第123話 第一の街での戦い

メリカン合衆国が最初に築いた拠点は急ピッチで設備が整えられていた。

揚陸艦で運ばれた重機で次々と作業が進められていく。

仮説の建物と通信装置、そして滑走路。


また後発で送られた戦車も次々と補充され次の都市侵攻への準備が並行して進められた。


そして、その第一陣が正に進軍を開始せんと集められていた。

居並ぶ兵士の前には台がおかれ、そこに一人の男が立っていた。


彼の階級章は元帥。今回作戦の陸・海・空全軍の指揮権を持つ男である。

名をパーシバルと言った。


「諸君、我々は我が国民の未来を取り戻すため、敵地へ降り立った!今の状態で我が国の未来はない。速やかに敵を打ち倒し、元の世界へ帰還する必要がある。この戦争は我が国民の未来を取り戻した栄光ある戦争と記録されるだろう!諸君はこれから、その誉ある戦いの先陣として出発する。諸君の勇敢な戦いに期待している!!」


パーシバルが敬礼すると兵士たちも一斉に敬礼を返した。


こうしてメリカン合衆国の進軍が始まった。


進軍経路は二つあった。一つは海岸線に沿って都市を順次落としていくもの、もう一つは少し内陸の最短経路を進行していくものである。


王都から南端までの道のりは約1000km。

100㎏近い装備を背負った兵士の足取りでは約3か月の旅程である。


内陸の進軍は最短ルートの800kmではあるが、艦砲射撃の援護は受けられない事と更に西からの側面攻撃への備えから進軍速度は更に落ちると考えられていた。



第一陣が出発してから3日、ヘリなどの先行偵察の支援を受けながら計画通り、最初の都市へ到着した。

その都市はエーリス。メリカン合衆国では単にファーストシティと呼ばれていた。


エーリスは港町であり、領主がいる訳でも無いため城壁などは無い普通に栄えた街である。そこに領主の派遣した騎士団と集められた冒険者が待機していた。


メリカン合衆国軍は都市の3km付近で扇状に展開し、攻撃準備を整える。


そして、上空を3台のヘリが街の上空に飛んできた。

住民が身構えると、ヘリから大音量の声が聞こえた。


『ここは戦場になります。一般市民は速やかに避難しなさい。ここは戦場になります。一般市民は速やかに避難しなさい。』


それは一般人を巻き込まない為の避難勧告だった。

更にご丁寧に3台のヘリからビラが振りまかれた。

そこには燃える街の絵と、町の近くの山への矢印が書かれていた。


残念な事に彼らに言葉は通じなかった。

そして、ビラの絵も多くの人には街を明け渡せという挑発と取られていた。


まず最初に動いたのは領主の騎士団だった。

彼らは挑発行為に怒り、突撃を開始した。

それにつられて冒険者の一団も騎士団を追って走り出した。


戦闘は突然に始まった。


メリカン合衆国軍は唐突にこちらに向かってきた騎士団に少々動揺していた。

「おいおい、あいつら市民も逃がさずに攻めてくるとかとんだ野蛮人だな。」

「しかもあんな骨董品で攻めてくるとかクレイジーだろ。」


騎士団との距離約2000m。遂に砲撃が開始された。

砲弾は騎士団に容赦なく襲い掛かり、彼らを次々と吹き飛ばした。

騎士団もどうにか防御結界で攻撃を防ぐが、圧倒的な火力の前に次々と力を失い、弾き飛ばされていく。


雌雄は一瞬で決し、彼らはすぐに身をひるがえして街へと撤退する。

後ろから来ていた冒険者一団も、彼らが引き返してくるのを見て一様に帰っていった。


メリカン合衆国軍も無駄に時間を使って戦いを進めるつもりはなかった。

戦車を盾に歩兵部隊が次々と前進を始め、街への砲撃が始まった。

砲撃は住民の避難を促す為に端の方から破壊されている。


それを見て冒険者たちが走り回り、住民への非難を呼びかけた。


その時、勇者パーティーもちょうど街の近くまで到着していた。

彼らは街から煙が出ている事を発見し、急いで街に向かった。


戦いは一方的だった。

街の冒険者が魔法を放てば、そこに銃撃がこれでもかと浴びせられる。

街の建物は端から崩壊し、それが徐々に近づいていた。


街の人達はそれを見ながら慌てる様に街から避難していた。


「なんて酷い状況だ。市民も巻き込んでるぞ!?」

「それにあの手に持った杖、普通の冒険者にはかなり厄介ね。数が多すぎて防ぎきれてない。」

「ホントムナクソだよ!どうするイルミス!?」


「メーシャ、一度あの飛んでくる魔法を遮断できるか?」

「うん、できるだけやってみる。」


そう言うとメーシャは杖を構え、魔法を唱え始める。

それが終わると街に飛んでくる砲撃が見えない壁に当たって防がれた。


「よし、ガレスは住民の避難誘導を頼む。エリミナは僕と一緒に逃げ遅れて負傷した人を探すんだ。」

二人はそれに返事をすると街へと降り立った。


「イルミス、かなりの攻撃だから持って20分よ!」

「分かった。頼む!!」

そう叫ぶとイルミスはグリフォンから飛び降りて人の居ない裏通りに着地した。


彼らは敵の侵攻側へと走り出し、冒険者達と逃げ遅れや負傷者を探し出し、避難させていく。その間にも徐々に防衛結界は小さくなっていた。


彼らはどうにか時間ギリギリまで負傷者を探し、人を避難させながら一緒に撤退を開始した。その行列は、住民3400人、騎士280人、冒険者83人、みな元気なく歩いてゆく。勇者たちはしんがりとしてその最後の列に加わり、次の街ルオグを目指した。

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