第127話 受け入れられない事実
イルミスが目覚めると彼は何も無いむき出しの荒れ地に泥まみれで転がっていた。
彼が何かを思い出そうとすると、彼の許容量を超えた思いがフラッシュバックし、それを押しとどめようとしていた。
しかし、彷徨い歩く内に受け入れざるを得ない現実が徐々に彼の心に沁み込んでくる。街が砲撃された。騎士団が冒険者が砲撃された。そして最後に、彼のパーティーが砲撃された。
「もっと、もっと伝えたい事があったのに。」
彼は膝を折り、自分の手を見つめた。
彼の背後からまとわりついてきた炎がそのままメーシャを飲み込み、消えた。
炎は彼の視界から彼女を隠し、その最後の表情すら見る事もできずに彼女は消えていた。彼の握っていた手には何かの灰が残っていたが、それすら熱風で飛ばされた。
少し先で泣いていたエリミナも同じように炎に飲み込まれ消えた。
彼らを守ろうとしたガレスは声も掛けずに彼の背後からいなくなっていた。
勇敢で頼れる仲間が、なんの尊厳も無く、存在した形跡すら残さず消された。
彼らに伝えきれなかった感情が、わだかまりとなって彼の胸を圧迫する。
「あんなのが、人の死に方なのか?最後に語り掛ける事も許されないなんて・・・。語り掛ける死体すら・・・残されないなんて・・・。」
そして彼は同じように敵を葬った事を思い出す。
彼は思うがままに敵を葬った。いや、当たり散らす様に屠った。
まるで子供がままならない思いをぶつける様に、オモチャの兵隊を両手で弾き散らす様に、高ぶる気持ちのままに屠った。
そんなことをしても彼の心は一切晴れず、後悔でも、無念でもない、やるせない感情がくすぶり続ける。
彼は立ち上がり、空を見上げる。
今にも降り出しそうな黒く重々しい雲が一面を覆っていた。
「なんて、虚しいんだ。」
そうつぶやくと、彼はあてどなく歩き出す。
それはまるで迷子の幼子が帰り道を探す様に、とぼとぼとした足取りだった。
その頃、メリカン合衆国のホワイトガーデンは蜂の巣をつついたような有様だった。
艦隊からの連絡は途絶え、そして前線部隊からの連絡も続けざまに途絶えた。
交錯する情報の整理と指示だしに上の者も下の者もなく走り回り事態の把握に努めようとしていた。
彼らは通信回復の所定時間が過ぎた事を確認すると至急現地への偵察を指示した。
そして、その結果の報告は非常に認めがたいものだった。
艦隊が展開していたはずの海上には大量の残骸が浮かび、残存する船は一隻たりとも存在しなかった。航空偵察隊はそのまま本部に救援の依頼を出し、周囲をできるだけ探索した後、引き返して行った。
地上部隊も同様であった。
早朝の日の出を待ってヘリによる探索を開始したが、曇り空の下で確認できたのは焼き尽くされた塹壕と累々と横たわる死体で一目では生存者がいるのかどうかも判断できない状態になっていた。
街の上空やその先は死体すら見えなかったため少し視認しただけで、陣地のおかれた場所で応援を呼びながら必死に生存者を発見しようと目を凝らし続けた。
死体の多くは巨大な熱量で炭化され、少し離れた死体は撃たれて内側から焼き殺されていた。そしてそこにはメリカン合衆国の兵士しか存在していない。
それは正に虐殺の現場であった。
映像を送られたホワイトガーデンは報復に逸るメンバーとそれを落ち着かせようとして結局怒鳴り声を張り上げるメンバーの声で騒然としていた。
「こんな凄惨な現場は見たことが無い!!いったいわが軍のどれだけの兵士が殺されたと思ってる!?」
「そうだ!我々は住民の避難を促し、善良な戦争を心がけた!しかし奴らのやり口がこれだ。戦う者だけでは無く逃げる者も徹底的に、しかも一方的に殺されている!」
「我々はすぐに確認できている都市すべてに対し徹底的な爆撃を開始すべきだ!!」
「仰る事は解る!しかし、我々の犠牲は兵士だ、どんな形であれ一般市民を巻き込んで虐殺すれば彼らと同じではないか!」
「その通りだ。彼らがどのような手を使ったのかは未だに不明だが、我々はそれに対する対策をすべきで、住民を虐殺するなんて事に時間を使ってはいけない!」
戦場から離れたこの場では、冷静な者の意見は正論だった。
それでも収まりきらない報復派を見やりながら大統領特別補佐官がどうにか情報をねじ込もうと口を挟む。
「原因につきましては、通信記録によると空を飛びまわる光が次々と船を沈めたという報告が複数上がってきていました。それが何なのかは分かりませんが、報告された内容に加え相手の文明レベルと魔法がある事から何か特殊な力を持った生物であると推測されます。」
「それはなにかね?映画の様な超人だかクリーチャーが世界最強のわが軍の艦隊を潰したと、そういう事かね?」
「その可能性を排除する証拠はありません。更に驚くべきことに、艦隊個々の想定沈没時間と陸軍前線部隊の全滅は時系列で並んでいます。」
「それは、どういう事だね?」
その質問に対して少し言いにくそうに大統領特別補佐官は口を開いた。
「全て一人の人間かクリーチャーがやった、という可能性が高いかと。」
その言葉に場が更に騒然とした。
何か特別な兵器でもなく、軍隊でもなく、たった一人の人間が起こした惨事。
その可能性をどう取り扱うべきか誰もが判断しかねた。
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