第125話 勇者の覚醒

メリカン合衆国軍は不意の夜襲で大きな被害を受けていた。

僅か1000強の攻撃に対してメリカン合衆国軍2万の内、死者3000名、負傷者2000名とあり得ない損耗率である。

特に負傷者に対する死者数の比率は魔法の威力が一撃必殺であり、逃れるのが困難である事を示していた。


メリカン合衆国軍は正直敵を甘く見ていた。

最初の上陸戦の際も、第一都市を攻略した際も彼らは反撃らしい反撃を受ける事がなかった。敵は魔法が使えるとは言え近代兵器には勝てないと考えていた。

しかし、それは一部では正しくても、別の場合には間違えていたのだ。


彼らは至急本部へ連絡を取り、死傷者の搬送を依頼し、動ける者全員が救助と死体の回収をして周っていた。


兵士たちは仲間の死体を運びながらその惨状に怒りと恐怖を覚えた。

ある者は潰され、ある者は皮膚がただれ、別のある者は炭になっていた。

それらの死体を探し出せるだけ探し出し、一人一人袋に納めて本部に運んでいく。

そして本国からの支援物資を運んできた揚陸艦が本国へ送り出した。


敵の死体も集められ、纏められると穴に並べて埋めた。

これらの作業が後方からの追加部隊も加わり永遠4日間続けられた。


この情報はホワイトガーデンで留められ、すぐに世の中には報道されず、戦場の兵士たちにも詳しい情報は伏せられた。


これが知れ渡れば大統領は一気に信任を無くし、場合によっては戦争停止の判断をせざるを得ない状態になる可能性も考えられる。

しかし、この戦いは止められないのだ。今ここで政治的問題を抱えてこのミッションを止めるわけにはいかなかった。


前線の兵士はさらなる前進を指示された。

現場では後方からのフレッシュな兵士を前線に出し、今回被害を受けた部隊を控えとして街に一時後退させた。


そして前線部隊が第二の都市へと到着した。


街から住民は既に避難しており、勇者パーティーと騎士団400名、冒険者40名が街の中に潜んでいた。彼らの使命は住民の帰る場所を守り抜く事。

これ以上敵を先に進めさせてはいけない事を彼らは理解していた。


数日前の襲撃で帰ってきた者はいなかった。

その事実からイルミスは自らも戦争に身を投じる決心をしたのだった。


国王と領主には勇者イルミス署名での援軍を要請したが、それは間に合わなかった。

周りを囲む敵は明らかに以前より減っていなかった。

一体敵はどれほどの数が居るのか、襲撃の成功とは何だったのか。

街に残った者達は恐怖した。


「さあ皆!あの人達が帰ってこられる様に全力でこの街を守ろう!」

その言葉に周りの者達は互いに頷き合い、決意を固める。


彼らは街が既に避難を終えたかの様に見せかける為に息をひそめて敵が来るのを待った。上空ではヘリが旋回し、遠くの避難民の列も見つけているはずだった。


しかし、そこには大きな誤算があった。

メリカン合衆国軍は徹底的に敵を壊滅させる作戦に方針を変更したのである。

街には次々と砲弾が撃ち込まれた。


「くそ!奴ら街を破壊しつくす気か!?」

ガレスの声にイルミスが叫ぶ。

「メーシャ!!防衛結界を!!」

メーシャは素早く防衛結界を展開し、街を囲った。


「イルミス!このままじゃ耐えられない!すぐに皆を集めて撤退を!!」

イルミスがガレスに目配せすると、ガレスは集合の発光魔法を飛ばして合図をすると、その音と光ですぐに人が集まってくる。


その時、更に大きな爆炎が次々と防衛結界を包むように起こった。

メリカン合衆国の戦艦が艦砲射撃を開始したのだ。


「あぁぁ!!」

たまらずメーシャから悲痛な声が漏れる。


慌ててエリミナが魔力転移の魔法でメーシャを補助し、自分はマジックポーションを一気に飲み干す。誰が見てもそれは一時しのぎだった。


「撤退だ!!全員撤退急げぇ!!」

ガレスは全員に大声を張り上げて指示を出し、それに従って全員がすぐさま撤退を開始する。メーシャも防衛結界を少しずつ小さくしながら魔法を切らせない様にジリジリと撤退を開始する。その隣にはイルミス達が付き添っていた。


防衛結界から外れた建物は次々と破壊され、それを見てか更に勢いを増してミサイルと砲撃が勢いを増した様に見えた。


最早メーシャには限界が来ていた。エリミナもポーションの飲みすぎで吐きそうだった。そして防衛結界が解除されると全員が走り出した。


彼らの後にした街はたちまち砲撃の餌食となり積み木を崩す様に崩れ落ち瓦礫となっていった。


しかし本当の地獄は逃げ出した先にあったのだ。

既に先回りした戦車部隊とヘリ6機が待ち構えており、彼らに容赦なく砲撃を開始したのだ。


イルミスの目の前で先行していた騎士と冒険者が吹き飛ばされ、あるいはハチの巣にされていく。


「やめろ!!」


更に通信を受けた戦艦からのミサイルが数発彼らめがけて飛んできていた。

急いでメーシャが防御魔法を展開し、イルミスもオートディフェンダーが展開した。

オートディフェンダーは強力な防御魔法だが自分一人しか守る事ができない。

爆風が周りを覆い、閃光が彼らの視界を奪った。


しばらく続く砲撃に耐えられずメーシャが膝を折る。

「メーシャ!!」


そこにミサイルの直撃が襲った。

そして遂にメーシャの防御魔法が割れる様に飛び散った。

イルミスが走り寄るが彼のオートディフェンダーでは直撃は避けられても爆風は防ぎようがない。


「おおおおぉぉぉ!!!!」

飛んでくるミサイルにガレスが盾を構えて防御魔法を乗せるが彼の魔法は一撃で吹き飛ばされ、自身も跳ね飛ばされた。


「「ガレス!!」」

イルミスが声を上げ、エリミナが走り寄り回復魔法を掛けるが、彼女自身も既に魔力は限界に来ている。


「イルミス、引いて。残念だけど、私たちは多分着いていく事ができない。」

「い、いやだ!」


「ガレスゥゥ。しっかりしてよ~ぉぉ。」

「お、う。少し、待、て。」

ガレスが立ち上がり、盾を構えて三人の前に立とうとする。

そして、ガレスの予感の通り、飛んできたミサイルを彼は見事に盾で受け止めた。


しかし、弱々しい防御魔法は瞬時に破壊され、その爆風が三人を飲み込んだ。

イルミスの手から灰が立ち昇る。

彼らは跡形もなく消えていた。


「これが、これが人のすることか!?人がすることだっていうのかあぁぁ!!!!」

彼の周りからは激しい魔力が立ち上りその顔は怒りで悪魔の様に歪んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る