第126話 解放された力

怒りに震える勇者イルミスはその怒りに身を任せて最早意識が無い状態だった。


砲撃開始から15分。

既に周りは何も残らない荒地にしか見えなかった。

しかし砲撃は未だ続いている。


イルミスは何かを探す様にゆっくりと周りを見渡す。

未だ上がり続ける爆炎以外何もない風景から、彼は何を探しているのか解らなかった。その朦朧とした表情は自分がどういう状況であるかを知ろうとしなかった。


それでも心のそこで、知らざるを得ない事を彼は認識していた。

それを拒む様に彼は空に吠えるとその力の全てを開放した。


そもそも彼には他の三人に比して突出した能力を有していた。

それでもあの三人と共に旅をしていたのは、彼らとの関係がイルミスの心の支えであったからだ。


そして彼は無意識の内に彼ら三人と連携する為に力をセーブした状態で戦っていた。そしてその状態がイルミスの認識する自身の実力であり、限界であった。


それは彼らが必要とされていると感じる状態を作るためであり、イルミス自身、彼らを必要とする状態を作るためでもあった。



なのでイルミスは、なぜ自分だけが生き残ったのかを理解していなかった。

今まで皆と同じ様に戦いで傷つき、そうである故にガレスに守られ、エリミナの治癒による支援で助けられてきたのだ。なので、彼だけが生き残って三人が死ぬ等という事は起こりようがなかった。


それは攻撃力についても同じだった。

イルミスはドラゴンに匹敵する強さは持っていても一撃で屠れるわけではなかった。

メーシャとガレスの援助を受けて初めて無事に帰ってくる事ができるのだ。


しかし、その制約は崩された。

本能が彼の身を守り、そして今、本能が彼の意識を容赦ない殺意へと駆り立てた。



彼は未だ飛んでくる砲撃とミサイルから方向を定め、そちらへと一直線に飛んでいた。彼の世界で初の飛行魔法だった。


そして、その膨大なエネルギーを発するイルミスは謎の飛行物体として船舶のレーダーに捕らえられていた。


「艦長!!未確認の飛行物体が高速でこちらに接近しています。接触まで63秒!!」

その言葉に艦長は即座に反応する。

「ファランクス用意!!」

「「ファランクス用意!!」」

艦内に復唱の声が響き渡る。


「ファランクスターゲット捕捉。」

「ターゲット射程に入ります!3,2、1」

「撃てぇー!!」


4門のファランクスがタービン音と共に高速で弾がイルミスに向けて発射される。

それを彼は弾きながら避けながら高速で戦艦に近づいていく。

その情報は艦隊全体に共有され、他の艦からも攻撃が開始される。


攻撃開始から6秒、乗組員が目視でそのエネルギー体を認識した瞬間、船は大きな衝撃を受けて傾いていた。

戦艦の腹部にはイルミスの纏うエネルギーによる熱と突撃による衝撃によって穴が開き、次の瞬間、燃料やミサイルに引火した爆発が起こった。


船はまるでオモチャの様に横に曲がり、乗組員の脱出する時間もなく爆発と浸水で沈んでいく。


それに目も向けずイルミスは次々と周りに浮かんでいる船を沈めていく。

大きい物から順番に、彼は笑いながら船をへし折り、穴をあけ、あるいは跳ね飛ばした。空母に積まれていた戦闘機は発射されるまでもなく折れた甲板に挟まれ、まるで怪物が飲み込んでいるかの様に潰され空母もろとも沈んでいった。


海には怒号と悲鳴が響き渡り、そして海に浮かんだ灯の様な火が徐々に海に飲まれて消えていった。


そして海に動くものが無くなると、イルミスは次なる目標へ向かうため、陸に引き返して飛んで行った。


空母1、戦艦2、巡洋艦8、駆逐艦31で編成されていた艦隊は30分も持たずに壊滅した。

本国への通信は途切れがちであり、その実態を知るのは捜索隊が派遣され、調査されてからであった。


地上では通信の途切れた艦隊と連絡を取ろうと必死に通信確立の努力をしていた。

彼らは艦隊からの砲撃が止んだことで街にはいるべきかどうか、判断できずにとどまっていた。

兵士の一部は明らかに瓦礫と化した街に警戒を緩めリラックスしている者もいた。


しかし、そんな彼らにも地獄が舞い降りた。

空に突然、光る物体が現れ、彼らの方に突撃してきたのである。


それは地上に居る兵士も車両も等しく焼き尽くしていく。

とっさの事に場は騒然としたが、各部隊の号令で彼らはその飛行物体に向けて攻撃を開始した。


しかし、戦艦からの砲撃もミサイルも効かない存在に銃弾やミサイルランチャーが効くはずもなく、まるで粉塵の中を走り抜けるかの様にうっとおしいといった程度の雰囲気で次対と焼き尽くして行った。


状況を理解した者はどうにか逃げようと走り出すが、そういった者にはそれこそ銃弾の様に飛ばされた火魔法で身体を貫かれその熱で内臓を焼かれて絶命した。


逃げ惑う人と、それを逃すまいと四方八方に魔法を放ちながら周りの全てを焼き尽くすその姿は何ものにも例えようも無く、ただただ地獄としか形容ができない。


そしてその全てを焼き尽くした事を見届け、彼は仲間の消えた場所へと戻って来た。

彼は周りを見渡し、やはり誰もいないのだと知るとそのまま倒れ込み気を失った。

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