第121話 侵攻の開始

それから2か月。メリカン合衆国内では戦争準備が進められた。

高高度での偵察等で敵の地形を把握し、統合参謀本部で作戦全容を検討。

そして、国家危機回避緊急会議執行委員会によってD-Dayが決定された。


相手の戦力が明確に測れないため、作戦は堅実に歩を進める形で決定した。

概要として敵都市の密度が低い南端から上陸し、拠点を構築し大量の陸上兵器を輸送する。そこから艦砲射撃の有効な海岸沿いの都市を陥落させながら一気に王都を叩く、というものだった。


彼らが作戦方針を検討している間、敵国の動きは殆ど見られなかった。

あったのは複数の艦隊らしき船団が見えたり、ペガサスに乗る人が発見された程度であった。


ペガサスは最初、パイロットをかなり驚かせたが、数回の遭遇を通して彼らを慣れさせた。なぜならどのペガサスも編隊の戦闘機3機と空中戦の末追い払う事ができたからだ。


ペガサスの情報は本部に送られ、その映像データや戦闘記録、パイロットからの証言を得ながら慎重な検討が求められた。


彼らは基本単騎で活動し、自由飛行をしながら攻撃魔法を放ってくる。

飛行速度はマッハを超えず、こちらのバルカン砲による攻撃は魔法で防がれていた。

一度空対空ミサイルが的中したがそれはバリアの様なもので防がれ、以降は全て避けられていた。


対象熱源が小さいため、ロックオンまではできてもそこからの追尾は厳しい様だった。この情報は検討課題として研究所に送られた。


そしてD-Dayの3日前。


先ずは作戦先行として制海権を得るべく、潜水艦による敵船舶破壊作戦が実施された。続けて空母戦闘群が派遣されたが、既に敵は潜水艦に成す術なく沈められ続けた。敵は魔法で魚雷を防ごうとしていたが、打ち出された数に圧倒され、バリアを保ち続ける事ができなかった様だ。


そしてD-Day当日。

その作戦には前大戦から保管されていた4隻の戦艦も引っ張り出されていた。

前時代的な風貌はそのままに、甲板上の装備が近代兵器に換装されている。

これらの戦艦は艦砲射撃による上陸支援が期待されていた。


明け方5時30分。

戦艦による砲撃が始まった。

海岸沿いには土の壁と石垣が準備されていたが官房射撃によってそれらの障害が飛び散り、無効化していく。近代兵器の前に壁は一時しのぎでしか無かった。


更に3時間後、遂に上陸部隊が島に接近し、次々と砂浜を埋め始める。

既に敵からの攻撃は散発的で、それらの抵抗も圧倒的数の前に徐々に沈静化されていった。


そして更に5時間後。

兵士13万と水陸両用車両1200台が上陸を果たし、拠点構築へと移行した。

上陸作戦は完全に成功。死者680名の内ほぼ半数が落水事故によるものだった。


その報告を受けて、ホワイトガーデンでは皆一様に肩を抱き合い、作戦の成功を祝っていた。


作戦は次のフェーズへと移行した。

そして、制空権という言葉はこの世界ではメリカン合衆国だけのものだった。

空は空母戦闘群によって管理され、拠点構築後には地上戦用の装備が大量に送られる手はずになっている。


作戦開始からわずか7時間弱。

メリカン合衆国はあっという間に大きな優位性を獲得していた。



その次の日、タクトクルト・ガーランドの王都タクトクルトでは国王カルオレイによって勇者イルミス率いるパーティーが呼び出されていた。


彼らは世界最強の実力を持ったパーティーであり、一体の魔王を討伐した実績があった。そして、最上級ダンジョンに挑んでいた途中だったが女神の声を聴いて王都に帰って来ていた。


「おお、よくぞ参られた勇者殿。そなたもあの天からの声を聞いたであろう。」

「はい、陛下。僕たちも女神の声を聴いて何が起こったのかと思い帰ってきました。」


「それは何より。敵はかなり凶悪でな。我々の船はことごとく沈められ、そして遂には我々の領土に侵攻を開始しおった。どうか、そなたの力を貸してもらえないだろうか?」


国王はそう言って頭を下げた。


「はい、是非お力になれればと思います。僕たちはまだ戻ったばかりであまり情報を得ていないのですが、今度はどの様な魔王が来たのですか?」

それを聞いて国王は顔を曇らせた。


「敵は、魔王ではない。魔動具を操る人間達だ。」

「にん、げん?」


勇者は動揺した。

彼は基本的に世界を守るための存在で、人間同士の争いに関与する事はなかった。

今回もたまたまこの国のダンジョンに居ただけであり、国王に仕えているわけではない。ただ、女神の凶悪という言葉に魔王が出現したのかと思っただけなのだ。


「残念ですが陛下、僕たちは人間同士の争いには関与しません。僕たちは世界を救う為に存在し、どこか一つの国に肩入れする事はできないのです。申し訳ありませんが、今回の話は辞退させて頂きます。」


勇者はそう言って膝をついて首を垂れると、すぐに立ち上がり背中を向けた。

それを見て国王は正直に情報を伝えた事を後悔した。


「ま、待ってくれ勇者殿!もう少しだけ話をさせてくれ!!この話は隣国との戦争ではないのだ!!異界の、異界の者達との戦いなのだ!!」


異界の者、それは国王が思いつきで放った言葉だったが、期待以上に勇者の足を止めた。


「異界、とは?」

勇者は振り向いて国王に続きを促す様に質問した。

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