第141話 偶然の結末
魔王はメリカン合衆国のロスアンデルスに降り立ち、物珍しそうに周りを見渡した。
そこには未だかつて見た事の無い高さの建築物が列をなして並んでいた。
広い道には色とりどりの車輪のついた箱が走っていた。
2時間以上前に避難警告は出されていたが、そんな短い時間で都市の住民全員が逃げ出す等到底不可能な事だった。
魔王は走っている一つを持ち上げると中には人間が入っている。
「おお、馬も無しに走る馬車か。これは興味深いな。」
そう言って魔王は車を投げ捨てた。
高層の建築物からは大量の人がまるでアリの様に這い出てくる。
「これだけの人間共が集まる街というのは見たことがない。それに、こんな高い建物を壊すのは初めてだ!」
そう言うと魔王はまるで積み木を壊す子供の様に楽しそうにビルの一つを削り取った。その程度でビルが壊れない事を見て取った魔王は、右手をかざして魔法を放つ。
光線の様な魔法は手の動きに合わせてビルを横に切った。
近くの魔物も巻き添えをくていたが魔王はそんなことは気にしない。
間の抜けたビルは落下の衝撃と自重に耐えられず砂が崩れる様に潰れていき、途中で隣のビルにのしかかる様に衝突して止まった。
「おお、これは面白い。」
魔王とその配下は思い思いに街を壊し始めた。
人の避難もままならず魔物の侵攻を受け、ホワイトガーデンは紛糾していた。
国民が逃げ切っていない街の中でミサイル兵器を使用すればどちらの被害が大きいか比べようも無い。
戦車が行こうにも街を出ようとする車の渋滞で街の中に入る事は不可能だった。
先行したヘリ部隊が端から魔物を倒そうとガトリングガンを回すがミサイル使用の許可はまだ出なかった。そうこうする内にヘリが落とされ始める。
「もうロスアンデルスはダメだ!ミサイル攻撃の許可を!!」
「まだ国民が沢山残っているんだぞ!?」
「このままでは結果は同じだ!大統領ご決断を!」
大統領は意を決してミサイル使用の許可を出そうとしたところへ、国防長官が予想もしなかった発言をした。
「おそらく現在の状況では通常兵器による爆撃だけで奴らの排除は難しいでしょう。一匹ずつの排除をしている間に次の街へ移動される可能性があります。」
確かに街に降り立つ魔物の数は膨大だった。それを爆撃と個別攻撃で全滅している間に別の街に逃げられたとすると、被害が次々と広がっていく事になる。
「それは!?」
「いやいや!ありえんでしょう!?」
「だがしかし、被害が拡大する可能性が高いのも事実。」
ひそひそと話す首脳陣の指し示す事は一つだ。
大統領の頭には決断の為の思考ではなく恨み節が渦巻いていた。
なんで私の時にこんなことが。前大統領のトランペットの時にこそこういう事態が起こるべきだったのだ、と。
しかし、そんな事を考えていても事態は一向に改善しないのは目に見えていた。
今大統領に求められるのは決断だけだった。
最早場の空気は大統領に一つの答えを求めていた。
大統領は震える事で話し始める。
「モンスターを、ロスアンデルスから、出す、事はゆる、され、ない。」
心臓は早鐘の様に打ち、乾いた口は上手く動かない。このままでは心臓発作になりそうだったが、むしろそれは望むところであった。
部屋の中は大統領の続く言葉を待って静まり返っていた。
大統領は自分の胸を掴む様にして続きをしゃべろうと口を開ける。
「かはぁ、はあ、はあ。私は、私は、メリカン合衆国、存続の為に―」
ダメだ、続けられない。本当にこれを口にしていいのか?
誰かほかの手段を提案してくれないのか?
爆撃からの地上部隊投入でなんとかならないのか?
なんど見回しても彼らの求めている事は一つだった。
例えどちらを選んでも歴史には不名誉な名前の刻み方をするだろう。
大統領はそう考えて、深く呼吸をした。
「ロスアンデルスに、核を使用する。」
その言葉に全員が黙って動き始めた。
その中には親戚や家族が住んでいる者も居たかもしれない。
大統領の友人も何人かそこに住んでいた。彼らは無事に逃げているだろうか。
その頃、空軍は別のプロジェクトも独自に実行していた。
特殊偵察部隊が発見した魔王城に無数のバンカーバスターを打ち込んだのだ。
これは、核では魔王城付近の部隊が距離を取れないための次善の策であった。
その結果、魔王城は倒壊し、玉座の間にあったクリスタルと魔王とのつながりが断ち切られた。
それに気づいた魔王は急遽退却をしようとしたが、投下された2発の核により遂に完全消滅させられたのだった。
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最早見慣れたきのこ雲を目にしながら俺はちょっと固まっていた。
まさか自分の国に核使う事になるとか考えなかったよな。
「あれ、勇者が街に降り立ったらどうなるんだろうな?」
「さぁ。やっぱ魔王は発想が違うしねぇ。」
なんにしても結構ハラハラした戦いだった。
「今後、あんなのと戦うんだとするともう少し時代進めた方がいいのかね?」
「そうだね。
そう言う事で俺は『予知』をアマテラスに全て渡して早速一回使ってみる事にした。
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