第137話 キャッスル戦の魔王

特殊偵察部隊チームブラボーが戦闘していた場所からわずか25km離れた地点にまるで大きな岩から削りだした様な無骨で粗削りな城があった。

それは正に特殊偵察部隊が探している敵の本拠地、魔王城であった。


高さはわずか20m程度でその高さを補う様に縦横に広い。

また、外側の回廊型の建物と内側の本丸で構成されており、ダンジョンとしての攻略難易度はけた違いであった。


魔王の国とは魔王が国であり、魔王のいる所が国家中枢である。

そのため魔王の討伐は必須でありキングダム戦では無類の強さを誇っていた。

無論魔王はそんな事は知らないし気にもしていない。


魔王は人と比べるとかなり巨大な玉座に腰を掛け、空間に浮かぶ映像を見ていた。

リザードマンとして生まれ幾多の戦いと殺戮の果てに強大な力を得た彼は、ただその力を振るう為に侵略し、奪い、破滅させた。


彼の世界で彼を止められるものはおらず、気まぐれに人の世界に赴き配下を召喚し、国々を蹂躙しては引き返す。そんな生活を楽しんでいた。


しかし今、気づけば全く知らぬ世界に国ごと連れ去られ、そして敵を倒せと言われる。魔王は指図されるのを好まなかったが、それでもそうすべきだと考えた。

魔王は先ず自らの力で瘴気を発生させ、自らの国を囲った。


この瘴気は体内でマナと結びつき、どんどんとマナを浪費させ力尽きさせるという絶大な能力を持っていた。そしてこの瘴気によって多くの勇者パーティーが魔王にたどり着く前に倒された。


そして小手調べの配下による怒涛の攻撃。

良く知らぬ相手と戦う時に使う彼の常套手段だった。

魔王は決して弱いわけではない、しかし厳しい争いの世界で生き抜くために一番有用な戦術を身に着けていた。それは用心だ。


相手の技を知れば対処ができる。

配下の派兵はそのための囮だった。


彼は腹心の部下から送られる映像を食い入る様に見つめていた。

それは全く見たこともない戦いだった。

至る所で爆発が起き、海でも空でも配下が吹き飛び、数を減らしてゆく。

魔法防壁を張っていてもその威力から防壁は剥ぎ取られ、余波で殺されていた。


「おぉ。」

魔王は上級の魔物が跳ね飛ぶたびに映像に見入った。


「あれは何だ?威力は上級魔法かそれ以上だが、的を追いかけている時は細い柱だ。どれだけの威力なのか・・・アーギラに喰らわせてみるか?」

誰もいない玉座の間で魔王は映像を送っている腹心に威力の確認をさせようとしていた。


戦闘状態に入ってから1日近く経ったが派兵した群れの7割は海の藻屑と消えており、敵の国には上陸できそうもなかった。


だが、どんな状況であれ魔王の命令は絶対。魔王が新たな命令を出さない限り、彼らから撤退や別の作戦を求める様な事はない。なので彼らはそれこそ闇雲に上陸を目指して進んでいた。


その中で腹心の部下であるアーギラはミサイルを避けながら、時に味方を盾にしながら上手い事生き残っていた。

彼と同等の力を持つ者が3体いるが、その3体は映っていなかった。

だがその3体も当然生き残っている事だろう。


「これは、負けるな。それは別にいいとして、最大威力は知っておきたい所だ。やはり誰か受けさせるのが一番判りやすいな。」


そう決断を下すと魔王は早速アーギラに連絡を取った。


『おいアーギラ、一発受けて見せろ。』

『魔王様、これは自分では結構厳しいかと。筋肉バカのギグラスならどうでしょうか?』

『ああ、それでいい。しっかりその目で見定めろ。』

『承知しました。』


アーギラは返事をすると1体の魔物に近づき話しかけていた。

二足歩行のカバに羽を付けた様なギグラスが移し出され、少しイヤそうな顔をしながら頷くと、映像に背中を向けて進んでいく。

そして飛んでくる細い柱に向けて魔法防壁を展開して真正面から受けた。


ミサイルは爆炎を発してその衝撃を魔法防壁に与えたがギグラスの防壁は見事その攻撃を受けきった。しかし、防壁もほぼ消滅している様だった。


『おい、遠すぎるぞ!もっと近づいて見せろ!!』

魔王がその判別の付かない映像にクレームを入れると一瞬、ほんの一瞬の間を置いてアーギラが返事をする。

『承知しました。』


映像はギグラスに近づき、何か話しかけた様でこちらを向いたギグラスの顔がみるみるイヤそうになるのが分かった。


「ぶはははっ!!」


魔王はそんな顔をしながらいう事を聞く彼らが大好きだった。

魔王によってどこからともなく召喚され、彼のいう事をどれだけ嫌な事であってもやり通す忠誠心を感じると彼は魔王である至福を感じる事ができた。


そんなことを考えている間にギグラスがもう一発のミサイルを受け、アーギラがその威力に少しのけぞりながら映像を魔王に送っていた。


魔王はその結果に満足して頷くと優しく二人に声を掛けた。

『いいぞぉ、流石は四天王だ!あと下の方から飛んでくるもっと太い柱があるだろ。次はそっちを受けろ。』

彼は映像から複数の太さの柱が飛んでくる事を知っており、ギグラスがその中で一番細い柱を選んでいる事を知っていた。


それを聞いて二人は何か真剣に話しあっている様だったが、まとまったのか返事が返ってきた。


『魔王様。あれを受けるのはギグラス一人では厳しいと思われます。私と二人で受けるのではいかがでしょうか。』


多分映像を送るためにはアーギラも結局近くにいる必要があるため、二人で受けるのが生き残る道と考えたのだろう。なかなか知恵を使いやがる。愛い奴め。そんな事を考えながら魔王は承諾した。


彼らは必至の様相でどうにか魔王ご所望の柱を防ぎきり、弱り顔で魔王の要望を満たせたかを確認した。


『うむ、ご苦労だった。お前たちの素晴らしい力を誇りに思うぞ。』

魔王は心にもない言葉で二人をほめたたえ、群れの帰還を命じた。


撤退する彼らを黙って送り返すはずもなく、追撃を受けながら、四天王と僅か1割ほどの魔物が帰り付いたのだった。


「さて、どうするかな。」

改めて魔王は真剣に考え始めた。

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