第134話 特殊偵察部隊

魔王の国には6人編成の特殊偵察部隊が8チーム送られていた。

彼らの目標は敵の地理情報を取得し、場合によっては敵の本拠地の位置を探し出す事である。


敵地にはかなりの濃霧が発生しており、通信やレーダーに障害が発生していた。

そのため、敵本陣の方向は分かっても、その位置については探し出す事が出来なかったのだ。


飛行機による高度からの偵察で島の大きさはそれほどでもなく、縦120km、横63km程度と推測され、その結果、彼らは特殊部隊を敵本拠地のある方向に向かって幅約15kmのロードローラー作戦に出る事にしたのだ。


特殊偵察部隊は本国から小型潜水艦で送ってもらい、それぞれの上陸ポイントの近くでゴムボートで陸に向かい、そして敵の本拠地のあると思われる方向にそれぞれ探索する、というものであった。


彼らのボートには人数の割にそれなりの量の荷物が詰まれていた。


武器、弾薬などの戦闘装備は当然ながら、長期の偵察であるため食料ですらフリーズドライされたものがメインとは言え6kgあった。それに加えて水の確保が困難な状況の為に2Lのペットボトルの水も持っている。しかもこの水は非常用であり、水が確保されている限りは消費されないのだ。


最終的に彼らの装備は50kgを超えていた。その重量を身に着けて約10日間をこの島の探索で過ごす事になる。


本国では四足歩行のロボットをポーターとして連れ歩く案も出ていたが敵地での隠密行動であるという事で却下された。正直彼らの装備も隠密、と言うにはあまりにゴテゴテしており、敵が近くにいる時に隠れられるのか疑問がある恰好ではあるのだが。


彼らは船が浜に上がるとすぐに荷物をリレーして乾いた砂地に運び出し、形跡を減らすためにそのままボートを海に送り出した。そして各自の荷物を背負うとうっそうとした暗い森へと進んでいった。


森の中は濃霧もあってかなりおどろおどろしい雰囲気に包まれていた。

木には蔦が垂れ下がり、地面は湿気でぬかるんだ様に歩きづらい。

そして濃霧によってほんの1m先も見通せない程立ち込めており、木も蔦もわずかなシルエットでしか見えず、進む足を鈍らせた。


「ジェイミー、通信はどうだ?」

「こちらブラボー、こちらブラボー。誰か聞こえてたら返事を欲しい。オーバー。」

名前を呼ばれた男が通信機のマイクを手に取り、話しかけてみるが、しばらく待ってもなんの反応も返ってこない。


「ダメです隊長。ほんの2km隣のチームすら届いていないかもしれません。」

「っち、なんで霧程度でそんななんだ!」


隊長の舌打ちに他のメンバーも肩をすくめる。


「相手は魔法を使うらしいですからね。この霧もなんかあるんじゃないですか?」

「なんだ、ブライアン、お前魔法を信じてるのか?」

ブライアンと呼ばれた少しにやけ面の男にガタイのいい男が鼻で笑う。


「おいおい、マイク。そもそもこんな事態が魔法だってのにお前信じてないのか?」

それに対してブライアンがむしろ意外そうに質問した。

「っへ、俺はこの世界にワープしてから魔法の練習をしたが、な~んも起きやしなかったぜ。魔法が使えるなんざデマだな。」


それを聞いて全員が声を押し殺して笑った。

「マイク、誰もお前が使える様になるなんて言ってねぇよ。」

「おいおい、差別はいけねぇだろ。」

マイクはオーバーリアクションで不満を述べると左手をかざして力むふりをする。


それをひとしきり笑ってから隊長は手を振って全員に前進する様に促した。


彼らが浜から離れて5時間。似たような景色ばかりが続き、全くなんの進展もなかった。木々の陰に身を隠しながらの進行から、進んだ距離は高々知れている。

むしろなんの物音も聞こえず変化も無いため、自分達が本当に進んでいるかも怪しい。


彼らは一時間毎に通信を試みるが、それも更に虚しさを演出する作業だった。


隊長が手を挙げて全員に制止を促す。

「よし、メシにしよう。ブライアン、ナッツ、ルイス周辺警戒。」


名前を呼ばれた三名は「サー」と返事をして即座に動き出した。

彼らは腰のフックに紐を繋げてから銃を構えて三方向に移動を開始する。


「マイク、水を探してくれ。」

「サー。」


マイクはリュックの脇に付いていた折り畳みスコップを外すと、少し低地となっている所を探して穴を掘り始める。

湿地帯などで穴を掘り、しばらく放置しているとその穴に水がしみ出てくる。それをろ過して煮沸すれば安全に使う事ができる水が得られるという寸法である。


彼は水が出る事を確認すると、数か所で同じ様な穴を掘り始めた。


その間に周辺を警戒していたメンバーが戻り、安全である事を報告する。

それを聞いて隊長はジェイミーと作っていた即席のかまどへ火をつける。

周りの物は全て湿っているので、まずは燃焼材で一気に葉っぱと小枝を乾燥させながら燃料として燃やしていく。


その間に太めの枝も周りで乾かしながらくべていく。

それでようやく火が安定し始める。


休息を開始して既に30分が経過していた。

「くそっ!何もかも不便なところだ。」

「まぁまぁ隊長。水だけは確保しやすいんだから比較的恵まれてますよ。」


ろ過した水を鍋に入れながらマイクが応える。

彼は一度中東でほんの数日のレンジャー任務に就いたことがあったが、それは本当に地獄の様な体験だった。


「ホントだなマイクのご聖水を飲むのは勘弁だぜ。」

「っけ、そんな状態でお前にやるかっての。自分のを飲むんだよ!」

ナッツのジョークにわかっちゃいねぇと返しながらマイクはかまどに鍋を置いた。


それから彼らはどうにか温かい食事にありつき、再度進行を開始した。

探索はまだ5%も進んでいなかった。

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