第111話 騎士団と歩兵
次の日の早朝。ジンガー駐屯地の兵士たちは動き始めた。
その歩みはゆっくりで、確実にその包囲を縮めて行く。
隣り合う部隊の距離を測り、城塞との距離を測り、大打撃を受けない様に、城塞を包み込む様に進行していた。
王城都市シェマーン側は機甲部隊が見えない事に安堵したが、統制のとれた進軍にどう対処すべきか決めかねていた。
味方を分散すべきか、圧倒的攻撃力で各個撃破するべきか。
残り距離は5kmに来た所で将軍が命令を出した。
左右の門から魔導騎士団3000ずつを攻撃に向かわせたのだ。
「いいか、あの長く間延びした戦線の端から潰していくんだ!箱がいない今がチャンスだ!徹底的に叩け!」
将軍が檄を飛ばすと騎士団員が一斉に返事をする。
そして速やかに左右の門へと向かう。
そして、街から騎士が出ようとしているのは当然ヘリによって監視されていた。
その情報は即座に司令部に送られ、司令部から各部隊に命令が出される。
古今東西陣形は端から崩すのが基本であり、だから彼らも左右の門から騎兵を出そうとしているのだ。であれば、迎え撃つ側はできるだけ敵を囲う様に横陣で待ち構え、十字砲火を食らわせればよい。
「第一部隊、第二部隊および第十五部隊、第十六部隊。敵が向かっている。二部隊で正面から迎撃せよ。オーバー。」
「了解。オーバー。」
そして中継地点に向かっている機甲師団への命令を伝達した。
「現在戦線の両端に敵が向かっている。第一、第二機甲部隊は掩護に向かえ。オーバー。」
「了解した。オーバー。」
魔導騎士団が接敵するのに大凡5分。機甲部隊が両端に到着するのが約15分。
その間に魔法の攻撃から逃れて相手に打撃を加える必要がある。
迫りくる騎兵の数は3000、迎え撃つジンガー駐屯地側の兵士は4000。
数では優っているがこちらのマシンガンやサブマシンガンではなかなか倒せない。
かなりの劣勢である。
兵士達はすぐさまトラックより既に組んである鉄条網の障害物を運び出す。
それは幅2m、高さ1m弱の直方体の木組みの枠に鉄条網を張ったもので、その枠の杭を地面に打ち込めばすぐに防衛壁を作れるものだ。
「急げ―!!あと3分ないぞー!!」
指揮官が必死に兵士たちを急がせる。
騎士団は目視でもかなり近くまで接近してきており、兵士たちはすぐにでも攻撃したい衝動にかられたが、せっせと障害を設置し続ける。
彼らが障害の設置を終えるとその裏に壕を掘り始める。
ほんの少しでも生き残る可能性を上げる努力だ。
少し後方では持ち運び用の迫撃砲を設置している。
飛距離が2400m程の中型で展開しやすいものだ。
大型の物は展開する時間が無いのと接近戦で壊されると損失が大きいため、トラックに引かれて後方に下がっていく。
「砲撃始め―!!」
指揮官の号令と共に迫撃砲を担当する兵士が次々と弾を打ち出して行く。
着弾する度に何人かの騎士が飛ばされている。
「ロケットランチャー用意!」
その号令で長い筒を肩に背負った兵士たちが障害から頭を出してロケットランチャーを構える。
「撃てー!!」
凄い勢いで走ってくる騎士に飛んで行く。
「一斉しゃげーっき!!」
更に近づいてくる騎士団に対して一斉射撃を開始する。
塹壕は殆ど掘れていないので、障害物だけが頼りだ。
相手も魔法を放ってくる。
鉄条網では魔法を防ぐことができないため、着弾の度に兵士が死んでゆく。
しかも彼らの攻撃精度は高く、こちらのマシンガンでの攻撃は殆ど効いていなかった。
そして遂に即席の陣に騎士団が突撃した。
彼らは次々と兵士を切り殺していく。
戦車がいないためかなり余裕を持った攻撃だ。
障害物は多少勢いを殺す役には立ったが、ほんのわずかな時間を稼いだだけだった。
騎士の数は徐々に減っていたが、それ以上に兵士の数が目に見えて減っていく。
機構部隊が来るまであと8分。
どう考えても厳しい状況である。
そもそも混戦になったら戦車での砲撃が不可能だ。
「くそっ!なんなんだ一体。こんなスピードで兵士が殺されるとかあるか!?」
「後退しながら撃て―!!攻撃を集中するんだ!周りを見て同じ敵を撃つんだ!!」
未だかつてない近接戦。
兵士たちは何度も何度も撃ち込むがなかなか敵に通らない。
弾込めに時間がかかるバーズカはほぼ役に立たなかった。
機構部隊が見え始めた頃、部隊はほぼ壊滅状態だった。
そして機構部隊が来ても騎士団は攻撃の手を休めなかった。
彼らは戦車がこの状態で撃ってこれない事を理解していたのだ。
「司令部、司令部。混戦状態で攻撃ができない。指示を頼む。オーバー。」
たまらず機構部隊隊長が無線機で連絡をするが、沈黙している。
「司令部、司令部。指示を頼む。オーバー。」
更に少しの沈黙の後、一言、指示が帰って来た。
「撃て。『ブツッ』」
隊長は何を言われたのか呆然として現場に目をやる。
そこではほぼ虐殺と言っていい様な状況が広がっていた。
騎士が腕を振り下ろせば兵士が倒れ、そして、障害物をよけながら次の兵士へと向かっていく。その歩きには余裕すら感じられた。
隊長はゆっくり無線のマイクを口に運ぶ。
「砲撃用意。」
その声には感情がなかった。
「隊長!まだ友軍が残っています!」
「司令部からの指示だ!できるだけ、できるだけ騎士のかたまっている所を狙うんだ!」
「隊長!!」
「砲撃用意だ!!」
砲塔が嫌がる様に狙いを定める。
「撃てー!!!」
その号令で一斉に火を噴いた。
静止しての精密射撃。
そのほとんどが騎士に直撃し、その爆風で周りに居たであろう兵士もろとも跳ね飛ばした。
隊長にはそれがまるで目の前で起きている様に大きく、そしてゆっくりに見えた。
その場に居た全ての人が、砲塔から顔を出す自分を見ている様に感じた。
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