第124話 反撃の夜襲

エーリスの街から避難した人々は夜通し歩き通しでどうにかルオグの街まで到着した。子供達は背負われ、あるいは台車に乗せられて疲れ切って寝ている子が殆どであった。


勇者一行も脱落者を回復させ、元気づけながらどうにか道を進んでいた。

彼らも大きく疲弊していたが、ここで抜け出す事はできなかった。


「イルミス!メーシャばっかりおんぶされてズルい!!」

「仕方ないよ。メーシャは防衛結界を使ったからもう殆ど体力がないんだし。」

「すみません、イルミス。私はそろそろ歩けますので。」


駄々をこねるエリミナの言葉にメーシャが下りようとする。

そんなメーシャをイルミスが留める。

「いや、次の街でも君には無理をお願いする事になるから。今は少しでも休んでくれ。」


「おい、エリミナ、ワガママはダメだろ!お前は俺が運んでやる。」

そういってガレスがエリミナの襟をつかんで持ち上げる。


「楽になっただろ?」

「あたしが望んでんのはそういう事じゃない!!」

エリミナが手足をバタバタさせて抗議した。


「ま、そんだけ元気なら自分で歩けるな。」

そう言ってガレスはエリミナを下ろすと頭をポンポンと叩いた。

「むうぅ!!」


恨みがましく睨みつけるエリミナをイルミスが苦笑いで見ていた。

彼にこの日常的なやり取りは心に余裕を与えた。


「よし、僕たちも後少しだ!みんな、頑張ろう!」


ルオグの街では別の騎士団が待機し、街の前で炊き出しを行っていた。

逃げて来た人たちはそこでようやく人心地ついて思い思いに休むことができたのだった。


到着したイルミス達は休む間も無く騎士団小隊長達と冒険者ギルドのギルドマスターとの打ち合わせに入った。


敵はかなりの脅威で、威力に加えて射程の圧倒的差が問題だった。

魔法は大抵が最大射程300m程で、大魔法でも2kmに届くものはない。


それに対して敵はまず2km以上の距離から攻撃してくる。

空に打ち上げる筒の魔法と、やけに角ばった大きな箱からの魔法だった。

更に近づくと長杖で大量の礫を飛ばして来た。


こうなると街に籠るのは得策ではなかった。

1人の騎士団小隊長が言った。

「ペガサス隊の偵察によると、奴らはここに来るまでにまだ2,3日かかるだろうという事だ。最早我々のとれる作戦は奇襲と不意打ちだけだ。今日はしっかりと休んでもらい、明日の晩に夜襲をかけるのはどうだろうか。」

「確かに、夜であれば奴らにも近づきやすくなるはずだ。」


そしてギルドマスターが勇者に頭を下げた。

「勇者殿にも是非我々の作戦にご参加いただきたい!あなたがたが戦争に加担しない事は知っている。しかし、ここはまげてお願いしたい。」


それはイルミスも逡巡している事であった。

異世界の存在であることと、あまりに一方的な戦いに何かしなければならないという感覚。彼はこの戦いに参加すべきと結論付けていた。


しかしそれ以前に彼は人間を切った事がなかった。

無論人型の魔物や言葉をしゃべる魔物を切った事はある。しかし人を切る事は彼にとって全く別次元の事だと感じていた。


「おい、イルミス。俺たちの専門は魔物だ。無理に参加しないでもいいんだぞ?」

そういうガレスも人を切った事はないはずだった。

イルミスの決断がガレスやメーシャ、エリミナにも人殺しをさせる事になるのだ。

そんな気持ちがイルミスを臆病にさせた。


「僕たちは、この街の防衛と皆さんの支援を協力したいと思います。状況は状況ですが、やはり人同士の戦争、直接の参加はできません。」


それを聞いてみな一様に肩を落とした。



夜襲作戦結構前。勇者一行は出撃する騎士団と冒険者に強化魔法を付与し、彼らを送り出した。彼らの顔はみな決意を持った表情で出撃した。

そんな様子を見てイルミスは自ら戦いに出向かない自分の不甲斐なさに罪悪感を感じていた。そんな彼の肩に力強く手が置かれた。


「気にするな。俺たちには俺たちの役割がある。ここに居る人たちを助け、無事に元の世界に帰るんだ!」

ガレスの言葉にイルミスは力なく頷いた。



彼らの作戦は大成功だった。

彼らは消音魔法で脇から忍び寄り、認識阻害の魔法で闇に紛れて側面から敵に近づいた。そして手あたり次第に攻撃を開始した。


最初、何が起こったのか動揺していたメリカン合衆国軍から「敵だー!」という声が上がる様になり、徐々に反撃が開始された。


メリカン合衆国軍は穴を掘って隠れていたため、剣で切る事は手間が必要だったが、土魔法で岩を落としたり、雷魔法で落雷させればすぐに倒す事ができた。

逆に敵はそれらの魔法を目印に攻撃を仕掛けて来る。


それでも近接での討ち合いは騎士団と冒険者側に有利だった。

彼らの殆どは防御魔法を使えた上に、ステータス上昇の魔法を積めるだけ積んでいる。その動きは人間と認識するとついていくのが難しく、ヒット率はかなり低かった。


発光弾が打ち上げられ、騎士団と冒険者はその明かりに照らされて姿を晒す。

特に騎馬はそのシルエットで一目瞭然のため攻撃が集中した。

走り抜ける騎士団が徐々に打ち倒されていく。冒険者達も攻撃を受けて段々と数を減らす。そして遂に銃撃音が無くなった。


それを見届けた若い騎士団員が成功と全滅の二色の発光魔法を飛ばして街へ知らせる。そして彼もまた敵陣へと走って行った。

複数個所で悲鳴と発射音が響き、そしてすべてが終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る