第135話 未知との遭遇

特殊偵察部隊チームブラボーが上陸してから二日が経過した。

その間、未知との遭遇も無く代り映えのない濃い霧の立ち込める森のなかを進んでいた。


この森に動物らしい動物が全然いなかった。

これだけの植生がありながら鳥の声一つ、ネズミの物音一つしない。

それどころか虫一匹いない可能性すらあった。


それに加えて判ったことはこの霧の中ではチーム内での通信は8mが限界で暗視ゴーグルは役に立たないという事だった。

何らかの電波妨害の機能があるのかそれらの伝達距離は非常に狭かった。


そうなるとこの霧が単なる水でない可能性が高いのだが、いかんせん何ともし難く、体調の変化も特にないため彼らは口に布を巻いて精神的不安を少し軽減してそのまま進んだ。


と、突然霧が晴れた。

一瞬彼らは見通しが良くなった事に眩暈を感じた。

先ほどまでは木々の生い茂る森の中だったのだが、そこは赤土の地肌が見える荒野だった。周りには遮るものが無く、ただただ広がる赤い荒野が広がっていたのだ。


空を見上げると厚い雲に覆われていた。

霧を抜けたから気づかなかったが、荒野は薄暗かった。


隊長はすぐに双眼鏡を取り出し、周りを観察した。

しかし、多少の岩があるだけでどこを見ても荒野だった。

これだけ見晴らしがよければ隣を移動するチームが見えても良さそうだがそれらしき影もない。


なんどか見渡していると彼は一つの小さな影を見つけた。

それは岩にしては整い過ぎている。


「ルイス、ドローンを飛ばしてくれ。ここから1時の方向だ。」

「了解っす。」


ルイスは返事をすると素早くドローンの準備を始めた。

それは4つのプロペラを持つ折り畳み式の物で携帯用偵察機として開発されたものだ。


準備が終わるとルイスはすぐにドローンを飛ばした。

隊長はルイスと一緒にモニターを眺め、他の四人は姿勢を屈めて周囲を警戒する。


カメラアングルを進行方向に設定し、ズーム機能を使いながら影の方向に向かっていく。そして少し近づくとそれがレンガ造りの平屋である事が判明した。

それがぽつぽつと何件か建っている。


「集落?」

「集落だな。人はいるか?」


ルイスは音がバレない様にドローンをできるだけ上空に飛ばして集落をぐるりと見渡した。


「隊長!屋敷です、屋敷が一軒あります。」

ドローンのモニターには一軒の大き目な屋敷が映っていた。

「これがターゲット、のはずないっすよね?」

「相手は国家だぞ?流石にこの屋敷って事はないだろう。」

「っすよね。それにしても人っ子一人見当たらないっす。」


彼の言う通り集落はどこを見渡しても動いている者がいなかった。

「既に捨てられた集落なのか?」

隊長はそんな事を口にしてふと何か補給できる物がないかと考えた。


経験的にこの様な環境では水の入手が厳しい。

そうなると水を補給して運ぶものが欲しかった。


「行ってみる、か?」

隊長は独り言の様に呟いた。そして決心した様に頷いた。


「よし、みんな。これからこの集落に向かって水の補給とキャリアーを探す。」

「「「了解」」」


彼らはドローンを先行させ、集落へと進んでいった。

到着した集落は中世の村という感じだが、柵や囲いの様なものも一切なくただ建物が所々建っていた。


「そう言えばここ、畑とかないんですね。」

マイクがふと疑問を口にする。


確かにそうだった。


この集落には本当に建物が建っているだけで生活に必要と思われるものが一切無い様に見えた。周りを再度見渡すと、洗濯物を干す様な物干しもない、ぱっと見井戸も見られないように思えた。


「一先ず、この家に入ってみよう。」

彼らはいまさら腰をかがめ、家の窓に近づくとマイクが覗き込んだ。

カーテンも無いその窓から暗い中を見るが一見何も無い様に見える。


隊長の合図でマイクとナッツがドアの脇に立つ。

ナッツがドアのノブ替わりと思われる板に手をかけ、ゆっくりと音がしない様に少しだけ動かし、鍵がかかっていない事を確認する。


それからマイクに小さく頷き、準備ができた事を知らせる。

彼の後ろに隊長、ブライアン、ジェイミーの順で腰をかがめて待っている。


マイクはヘルメットに付けた暗視ゴーグルを下ろして視界に入れる。

そして一度フッと小さく息を吐くとナッツに合図した。

ナッツは小さく頷いてすぐさまドアを開けた。


マイクは自分が通れる隙間ができた瞬間に身体を滑り込ませ一瞬で部屋の中を見渡す。その瞬間、マイクは息もできない程驚いた。


彼の正面には今までに見たこともないクリーチャーが目を見開いて立っていたのだ。

それは、赤黒い肌で頭に小さな角を付け、こうもりの羽の様な羽に身をくるみ、下半身には山羊の様な毛で覆われていた。いや、見たことがあったかもしれない。何か映画で似たようなクリーチャーがいた様な。


かれはそんな余計な考えを振り払い後退しようとした。

しかし、後ろの三人もすでに侵入済みで帰り道は既に埋まっていた。


「キイイイィィィアアアアアア!!!」

クリーチャーが威嚇する様に声を張り上げた。

甲高くも野太いその声に彼らは一瞬怯むが隊長が声を張り上げる。


「撃てぇ!!」

言うが早いか隊長もアサルトライフルをそのクリーチャーに向けて撃ち始めた。

クリーチャーは次々と弾を打ち込まれ、肉片を散らしながらこちらへ手を向けてこようとする。


しかし、何発もの弾が頭に打ち込まれると両手を垂らして床に膝をついてから倒れた。彼らは全員肩で息をしながらしばらくそれを見ていた。


「隊長!他の家からなんか魔物が!!」

外を見張っていたルイスが慌てた様に建物に入って来た。

外ではナッツが向かいの建物から出て来たクリーチャーに向かってアサルトライフルを打ち込んでいる。


「っち、あれは合図か!」

隊長は舌打ちしてから全員がいる事をすぐに確認し、建物の外に出る様に合図をする。


一番外れの建物だったことが幸いして集落の出口は近かったが既に複数のクリーチャーが彼らに向かって来ていた。そのうちの一体が手を前にかざすとその手から火の玉が発生し、こちらへと飛んできた。


「避けろ!!」

後退しながら敵に牽制をしていたチームは左右に走り辛うじてそれを避けた。

彼らの後方で炸裂音がして、地面が少しえぐれていた。


「広がれ!広がりながら後退だ!!」

隊長の指示で全員メンバーから広く距離を取りながらどうにか彼らの追ってこない所まで後退する事ができたのだった。

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