「ようこそ地下へ……』


 そう私に呼びかける声は、間近に聞こえてきた。

 ううん。声は私の頭の中に響いていたといってもいい。

 余りに眩しい光の中にいた私達は、行き着いた先の暗闇に視界を奪われていた。

 カスミが、不安げに私の手をギュッと強く握る。

 その温もりに励まされるように、私は声の主に話しかけた。


「あなたが、『イザイ』なの?」


 じきに目が慣れて、辺りが見えるようになった私達の前に、赤ちゃんを抱いた女の人が立っていた。


『君の目の前に居るのが、そうかと言われれば、そうだが……』


 またしても、頭に直接話しかけてくる。だけども変だ。その声は、どう考えても男の人の声。


「イザイは、私ではありませんよ」


 今度は、ちゃんと耳に聴こえてきた声。赤ちゃんを抱いた女の人が、ニッコリ微笑みながら言った。


「マスターは、ほら、このお方です」


 抱いていた赤ちゃんを、私に見えるように向きを変えた。




 その、澄んだ曇りの無い眼差しを見た瞬間に、私は悟った。


『カレ』こそが、イザイなのだと。



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それでも私は生きていく 水月美都(Mizuki_mito) @kannna328

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