第122話 勇者パーティー

国王カルオレイは勇者イルミスを引き留める事ができて安堵し、彼の知る情報を話し始めた。


「奴らの魔法は我々の世界の技術とは全く異なる次元なのじゃ。そしてその一撃が上位の魔法程の威力を持ちながら圧倒的な数を飛ばしてくる!」


そう言って王は隣に立つ男に合図した。彼は羊皮紙の束を持って降りて来て勇者にそれを手渡した。


「これは昨日上陸してきた敵の情報が記録されたものだ。奴らは上級魔法を空を覆う程の数を打ち込み、我が国の防衛線を一瞬で打ち崩し、雪崩を打って責め上げ、我々の沿岸警備隊3000名が半日もかからず消し炭にされ、ほぼ全滅した。」


勇者はそれを聞きながら羊皮紙に描かれた絵とその説明をめくっていった。

それは未だかつて見た事もない様な異形の魔道具とそれによって起こされた異常な状況ばかりだった。


「なるほど、これは脅威ですね。ですが僕たちが協力するための理由にはならないのでは?相手が圧倒的であっても人は人、僕の天命に反します。」


「た、確かに奴らは人に似ている。だが、ここは異界、人間に似てはいるが、奴らは人間では無く異界の者、あの所業は正しく悪魔じゃ!!きっとあの兜の下には角が隠されているのに違いない!それに女神は奴らを葬る為に我らを遣わしたのだぞ?それはつまり、奴らは女神が強大な力を使ってでも滅ぼすべき存在という事!」


国王は怒りと興奮で椅子の手すりに拳を叩きつける。


「もしそうなら我らが負ければ次の国が選ばれここに送られる、そしてその国が負ければまた次の国。あるいは我らが負けたなら、我らの世界に攻め入ってくる算段なのやもしれぬ!そうなっては世界は滅亡じゃ!!」


国王は捲し立てる様にしゃべると、手の平で顔を覆い深く椅子に沈んだ。


勇者の力は絶大だ。それゆえにどの国の国王も口八丁でその力を借りようとする。

権力者の演技というのは迫真に迫るものがあり、なかなかの役者なのだ。

そのため、勇者は権力者に対しては非常に慎重であった。


「解りました。」

勇者は顎に手を当て、少し考える様にして顔を上げる。


その言葉に国王はガバリと身を起こすが、それを制する様に勇者は右手を開いて突き出した。


「陛下が仰る様な存在なのかどうか、僕たちも現地で確認をしたいと思います。そこで相手を見て判断いたします。」


国王は少し元気なく椅子に座り直し、「わかった」と一言返した。

それを聞いて勇者とそのメンバーは玉座を後にした。


城の門から出ると、勇者一行は街を歩いていた。


「イルミス、彼のいう事どれくらい本当だと思う?」

最初に口を開いたのはいかにも魔導士といういで立ちの女性であった。

彼女は胡散臭そうに城を見上げていた。


「あたしちょっと怪しいと思うなぁ。空を覆うほどの数の魔法って何?って感じだよねぇ。いくら負けてるからってもう少しましな嘘のつき方ってのがあるっしょ。」

勇者の代わりとばかりに神官服を着た女性が両手を頭に組みながら意見を述べる。


「流石にな。魔族だってあんな絵みたいな攻撃見た事ないぞ。というか上級魔法あれだけ打つのにどんだけ上級魔導士いるんだっていうな。」

大楯を持った戦士の男もそれに同意した。


勇者はその話を黙って聞いていたが、考えがまとまったのか口を開いた。

「確かに、エミリナの言う通り、嘘ならもう少し現実身がある話にしてたと思う。いくらか大げさな部分はあってもそれほどの事ができる相手なんじゃないかな?」


三人は「えー」という様な声を上げて勇者を見る。


「それにあれだけの見たこともない様な魔道具が想像だけで描かれるなんてあるかな?彼らが人間なのか、悪魔なのか、しっかりと確認する必要があると思う。」


勇者の言葉に三人も納得した様に頷く。

彼らは相手の侵攻ルートと思われる街に向かう事にした。


「メーシャ、ペテルとパテルの召喚を頼む。」

勇者が言うと、魔導士のメーシャは頷いて呪文を唱える。

すると、地面に大きな魔法陣が現れそこから二頭の魔獣が召喚された。


それは手綱の着いた成体のグリフォンであった。

二頭は屈んで四人を待ったが、それでも背中の高さがイルミスの高さほどもある。


四人はグリフォンに乗るために二手に分かれるが、エリミナが不満を口にする。

「まーたガレスとかぁ。たまにはイルミスと乗りたいんだけどぉ。」


それを聞いてガレスが肩をすくめる。

「俺だってお前みたいなチンチクリンなガキとタンデムとか泣けるんだ。我慢しろ。」

「こっの!」

ガレスはエリミナの蹴りを身軽に避けると、慣れた動作で屈んでグリフォンに飛び乗る。そしてエリミナの襟首をつかむと持ち上げて彼の前に乗せた。


「あたしゃネコか!!」

「ネコの方がもっと可愛げがあるってもんだ。そら、もう出発してるぞ。」

そう言うと既に飛び立ったイルミス達を指さした。


「あの二人、声くらいかけてくれても良くない!?」

その声を無視してガレスは手綱を操作して空へと飛び立った。


向かう先は南端から一番近い街、エーリス。

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