第115話 俺、天野さんに遂に『マスコットとの出会い』を渡す

俺は今、喫茶『創造してごらんなさい』の前に居る。

そう、天野さんと会うためだ。


身だしなみオッケー、C『マスコットとの出会い』オッケー、覚悟オッケー。

よしいざゆかん!


カランコロン


聞き慣れた鐘の音が俺の心を落ち着けた。

俺は気合を入れて店内に入る。


しかしまだ天野さんは来ていない様だった。

折角気合入れたのになんだか肩透かしで一気に気が抜けた。


「あ、今日はちょっと天野さん達と用事があるからお客さんで。」

俺は木花さんにそう声をかけると増田がいつも座っている奥のテーブルに腰かけた。


カランカラン


鐘の音がして俺は緊張してドアを見るとそこに立っていたのは増田だった。

「ふぅ、驚かせるなよな。」


俺は増田に手を挙げて挨拶をすると、増田もこちらにやってきて椅子に座った。

「まだ天野さん達は来てないのか?」

「ああ。というかお前も同席するのか?」


よく考えたらあまり一緒に居て欲しい状況じゃなかったので増田に質問する。

「当然だろ!俺はお前の友達だぞ?」

おお、なんだか心強いな、と思ってると増田のセリフは終わっていなかった。


「しっかりと楽しませてもらうぜ!?」

と言って親指を立てた。


「いや、お前あっち行ってろ!」

「おいおい、冷たいぞ!こんな場面リアルじゃなかなか出会えないからな。」

誰が冷たいだよ!?というか見世物じゃねえぞ!


「お、早かったな国立。」

俺が増田を追い出そうとしている所で声がかかった。


「え?」

後ろを振り向くとそこには挨拶代わりに手を挙げた渦目さんと、その後ろでぺこりと頭を下げた天野さんが立っていた。


「い、いつのまに!?」

「ん?いや今だけど?なんか問題あった?」

「いいいいいや、問題ありみゃせん!」


まさかの不意打ちで俺の心臓はバクバクになっている。落ち着け、落ち着くんだ俺。

ひ、一先ず席に案内するんだ俺。


俺は席を立ちあがると、自分の座ってた席を天野さんに勧めた。

「どどどぞ!!」

「え、あ、ありがとう?」

なぜ疑問形?俺の疑問に答える様に渦目さんのツッコミが入る。


「いや、なんで国立の座ってた席を勧めるんだよ!空いてる席に座るから!!」


俺がテーブルの周りを見るとくの字型のソファが丸々空いていた。

というか二人が座る様に空けてたのを忘れていた。

いや、それ以前に自分の座ってた席譲るとか何をやってるんだ俺は!?


「国立、新手のジョークならもう少しスムーズにやった方がウケるぞ。」

増田から冷たい追い打ちが入る。

俺はしょんぼりして自分の座ってた席に座り直す。


天野さんも渦目さんが「さ、座ろ座ろ」と声をかけて席に着いた。

そして沈黙。


俺はキョドって周りを見るが、どう考えても俺が話を進めるポジションっぽかった。

まぁそうだよな。俺が頼んだんだし。


「あ、あの、今日はお忙しい中お越しいただきましてあり、ありがとうございます。」

そう言って頭を下げた。


なんの反応もないので俺が頭を上げると三人がキョトンとした顔でこちらを見ていた。あれ?俺なんか変な事言ったか?

そう思って俺が増田の顔を見ると、増田が「ぶふっ!」と笑い出した。

それにつられて二人も笑い出す。


「え?なんか俺変な事言ったか?」

慌てて俺が確認をすると増田が言った。

「いや、お越しいただきましてって結婚式かよ!」


「え?結婚式って、だ、誰のだよ!?」

それを聞いて三人がついに腹を抱えて笑い出した。


最早状況が混乱しすぎて俺は何が何やら分からなくなってきた。

俺が結婚式ってどういう事だよ。

増田は俺のセリフが結婚式みたいだって言ったから。

いや、というか誰のだよ!って俺は何を返してるんだ!?


段々と状況を理解してきて俺は自分で顔が赤くなってきているのが分かった。

もうダメだ。俺はもうダメだ。撤退だ!これは戦略的撤退だ!


俺は立ち上がるとハッと大事な事を思い出した。

急いでカバンからCコモン『マスコットとの出会い』を取り出して天野さんに差し出した。


「あの、これは?」

「あげます!」


俺は押し付ける様に『マスコットとの出会い』を天野さんの前に置いて席を立った。

「あ、国立さん!今日のバイト!!」

木花さんの声が追ってきていたが俺には余裕がなかったのでそのままダッシュで家路についた。


家に帰る途中で俺は盛大にため息をついた。

「あ~、何やってるんだ俺。というか当初の目的が全く思い出せない。」

なんか声漏れる。


というかどう考えても変な奴だったな、あれ。

「あ~最悪。もう終わった。いや、始まってもなかったんだが。」

でも今日のはとどめだったな。


いや、前向きに生きよう!『マスコットとの出会い』が渡せた事は一歩前進だった!

そうだ、あれを渡せたんだから今日の所は良かった事にしよう。


俺がトボトボと部屋に戻るとアマテラスがめちゃくちゃ笑っていた。

はぁ、こいつはいつも幸せそうだな。

そう思ってモニターを見ると、そこには文字でマスターと書かれていた。


ん?マスター?

「アマテラス、マスターと話をしてるのか?」

「わ!?く、国之さまお帰り~。そうだよ!今マスターから今日の国之さまの話を聞いてたんだよ!」


アマテラス!お前もか!!

俺は遂に膝から崩れ落ちた。

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