第136話 魔物との闘い
特殊偵察部隊チームブラボーが集落からどうにか距離を取り、一息入れようとすると、頭上から何か甲高い音が聞こえる。
彼らが上を向くとそこには一人の羽を広げ、腕組をした男が浮かんでいた。
そう、その男は羽は広げているが、羽ばたいているのではなくただ浮かんでいた。
これが魔法か、とマイクは心の中で納得した。
彼は申し訳程度に腰に布を巻いているがそれ以外は何も身に着けていなかった。
しかし、先ほどのクリーチャーと違うのが髪の毛が生えている事と、羽を除いた全身が人のそれということだ。そして何より大きかった。
空に浮いていてもその大きさは感じられ、目測で3mはあると思われた。
その男は何かをこちらに伝える様に口を開いているようだが、彼らには全く何を言っているのか通じない。そもそもが人が出せる様な音でもないので、それが声であるという認識すら困難な状態だ。
ただ一点判るのはその男が彼らの敵であるという事である。
まるで生れながらに備えられた本能の様に相手に対する敵意が沸いてくる。
彼らは即座にアサルトライフルを構えてその男に照準を合わせる。
それを見て男はフンと笑う様に鼻を鳴らすと勢いをつけてこちらに飛んで来きた。
「撃て!撃てぇ!!」
隊長の掛け声で6人が一斉にアサルトライフルの発砲を開始する。
6人とその男の距離は既に50m程。彼らはその訓練された精度を見せつける様に男へと命中させていく。しかし、それらはまるで男の前に見えない壁があるかの様に弾かれ火花を散らしている。
「くそ!隊長!効いてません!!」
「避けろー!!」
右手を振りかぶって突撃してくる男を避ける様に6人は散り散りに走った。
そこへ大きな衝撃音がし、地面に拳を突き立てた男がいた。
「ナーッツ!投げろ!!」
ナッツはすぐに腰裏に装着している手榴弾を取り出しピンを引いて、1秒後に投擲する。
「フラグアウトォ!」
ナッツの掛け声に全員が身を屈めヘルメットで目隠しをする。
男はその掛け声と投げ込まれた黒い玉を見てそれを手づかみした。
その瞬間手榴弾が爆発し、男の腕を吹き飛ばした。
「ガアアアアアアァァァァ!!!!」
悲鳴はどの世界でも共通か、そんなことを思いながら隊長は指示を出す。
「距離を取って広がれ!」
彼らは後退しながら扇状に広がり再度攻撃を開始する。
ルイスは更に下がって別のドローンを取り出すと手早く発進させた。
男はその場に腕を抱えて蹲っている。
心なしかバリアが弱まっている気がする。
そんなことを考えていると男はやおら大きく跳躍した。
そのスピードはその巨躯からは想像のできないものだった。
男はナッツの目の前で着地すると残った右手を振りかぶった。
「うああああああ!!!」
「オオオオォォ!!」
ナッツの悲鳴と男の咆哮が重なる。
恐怖のあまりナッツはアサルトライフルを拳を遮る様に頭上に掲げた。そこにソフトボールよりも大きい拳の圧がかかりライフルが頭を押し込み、ヘルメットを滑って後ろ首を捉えた。そしてそのまま背骨に衝撃を伝え、膝を崩した。
それでも勢いは止まらず脊髄が潰れ始める感触をナッツは感じる。もちろんそんな感覚は知らない。知らないが腰上の痛み方で彼は確信した。更にその痛みは股関節を襲い、そして遂に頭が地面に到着し、そこでナッツの意識はなくなった。
「「ナーッツ!!」」
仲間の声は彼に届かなかった。
男の拳の下でナッツが土下座する様に崩れ、アサルトライフルに首を潰されて血を飛び散らして絶命していた。
隊長は迅速な判断を要求される。
彼はナッツの死を受け入れる前に精神の脇へ置き、即座に何をすべきか考える。
手榴弾は有効だったが、あのスピードで再度同じ事を期待するのは難しいだろう。
アサルトライフルは全然効いていない。しかし手榴弾が効いてアサルトライフルが効かない理由は何か。それは距離だろうか、それとも男の意識だろうか。
「ルイス!」
「オッケっす!でもあのスピードじゃ自信ないっす!」
「よし!俺が留めるからそこを狙え!!」
隊長は他のメンバーに手を振って前進を促し、自らも中腰でアサルトライフルを打ち込みながら前進を始めた。
あんなものを見せられれば当然か、他のメンバーは心なしか腰が引けていたが、どうにか前進を開始した。
男も既に立ち上がり弾丸を弾きながら次の獲物を吟味していた。
そして隊長と目があった。隊長はそれも当然だと納得した。集団の頭と言うのはだいたい一目瞭然という事だ。
そう思った時には既に敵は跳躍していた。
隊長は発砲を止め、腰に付けていた手榴弾を二つ取り出した。
彼は冷静だった。相手の全てのモーションが判る。自分の動きがもどかしい。
それをどうにか言う事を聞かせる様に彼は横に転げ第一撃を避けた。
そして既にピンを抜いた手榴弾の一つを男の裏に転がした。
「フラグアーウッ!!」
その声からほんの一瞬の間を置いて爆発が隊長と男を襲う。
拳を地面に突き立てて屈んだ男の影とは言え手榴弾の破片は伏せていた彼のヘルメットと肩にも当たって来た。
「グガアアァ!!」
男はうめき声をあげながらも隊長を睨みつけるとすぐさま拳を振り上げた。
「ルーーイス!!」
隊長は横に転がりながら立ち上がり拳を避けようと動きながら叫んだ。
このタイミングならドローンで完璧に攻撃を入れられる。
しかし反応がない。
ルイスの方に目を向けると彼は動けないでいる。
直ぐ脇で破片が飛び散り拳が地面に突き刺ささる。
これ以上避け続けるのは困難と判断し隊長は即座に手榴弾のピンを引き、左手で握り込んで、振り向きざまの男の口へと突っ込んだ。
手を引き抜こうとすると前腕が万力の様に締め上げられる。
激しい痛みが彼を襲うが、更に男の手が隊長を掴もうと迫ってくる。
隊長には最早逃げ道が無かった。
彼は絞殺されることを覚悟して腕の動かせる範囲で男の懐に潜り込む。
そして隊長の身体に男の腕が振れた瞬間爆発が起こった。
声も上げずに男の頭は吹き飛んだ。
「ぐぐぅぅ。」
隊長がうめき声を上げて、弛緩してもたれかかる男の身体から抜け出す。
そして全身を血みどろにして崩れ落ちた男の身体の横に倒れ込んだ。
メンバーが彼に走り寄り、手際よく止血を始める。
隊長は泣きそうな顔をしているルイスに気にするなと手を振ってから意識を失った。
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