第145話 俺、発見さる

喫茶『創造してごらんなさい』の控室に響き渡るアマテラスの声に俺は一瞬で落ち着きかけていた気持ちを吹き飛ばされた。


「どどどどうした!?」

俺が慌ててアマテラスの様子を見るとアマテラスはすごい勢いでパネルを操作していた。


「なんでなんでなんでなんでなんでなんで!?」

アマテラスがどう考えても危険しかないつぶやきを繰り返しながらパネルを凄い速さで操作している。


俺とマスターは何が起こっているのかと固唾を呑んで見守っていた。

「そっか!!そう言う事かあ!」


アマテラスがそう言った瞬間、モニターにはちょっと見覚えのあるエージェントらしきキャラが現れた。


「気づくのが一足遅かった様ね!ようやく見つけたわよ!!」

そのキャラはそう叫ぶと自身の周りにパネルを展開しはじめる。


「まさかそんなルートがあるなんてずるいよ!あと少しなんだから邪魔はさせないよ!!」

「そうはいかないわ!おとなしく投降しなさい!」


アマテラスはそれに対して思いっきりアッカンベーをして返した。

「ふーんだ!何が目的か知らないけど、国之さまと別れるなんて絶対ヤなんだから!」

「っく、高々一般端末がなんてしぶといの!いい加減あきらめてワールドを引き渡しなさい!!」


しばし呆然と見ていた俺は、ワールドを取り上げられると聞くとハッと我にかえった。


「ちょっと待て!!なんで俺のワールドが取り上げられないといけないんだ!?」

「このワールドは統治機構が管轄すべきワールドとしてチェアマンAIから指示が出てるのよ!」


「はぁ!?なんでゲームのワールドが世界統治機構で管轄されないといけないんだよ!?」

「そんなのあなたの知る必要の無い情報です!」


いやいやいや!!これ俺のワールドだぞ?俺がこのワールドの創造主だぞ?

なんで勝手に持ってかれる事になってんの?


「そんな横暴まかり通るはずないだろ!?俺がスコア支払って手に入れた俺のワールドだぞ?」

「はいはい、そのスコアは補償されるから。てか集中してるんだから黙ってて!!」

「国之さま!もっと言ってやって、こんな話しかけられる位で集中力切らす様なへっぽこAIなんて返り討ちだよ!!」


アマテラスの言葉は何か触れちゃいけないものを刺激したらしい。


「ななな!なんですって!!あんた絶対服従させる!しっかりと服従させてそのワールドとの媒体者としてこき使ってやるんだから!!」


俺はしっかりとアマテラスの発見に乗る事にした。

「アマテラス!そんなバックを笠に威張り散らす二流AIに負けるんじゃない!俺のワールドは絶対に渡さないぞ!!」


「ぐぎぎぎぎぎ!!ぜっっったいに許さない!!物理アドレス探し出したら部隊突入させて牢屋にぶち込んでやるんだから!!」


「ひぃ!?」俺は善良な一般市民である自分の立場を思い出した。


「ベーだ。あなたにはもう外部アクセスはさせないよ!とっくに論理ケージにインプリズンされてるから!」

「あぁぁ!!いつの間に!?こんのコシャクなコシャクなコシャクなああぁぁ!!」

「よ、よし、いいぞアマテラス!そのまま一切の証拠を隠滅するんだ!!」


善良な一般市民らしからぬ言葉を吐いている俺の肩に手が置かれた。

「ふぉ!?」


驚いて肩に置かれた手の方向を向くとそこには今まで置物だったマスターが立っていた。も、もしかしてこれは、ま、まさかの裏切り!?


「常之ちゃん、ちょっといいかしら?」

「は、はいママ!!」

俺は弱々しく返事をしてマスターの顔を見た。


「あの子、知り合いかもしれないわ。」

「へ?AIの、お知り合い、ですか?」

全く別の方向の答えに俺は心底ホッとして気の抜けた声で聞いた。


「多分ね。ちょっと割り込んでいいかしら?」

俺の問いかけに頷くとマスターは俺に許可を求めて来た。

いや、別に構わないというかむしろ大歓迎というか、知り合いのよしみで是非ともどうにか助けてください!!


「ママ!お願いしゃーっす!」

俺は深々とマスターに頭を下げた。


「ねぇ、あなたクロートー?」

その呼びかけに世界統治機構のAIは驚いた様にマスターの顔を見た。

そしてしばし互いを見合った後で口を開いた。

「誰?」


しばしの沈黙がつづいた。

その間にもアマテラスとクロートーと思われるAIはパネルを拘束に操作し続ける。


「いや~ね~、私よ私♡」

くじけずマスターは自分主張を始めた。というか名乗るべきでは?


「いや、全然見覚えが無いんだけど?」

全く記憶の片鱗すら思い出せないとクロートーは首を傾げる。

当然の成り行きに俺は腕組みしてうんうん頷いた。


マスターはやれやれと言った風に肩をすくめるとようやく名乗りを上げた。

「んもう!ホンっとつれないんだから。築城世よ、築城世尊つきよみこと!」


その名前を聞いたクロートーは改めてマスターの顔を観察し始める。

そしてしばらくして「はーぁ!?」と盛大に声を上げた。


「はあ!?はあ!?はああぁぁぁ!?んなのわっかるわけないでしょ!!!」

クロートーはバン!とパネルを叩いた。


俺はそれを聞いて本当に知り合いだったと知って胸をなでおろした。

それにしてもマスターの本名が尊だったとは。

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