第108話 それぞれの作戦

メリカン合衆国ジンガー駐屯地では再度司令部での会議が行われていた。


「まさかこの時代に剣を持った騎兵に歩兵がやられる事など想定していなかったな。」

そう言ってトラグル少将は目頭をもんだ。


彼らの用意した部隊は歩兵300名、戦車20両。

そのうち歩兵140名が死傷した。

たかだか5分の戦闘としてはかなりの被害だった。


彼らは騎兵部隊と聞いて戦車隊と歩兵を派遣したが、基本的に歩兵の迫撃砲10基とマシンガンが10基があれば殲滅が可能と判断していた。

しかし、アサルトライフルやマシンガンの攻撃は魔法で弾かれ、彼らの接近を許してしまった。


しかも敵は戦車の砲塔に剣で切りかけるという離れ業をやってのけていた。

部隊長が歩兵を守るために戦車が盾となり機動性を活かせなかったが、切られどころが悪ければ戦車が剣でお陀仏にされていた可能性まであったわけだ。


「剣で戦車に勝とうなんてクレイジーだ。だが、彼らはできるかもしれない。」

「戦車の弱点が分かれば積極的に攻撃してくるでしょうね。」


しかし良い情報もあった。

それは彼らの使う魔法のバリアについてであった。


戦車の砲撃は流石に止められない様で複数の敵を倒す事ができた。

迫撃砲などのエネルギー集中が強いものも効果が高そうだった。

また、マシンガン等でも突然攻撃が通る様になる現象が見られたらしい。


「つまり、あの魔法は完璧では無いという事だ。」

「何等かのエネルギーを消費しているという事だな。」

「航空爆撃さえできればなんの苦労もないんだが。」


それぞれが安堵した様に思った事を口にする。


「あれだけの攻撃を防げるんだ。我々の兵士にも覚えさせたいものだよ。」

その言葉に全員が同意した。


少し騒がしくなったところでトラグル少将が手を打って静める。

「諸君。活路は見えたな。まずは部隊を再編制する。我々の歩兵は彼らの機動力に対してかなり劣勢だ。なので機甲部隊は機動性の高い物だけで編成する。」


再編の方針は以下の様に決まった。


機甲部隊を戦車、マシンガンを装備した装甲車のみで編成し、基本的に相手と距離を保ちながら戦闘を行える編成とした。


前線は機甲部隊が押し上げ、歩兵部隊は分散して陣地の構築を行う。

陣地は歩兵攻撃可能距離から考え、第一陣を2km地点で城塞を囲う様に行う。


2km地点までくれば設置型の火砲でバリアに対して攻撃することができる。


基地周辺は1万の兵士で引き続き塹壕化を進める。


「よし諸君、これからが本番だ!早速準備に掛かってくれ。進軍開始は二日後0600だ。」


「「「ハッ!!」」」



その頃、王城都市シェマーンでも似たような議論が交わされていた。


「以上で報告を終わります!」

アーバッキが報告を終えて部屋を出ていく。


部屋は少しの間静寂に包まれていた。

彼の報告はあまり嬉しいものではなかった。


彼らは今までにこれほどまでに相手側に動向が筒抜けという状況に直面したことが無かった。それは、かなり不気味な事であり、身動きのとりづらい感覚に襲われた。

一つ良い点は歩兵だけは防御がかなり貧弱だという事だろう。


「我らが勝利するためにはどうすれば良い?」

「相手側に攻め込むためにはあの箱をどうにかしなければいけません。」

「その通りです。あの箱さえなんとかなれば周りの歩兵はどうにでもなりましょう。」


「我々が外に出る場合、彼らにその情報はほぼ筒抜けです。大きな活動をする場合、そのことを織り込んで作戦を立てる必要があります。それはつまり、我々が相手を圧倒できる作戦でなければいけないという事です。」


そうしてテーブルの地図に軍に見立てた板を配置していく。


「もし我々が相手に攻め入る場合、全ての騎士団員を送り出す事になります。そしてそれらを4つの部隊に分けて包囲されない様に攻め込む事になるでしょう。」


それから相手の板に見立てた板を自分達の倍で配置する。


「あの箱は60あると報告がありました。今回の相手の布陣を考えると20に分けた3部隊、あるいは広く展開するために5部隊にするかもしれません。それに対して我々が2000の兵を当てたとすると、騎馬では走り続ける事ができないため、馬を捨て相手に対して肉弾戦を挑む形になります。」


「しかし、将軍。アーバッキは剣が入ったと言っていたが彼より技量の無い者が同じ事ができるでしょうか?」

宮廷魔導士の問いかけに将軍は考える。


「確かに。だが攻め込むならやらねばならない。でなければ奴等を倒す事ができない。更にどこか一部隊でも相手に負ければ、相手はすぐに他の部隊の裏に着くでしょう。何せ相手は空から状況が見えているからです。」


将軍の説明に国王は髭をなぜながら考えた。

「これだと、攻撃は一回限りなのではないか?」

「その通りです。肉弾戦を挑んだ後、再度魔導騎兵隊を編成するのは厳しいと考えます。」


「それでしたら、やはり守りを堅め、相手の箱を減らしてから攻撃ですかな。」

「そちらの場合も問題が。まず、戦略級魔法を唱える際に防衛結界を解除する必要がある事です。相手の攻撃が止んでいるタイミングがあるかどうかが問題です。それにあの箱が全てここへの攻撃を開始したら、三日しか持たない事になります。」


国王は目を瞑り深く椅子に腰かけた。

「どちらもあまり気が進まぬな。何か他に妙案はないか?」


それから彼らの議論は夜おそくまで続いた。


敵の力量の計測ができたジンガー駐屯地に対して箱の攻略ができていない都市シェマーンは精神的な窮地に陥っていた。

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