第120話 ミッション・バック・トゥー・ザ・フューチャー
アマテラスが去って3時間後、メリカン合衆国のホワイトガーデンでは主要なメンバーを招集した国家危機回避緊急会議執行委員会が設置された。
そこに出席したメンバーは、大統領を議長とし、副大統領、国務長官、国務次官、国防長官、国防次官、情報管制局長官、司法長官、財務長官、統合参謀本部議長、大統領特別補佐官、大統領顧問であった。
レガーネ大統領はメンバーがそろった事を確認すると話を始めた。
「諸君、良く集まってくれた。我々は今、有史以来の未曽有の危機に直面している。正直これが現実に起こっている事なのか私にはいまだに信じられないが、私にあげられてくる報告書がこれが現実だと突き付けてくる。まずは状況の説明をシュッツ国務長官から頼む。」
シュッツ国務長官は小さく頷くと報告を始めた。
「まず、大きな信じられない変化から。今、我々は正に国ごとどこか別の世界に移されたと考えられます。隣国のカナディ、マキシクは無くなり、海になりました。」
「おお」というざわめきと「信じられない」というつぶやきを一通り受けた後でシュッツは話を続ける。
「私も信じられません。これは急遽FAXで送ってもらった国境近くの航空写真ですが、国境線を綺麗に切り取った様に海になっています。これだけ綺麗に切り取ってもらえればどの国も国境問題がなくなるでしょうね。」
彼は複数のA4用紙に印刷された白黒の画像をテーブルの上につなげて見せる。
それを身を乗り出して覗き見るメンバーは更に感嘆の声を上げた。
「喜ばしい事か悲しむべきことかアラスス州とアワイ州もこちらに来ている様です。なぜか海底ケーブルも無事に運ばれている様です。」
「続けて、我々の課せられた使命ですが、これは皆さんもお聞きになったのではないかと思いますが、あのアマテラスという未知の存在によって伝えられた通り、魔法を使う世界の国家を崩壊させることです。彼女とのコンタクト方法は一切不明であり、追加の情報は得られない状況です。」
そこに一人の男が口を開く。
「我々は建国以来自主自立を旨とし、民主主義を広める為の正義の戦争は行った事はあっても、他国への侵略戦争は行った事がない。果たして今回の戦争はどの様な位置づけになるんだ。」
「その点について私は大統領と話し合いましたが、今回の件は国家の安全保障にかかわる問題と認識しています。我々は何においても国民を守る義務がある。今の状態が続けば、いずれ貿易相手もいないこの世界で我々の国家が崩壊するのは目に見えています。つまり、我々は国民を守る為にこの戦いに挑み、勝利しなければいけない、と考えます。」
シュッツが全員の顔を確認すると、誰も反論は無い様だった。
「次に喜ばしい報告ですが、我が国に所属する空母艦隊や潜水艦は近隣の海で航行しているとの報告が上がってきています。」
「それはつまり。」
「そうです、我々には核という選択肢が残されているという事です。」
「ならば核を叩きこめば終わり、という事か?」
財務長官のその発言に司法長官と統合参謀本部議長が反対する。
「それはとんでも無い事だ!国際的にも核縮小に動いている中で躊躇なく核を使うなんて!それに核発射の為の実行条件を満たしていない。」
「私も反対だ。あんな非人道的な兵器は簡単に使うものではない!あれは相手の尊厳と我々の誇りを踏みにじるものだ!」
「相手はエイリアンですよ?」
周りを見渡してから財務長官は肩をすくめて椅子に深く座り直した。
「私はそこらへんの運用の判断はわかりませんからね、お任せしますよ。私の心配は元の世界に帰った時に国費がどれだけダメージを受けるか、帰ってからどうやって財政を立て直すかを考える事ですから。」
「核の使用については現時点では議論しませんが、それらが手元にある事で我々には最後の選択肢が残されます。これはとても心強い事です。」
シュッツの言葉に全員が頷く。
「それでは最後の報告です。敵国ですが、カーフォール州からほぼ真西に800Kmの地点に大凡ブリステン共和国程の大きさの島が出現しました。また、それ以外の方向には約1200kmを探索しましたが、海以外の何も見つける事はできませんでした。」
「アワイより近いじゃないか!?その国の写真はないのかね?どれくらいの軍事力なんだ?」
「はい、残念ながらまだ戦闘機での高速偵察のみで、本格的な偵察はこれからになります。因みに衛星からのデータ入手はできませんでした。どうやら衛星はこの世界ではレギュレーション違反の様です。」
そしてシュッツは知り得た情報を確証の無い物として伝える。
「彼らの戦力についてもまだ未知数の状況ですが、パイロットの話では中世の様な街並みが見えたという事と港に止まっていた船は帆船であったと・・・。」
その言葉に全員の力が抜けた様に見えた。
「ですが、アマテラスによると彼らは魔法を使うとの事。我々と対峙する存在です。我々の兵器と同等の力がある可能性も否定できないと考えるべきです。」
シュッツは国務長官として場を引き締める様に言葉を終えた。
その後、侵攻時期や方針についての議論を数時間行った。
この作戦は『ミッション・バック・トゥー・ザ・フューチャー』と命名された。
そして、国民に向けてミッションに関する大統領演説が行われた。
新聞社の調査によると大統領の支持率はこの事件で20%増えた。
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