第109話 王城都市シェマーンの反撃
直接の戦闘があってから二日後の早朝。
メリカン合衆国ジンガー駐屯地は出発の準備で騒がしかった。
司令部でも全員が勢ぞろいし、作戦の遂行に向けた最後の確認が行われていた。
「結局相手側の動きはなかったな。」
「あの戦闘でビビッて動けなくなったんでしょうか。」
「それはあり得る。この手の世界なら騎士は最強ですからね。それが戦車に無残に吹き飛ばされるだけなんですから、引きこもりたくもなるってもんです。」
そんな会話をトラグル少将は止めた。
「油断するな。相手は現時点で攻撃にメリットが無いと理解しただけだ。もしあちらの奇襲を受けたら戦車だって分からんし、歩兵は大打撃を受ける。無駄に兵士を死なすなよ?」
その言葉に全員が身を引き締める。
そして朝6時。まずは機甲部隊が出発し、歩兵は少し時間を置いてハーフトラックとトラックに乗り込み、更に徒歩で移動する部隊、とい順序で出発した。それぞれの部隊の距離は約2km。戦車が十分に気を使わずに走り回れる距離である。
さらに部隊は3つに分かれ、正面と左右に展開して進む。
機甲部隊はそれぞれに戦車20両、装甲車30両から編成されている。装甲車にはマシンガンが3丁装備されており、弾薬も十分だ。さらに搭乗している兵士はバズーカを携帯していた。連射性能は悪いが、その威力は折り紙付きだ。
続いての歩兵機動大隊はマシンガンを装備したハーフトラックを前方に迫撃砲を引いた無数の2.5tトラックが続く。
実に基地の70%が作戦に投入されていた。
徒歩で移動する歩兵の移動速度は時速3km。更に途中で野営の為の陣地構築があるため、敵城塞に到着は次の日の昼頃の予定となっていた。
危険があるとすれば夜間の奇襲攻撃だろうと予想されていた。
そのための装備も十分な準備がされている。
出発から1時間後、既に機甲部隊は敵城塞の前まで到着していた。
彼らは城塞から3km地点で待機し、相手の出方を待っているが、城塞からは全く反応がない。
ヘリが駐屯地から周囲へ警戒飛行を行っているが、やはり敵影は発見されなかった。
どうやら籠城を決め込んだらしい。
王城都市シェマーンでは敵の挑発を見ながらいつ戦略級魔法を放つかを議論していた。敵は明確に射程範囲に入っており、今なら確実に一部隊を消滅させられる。
しかし密偵の報告では後方に更に膨大な敵兵力が進軍していると言う。
戦略級魔法は準備に3日かかる。既に準備を終えて後は攻撃を待つばかりの状態ではあるが、一度打ったら次に打てるのはほぼ四日後だ。
意見は二つに割れていた。
一つは後方の敵がそろってから打つというもの。これによって被害のサイズを大きくすればこちらにも勝機が出てくるという意見。
もう一つは今打つことで相手をけん制し、膠着状態を維持する事で更に戦略級魔法を準備する、というものだ。
この結論を出す為には相手の性質を知る必要がある。果たして攻撃の手を緩めるのか、それとも逆に激しく攻め込んで来るのか。
その情報を持つ者はここにはいなかった。
「今、臆病風に吹かれて魔法を放ってしまったら、間の三日間はフリータイムになるんだぞ?あちらの目的が我々の城を攻め落とす事が目的なら躊躇する理由がどこにある?」
「それは三日間の儀式時間がある事を知っているから言える事です。逆に敵がそろってからとなるとあちらの攻撃も間断なく続いている可能性もある。その場合、我々は防衛結界を解いて魔法を放つ必要があるんですぞ?今なら相手は砲撃をしていない!これは安全に我々の力を見せるチャンスだ!」
「だがあの箱の三分の二、そして後続の全ての兵力が残るんだぞ?」
彼らは国王の顔を見た。
国王は敵が撤退する前に最後の決断を下す必要があった。
一瞬の躊躇の後、国王は決断を下した。
「我々は数でおおいに負けている。我々の最後の綱がこの魔法だ。そして今、我々にとっての脅威はあの箱だ。あの箱を潰せば後は歩兵。違うか?」
国王の意見には皆賛成であった。
「つまり、我々はできれば三度、戦略級魔法を放ち、今分かれて配置されている箱の全てを焼き尽くす必要があるというわけだ。ならば、今の機会を逃してはならん!」
こうして結論は下された。
その伝達は即座に儀式の間に伝わり、彼らは発動の詠唱を始める。
40人前後いる魔導士の声が重なり、重々しく響き渡る。
そして、魔法が発動された。
待機していた機甲部隊の上空に魔法陣が描き出され、光の柱が照射される。
一瞬で装甲車も戦車も溶け出し、数秒後には大量の熱を吐き出す直径500m程のクレーターが残っただけだった。
「やったぞ!一瞬だ!奴らは全滅だ!」
結果の知らせを受けて室内は沸き立った。
皆が肩を叩き合って喜び合う。
魔法使用に反対していた将軍もその結果を素直に喜んだ。
これで死なせてしまった部下の仇が打てたと思ったのだ。
その光は、遠方のジンガー駐屯地でも視認する事ができた。
彼らにとってどう考えても良からぬことが起きた事は明白だった。
報告を受けた司令部はすぐさま偵察に出ているヘリに現地へ直行する様に指示した。
「こちらクローワン、こちらクローワン。現在気流の流れがおかしくて現地上空には近づけない。大凡1km付近を旋回している。オーバー。」
「こちら司令部。少しノイズが酷いが聞こえている。オーバー。」
「光の柱が上がった所にクレーターができている。500m程のクレーターだ。オーバー。」
その報告に司令部がざわつく。
「被害報告を。オーバー。」
トラグル少将は努めて冷静に報告指示を送る。
「1個機構部隊が消滅したと思われる。他の機構部隊は健在。また、後方への影響も確認できず。オーバー。」
「了解した。オーバー。」
そう言うとトラグル少将は無線機を置いた。
事態は急変した。彼らはこの攻撃に対する判断を下さねばならなかった。
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