第140話 それぞれのターゲット

核で一度消滅させられた魔王は表の怒りとは裏腹に逡巡していた。

あれほどの威力の攻撃は未だかつて受けた事がなかった。


魔王はあっという間に奥の手を使わされてしまった状況をどう受け入れればいいのか考えを巡らす。


彼が死んだ場合に発動する局地的時間逆行の魔法は局地的とは言えかなりのマナ量を必要としている。そしてマナは魔王城のクリスタルにため込まれており、常に魔王へマナの供給を続けていた。そのマナの40%が消費されてしまったのだ。300年コツコツと貯め込んだマナがあっという間に残り60%だ。


復活できるのは後一回。三度目を喰らえば一巻の終わりだ。

どれだけ魔法防壁を堅くしてもあれは防げない。


割に合わねぇ。


ふと魔王の頭にそんな言葉がよぎった。しかし、この戦いは割の問題ではない。彼はそれも良く理解していた。


選択肢は?

引き返す?街に特大魔法を打ち込んでやり返す?


引き返して引き籠っても事態は変わらない。しかし特大魔法でやり返しても同じ魔法を撃たれればこっちの被害の方が大きい。


そこで魔王は人間の特性を思い出した。

奴らは同族同士で殺し合いはするのに他種族からの攻撃には結束が固く弱い者を庇うのだ。特にあのレベルの魔法を使う人間はその傾向が強い。


つまり一度街に入ってしまえば街を巻き込んで魔法を使う事はできないだろう。

そう考えて魔王は即座に号令した。


「皆の者!あの街へ突撃だ!!」


先ほどの攻撃で空に居た1/3の魔物は消滅していたが、数はまだまだ十分だ。

あちらの攻撃も継続的に行われているが、あの攻撃を見てからでは全く痛手に感じない。


魔王は飛んでくる柱を平然と防ぎながら街へ向けて移動を開始した。



一度進軍が止んだと思ったメリカン合衆国の面々は、まさか復活するなんて事は考えられず、再度進軍が開始されたことに慌てていた。


「おい、あちらのボスと思われるモンスターは殺せたんじゃないのか!?」

「それが、類似の個体が再度現れてこちらに再度進軍を開始しました!」


「どういうことだ!?」

「分かりません!指揮個体が殺されると次の指揮個体が生まれるのかもしれません。あるいは遠隔操作されている幻影なのか・・・。」


「そんな事はどうでもいい!再度核を投下するんだ!」

「ダメです、もう核使用のセーフラインを突破しました。今使うとケリホーニャ州の20%を巻き込んでしまいます!奴等ロスアンデルスに向かっている様です!」


周りで喧々諤々としているという時に、事務次官はハリウッドに行ってくれれば映画が一本撮れておあつらえ向きだと考えたが口には出さなかった。



その頃、魔王城を探しに向かった特殊偵察部隊チームブラボーは島の更に奥へと進んでいた。


彼らはモンスターとの闘いで殺されたナッツを埋葬し、隊長の応急手当してから任務遂行の為に先へと進んでいた。彼らはミッションの遂行が絶対であり、引き返す事ができない。


隊長は自分を置いていく様に指示を出したが、メンバーはそれを受け入れない。

何せ魔法の国かと思っていたのが魔法を使う魔物の国なのだ。こんな所に置いて行って生き残る可能性を彼らは考えられなかった。


メンバーは強度のありそうな木を切り倒し、ジャケットの袖を通してタンカーを作り、体調を運びながら進んでいった。隊長はその上で再度気を失っている。


途中、彼らは何度か走り去るモンスターの群れを目撃したが、群れは彼らには目もくれず走り去っていった。


それから更にしばらくすると島の霧が晴れて来ていた。

それは魔王の消滅が関係していたのだが、チームブラボーのメンバーはそんな事知る由もない。


彼らはこれはチャンスとばかりにドローンを飛ばし、周囲の偵察をすると遂に目標と思われる異様な建物を発見したのだった。

距離にして約15km弱。ドローンを飛ばすには遠すぎるため、彼らは再度歩き出す。


「なぁ、霧が晴れてるんだが、これ見つからないか?」

「そうは言っても、隠れる場所も無いしな。」


先行するブライアンとマイクが周りを見回して言った。

霧が晴れるとそこは赤肌の土の上にたまに岩がある程度で、見晴らしの良い荒野だった。


「あいつらここで一体どうやって暮らしてるんだ?」

「さぁな。意外とこの赤い土、美味いのかもしれないぜ?」


そんな軽口を叩きながらも警戒して進んでゆく。

しかし、風の音しかしないその空間は妙に静まり返っている様に感じた。


そこに突然のノイズ音と共に声が聞こえた。

『-い、こちら--リー、誰か聞こ-たら-事をし--れ。』

慌てた様にジェイミーが無線のマイクを取ってしゃべりかける。

「こちら―ブラボー!こちらブラボー!かなりノイズは入るが聞こえている!」


通信ができる様になった事でメンバーから歓声が上がった。

それから彼らはターゲットを見つけた事を報告し、航空偵察部隊と連絡が取れるかを試して見る事を伝えて通信を終えた。


そして遂に、彼らは魔王城に近づきながら、高高度を飛ぶ偵察機にターゲットの位置情報を伝え、ミッションを完了させた。


彼らに救援はなかった。

どうにか自力で島から脱出する、それが彼らの次なるミッションとなった。

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