第139話 魔王の蒸発

魔王は敵の素早い反応に関心していた。

まだ海の半分を行ったかどうかという所で例の細い柱がこちらに向かって飛んできていた。


しかし、そんなものを気にも留めず魔王は直進した。

たまに魔王の魔法防壁に当たって爆発するが、魔王の防壁は全く衰える様子もなく魔王を守り続けている。

続く魔物もそれに倣い次々と撃ち落されながらも魔法防壁を張りながら続いた。


そして海の魔物の中には空母と遭遇する者が現れた。

あまりの魔物の多さに距離を取って攻撃する事ができなくなっていた。

彼らの進軍の幅は100kmを超え、その幅も10kmに渡っていた。


大小入り混じりながら進む魔物の津波に大凡でもその数をあげられるものはいなかっただろう。出会う船は次々と沈められ、発進した戦闘機の中には帰る空母を無くして本土に飛ぶものも出て来ていた。



メリカン合衆国のホワイトガーデンでは誰もが次々と送られてくる被害報告を顔を蒼白にしながら聞いていた。相手も数を減らしているはずなのだが、あまりの敵の数にその様子すら見えない状態であった。


その中の一人、統合参謀本部議長がはたと気付いた様に叫んだ。

「早く!早く核で攻撃しなければ!!このままでは国土を巻き添えにしないと打ち込めない状況になってしまいますぞ!」


その言葉を聞いて黙って報告をただ受けていた全員が意識を取り戻した様にざわつき始めた。高齢な大統領も声を張り上げる様に叫んだ。


「核だ!核を撃つぞ!!」


それからものの数分でプロトコルは実施されようとした。


しかし、近距離を打てる様な核は既に全廃されており、距離が近く、移動する標的を狙い打てる様な核兵器は用意されていなかった。


現場は混乱していた。

ホワイトガーデンも同じく混乱していた。

核爆弾なんぞミサイルで飛ばせばいいもの程度の認識で射程距離については深く認識していなかったのだ。しかしミサイルは魔法ではない。


「くそっ!戦術核廃止なんぞしていなければ!!」

「何か、何か手はないのか!?」

「ディプレスト軌道で打てないでしょうか?」

「ダメだ。プログラミングする時間がない!」


核は爆発までの目標設定から軌道計算、ロケット分離タイミング等が全て設定されているが、それを想定距離未満で設定するのはかなり厳しい。

というかそれができるなら、そのミサイルは戦術核だ。


残る手段は爆撃機での投下攻撃だった。


統合参謀本部に核投下準備の指示を出し、大統領は改めて作戦の実施を指示した。こうしてプロトコルは完了し、空軍基地にスクランブルが発動された。


それから20分という短時間で核を搭載した戦闘機が2機、空へと飛び立った。



そのころ魔王はメリカン合衆国を目にしていた。

海岸線からの距離約100km、未だ魔王の魔法範囲には届かず、相手のミサイルが彼の配下を次々と屠っていた。


流石の魔王もその鬱陶しさには辟易としていたが、魔王の周りには盾になろうと、無数の魔物が警戒を続けミサイルが飛んでくれば身を挺してそれを受けた。

魔王は自分の盾として倒された配下のおかげで浮いたマナを注ぎ込んで敵国を沈める気で大陸へと近づく。


そして徐々にその陸上が見えてくると一言漏らした。

「なんと広大な・・・。」

彼のいる高さではその大陸の全容を目に入れる事はできなかった。

そしていくつか見える都市のどれもが自分達の世界の王都よりも広大な面積を有している。


それは当然にしても遠目の魔法で一つの都市を観察するが城らしきものが全く見当たらない。


「これは、一体どの都市が中心か判らんな。」

魔王が打ち込める特大魔法は精々が2発と言ったところだ。


彼はひとまず一番手近で大きな都市に攻撃を加える事にした。


その時、大きく空気を震わせた音を立てて一つの飛行物体が飛んできていた。

それは今までの柱とは異なる形状をしており、彼らのはるか上を飛行している。

そしてそれは何かを数個落として行った。


それはどうやら柱の一種の様だった。


そしてその数秒後、大きな光が発し彼らを飲み込んだ。

それは魔王も今だかつて経験した事がない程のエネルギーを発し、魔王の魔法防壁を次々と破壊していった。


そして遂に光が魔王に襲い掛かる。

その熱量は魔王を何以下考える間も無く一瞬で蒸発させた。


光りがやむと黒い帯にそこだけ丸くくりぬかれた様にぽっかりと穴があいていた。


「ま、魔王様!?」

アーギラが叫んだ。

ギグラスも驚愕で目を見開いていた。

誰もが次の判断ができずに固まっていた。


メリカン合衆国のホワイトガーデンでは指令系統と思われる箇所への核投下が完了し、想像通り魔物の動きが止まった事が報告されていた。


これで戦いは終わったかに見えた。

しかし、丸くくりぬかれた穴の中に一か所だけ黒いシミの様なものが徐々に大きくなっていた。


魔物たちが恐る恐る近づくとそれは更に形を成し、魔王の姿を形作った。


「ま、魔王様!?」

アーギラが叫んだ。

ギグラスも驚愕で目を見開いていた。

誰もが次の判断ができずに固まっていた。


メリカン合衆国のホワイトガーデンでは誰もが喜び合い、掃討作戦への移行指示が出ていた。


「俺が一瞬で・・・許さねぇ。許さねえぞおおおおお!!!!」

魔王が空を震わせ、海を荒れさせる程の声で吠えた。

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