸を発見だ!

宇佐美ナナ

プロローグ 転生&転性の預言者

第1話 ぞうさんのおはな

 お、おちんちんがはえてるぅー


 なんてこったい! ちいさな象さんのおはなが、おまたさんの間で頼りなさそうに寝ころんでる。


 そんなのってあり? 私、女性だったんだよ。


 転生してから1か月。やっと見えてきた目でおまたさんを見た結果がこれ。目の錯覚かと思って二度見しちゃったよ。


 もう、信じられないっ! 転生はいいとしても、せめて前世と同じ性別にしてほしかった。まじでほんと。


 このやるせない気持ちをどうすればいい? やっぱり叫ぶっきゃないよねー。

「神様のバカヤロー!」


 でも、悲しいことに私はあかちゃん。まだしゃべれない。


「あー あー うー えー」

 驚きも迫力も全くないかわいい声が口から漏れてくる。あぁ、叫ぶことも出来ないだなんて。がっくりだよ。


(はぁ)

 思わずため息がでちゃった。赤ちゃんでもため息つけるって新発見かも。でも、ため息ついてる赤ちゃんってどう思う? きっと、かわいくないよね。


 前世はリケジョであまり可愛くなかった私だけど、生まれ変わったのだ。こんどは可愛い自分になれたらいいなぁ。


 って、ちょっとまって。男に転性したんだった。ならば可愛い系男子を目指すべきだろうか。う~ん。よし、決めた。そうしよう。


 たまたま窓から見えた昼空の星に願いをたくす。

「可愛い顔に生まれ変わっていますように」


 ◇    ◆    ◇


 最後の記憶は一か月くらい前になるのかな。農業高校の先生だった私は校外実習の引率で農場を訪れていた。


 勤務先の高校はブラック企業、ならぬブラック職場。予算不足と人手不足で、授業が成り立つぎりぎりの数しか先生がいなかった。だから仕方なかったとはいえ、思い返してみれば20代の私ひとりで1クラスを引率するのは、やはり無理があった。


「藤堂先生なら大丈夫でしょう」

 教頭先生の白々しい言葉に内心ムカムカしながら、笑顔を貼り付けつつ言い返す。


「大丈夫じゃないので、教頭先生も引率を手伝ってくださいよ」

「いやいやいや、僕は校内での仕事が沢山残っているから無理だよ、無理」


 はいはい、何度も無理って言われなくても分かってますって。教頭先生は書類が山のように積まれた机にほんの一瞬目を動かした後、話を続けた。


「なんなら、引率から帰ってきたら手伝って......」

「じゃあ、引率に行ってきまーす」


 書類仕事なんかうんざりだ。まだ校外で学生のお守りをしていた方がいい。教頭先生の言葉を途中でさえぎり、教室へと一目散に逃げだした。



 ぽかぽか暖かい5月の日差しを浴びて育った柔らかな牧草地で生徒と私たちは昼休憩をとっていた。お弁当を食べた後はのんびり時間。放牧されている馬たちが草をはんでいるのをぼーっと眺めている。


(あぁ、これが牧歌的な風景ってやつだよね)

 なんて他愛のないことを思いながら周りを見回すと、お弁当でお腹が満たされた高校生たちがそれぞれの時間を過ごしていた。


「そっちに行っちゃだめ!」 

 そんな中、ふらふらと馬の方に向かう男子生徒と女生徒に大声で注意した。話に夢中になって2人だけの世界にっちゃってるのか、馬の真後ろを横切る方向にそのまま歩き続けている。


「だめ、止まって!」

 駆け寄りながら叫ぶ私の声にもバカップルは全く反応してくれない。馬の目は顔の横についていて視界が広く、真後ろ以外は見渡すことができる。そのためか死角となる真後ろに人が入ると、馬はすごくおびえるのだ。


「馬の後ろに近づいちゃだめー」

 牧場の草地はでこぼこで、思ったよりも早く走れない。馬の真後ろまであと少しという所で2人に追いつき、彼らを守るべく馬との間に割って入った。


 その瞬間 「ひひーん」と馬の怯えたる声が聞こえた。馬がこちらに気づいたのだろう。


「先生!」 「うしろ!」 「危ない!」

 引率してきた生徒の叫び声に反応し、がばっと後ろを振り返った。馬の後ろ足が目線の高さまで上がり、スローモーションでこちらに向かってくる。


 前世で最後に見た景色は、蹄鉄がつけられた馬の足裏だった。


 ◇    ◆    ◇


 そのあとは痛いと思う間もなく、新しい人生が始まっていた。おぎゃーと泣いて、おっぱい飲んで、眠る。その繰り返しの日々。


 前世で思い残すことはいろいろある。今思い返すと馬はバカップルにではなく、私の声に驚いて蹴ったんだろうな。大声出したら馬も驚くよね。


『人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んでしまえ』

 江戸時代の都都逸どどいつを2030年代に実現、とかネットニュースに書かれているんだろうな。別に邪魔したかったわけじゃないのに。


 それにしても自分の死に方が、人生最大のネタになってしまうとは。どんなお葬式になったのか、想像するだけで申し訳ない気分になる。両親、おねえちゃん、そして甥の周ちゃん、ごめんよぉ。


 そんな事を考えていたら、急速に睡魔が襲ってきた。赤ちゃんは寝るのが仕事だよねーと思いつつ、眠気に身を委ねることにした。


(おやすみなさい)


 ーーー

 あとがき

 ーーー

 中世イタリアに転生&転性しちゃった主人公。まだ名前もありませんし、本人もどこに転生したか理解していません。


 もしあなたが転生したならば、最初に何をするでしょう。転生小説をお読みになる皆様と同じような行動を、きっと主人公もすることでしょう。



 本小説のヒロインは中部イタリアのトスカーナ女辺境伯、マティルデ・ディ・カノッサです。近況ノートに挿絵がありますので、よろしければご覧ください。


 マティルデ・ディ・カノッサ。世界史好きな人なら「カノッサの屈辱」における立役者の一人とご記憶かもしれません。もちろん事件の当事者である神聖ローマ皇帝ハインリッヒ4世、そしてローマ教皇グレゴリウス7世も出てきます。


 とはいえ、世界史の知識がなくても楽しめる小説ですのでご安心ください。


 ●中世の常識は日本の非常識

 そして本小説一番の見どころは、中世ヨーロッパと現代日本との常識の違いです。現代の常識が抜けきらない主人公が、周りの人を巻き込んでドタバタ喜劇を繰り広げます。


 これから末永くお楽しみいただけましたら幸いです。


 宇佐美ナナ

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