第107話 魔導騎兵と機甲部隊の戦闘

2000の魔導騎士を率いるのは騎士団副団長のアーバッキであった。

彼はその指揮能力と戦況理解のレベルで副団長の座に座る事ができた男であった。


彼は既に相手は自分達の動向は知られており、既に対策を取られているものと考えていた。特にヘリの存在は彼にその確信を与えていた。

相手はどう考えても自分達より高い技量を擁している。そうであるなら、自分達より高い速度で拠点に戻り、報告をしているという事は十分すぎる程考えられた。


「問題は知られている事ではない。それを知ってどうするかだ。」


アーバッキはそうつぶやくと、少し考える。

彼の騎兵隊は一部隊だ。

そうなれば挟み撃ちにするのは容易い。そうであれば左右に部隊を展開しているはずだ。


彼の仕事は敵の力量を測り、対策を考えられる情報を持ち帰る事だ。

そして彼らを戦略級魔法の射程までおびき出す手段を考え出す事。


ならば別に正面の一番厚いであろう部隊と戦闘する必要は無い。

両側に敵がいるとして、左右のどちらと戦うかだ。

彼は相手の箱の速さから配置されるであろう地点を割り出し、素早く隊に命令を出す。


「進路を二時の方向へ!」


そして戦闘準備のためにフラッグを上げさせる。

その合図を見て騎士達は事前の通達通り散開し自身に支援魔法を付与する。

はるか遠方に布陣している敵が見えてくる。その距離約4km。


「全速前進!!」


その号令にラッパが吹き鳴らされ、馬がギャロップモードになる。

接敵まであと40秒。

敵陣には約20の箱と無数の歩兵が見えている。

数は圧倒的にこちらが優っていた。


敵も当然こちらに気付いており、距離3kmの地点で砲撃が開始された。

その砲撃で数名の騎士が跳ね飛ぶ。


「くそっ!魔法防壁では防ぎきれないか!?」

聞いていた通りの戦術級魔法にアーバッキが悪態をつく。


更に第二波。


爆音が近くで鳴り響く。

目の端に飛ばされる馬が映る。

アーバッキの防壁にも無数の破片が跳ね飛び、弾かれている。


そして第三波。


アーバッキは見た。

彼の真横を飛んで行く金属特有の反射をする塊を。

そしてすぐに後ろで爆発が起こった。


「あれは、魔法?いや、魔法で塊を飛ばしているのか?それなのにあの射程・・・。」


彼にはその原理が良く解らなかった。しかし、先ほど見た物は明らかに魔法で生成されたものではない。


しかし、今深く考える時間は無かった。

箱の脇にある筒から煙が上がったと思ったら空から何かが落ちて来て、地面が爆発したのだ。その勢いで更に無数の馬が飛ばされる。

防壁でダメージは防げても衝撃が吸収しきれていない様だった。


それらの攻撃をかいくぐり漸く彼らの射程に入った


「各員攻撃いぃ!!」


彼は剣をかざし、それを相手に向ける。

砲撃のラッパが鳴り響き、彼らが詠唱を始める。


それと同時にあちらから雨あられの様な礫が飛来してくる。

敵歩兵が何かをこちらに向けており、そこが凄い速さで瞬きしていた。

それらは魔法防壁に弾かれるが、それと同時に彼らのマナを削り始める。

数名がマナを切らせてハチの巣にされた。


「なんだ、この礫の数は!前衛は後衛の盾に!後衛は魔法に集中しろ!!」

アーバッキ自ら前衛として盾役をこなしながら指示を出す。


そして、こちらも負けじと攻撃魔法を返す。

火球が次々と相手側に飛んで行き、敵陣に爆発を起こす。


相手の歩兵の生き残りが箱の裏に逃げて行く。

箱はこちらに何度も火を噴くが、こちらも魔法で応戦する。

しかし、火魔法は歩兵には効いているが箱には効果が無い様に見えた。


そして、遂に接敵する。一体接近戦でどこに攻撃すれば良いのか全く見当もつかない。アーバッキは魔法で強化した剣を横薙ぎに振ると堅い手ごたえがあった。

剣の刃が箱から飛び出した頭に食い込むが、馬のスピードに着いて行けずそのまま抜けてしまい、切り込む事ができなかった。


アーバッキ達が走り抜けると、箱の後ろに隠れていた歩兵が背後から礫を飛ばしてくる。アーバッキは右側に大きく舵を切ると箱は器用にその場で回転し、こちらに筒を向けてくる。


戦闘開始からわずか5分、アーバッキは撤退を決め、敵を大きく迂回して走りさる。

敵は背後から執拗に砲撃を繰り返し、無数の味方が跳ね飛ばされた。


ある地点まで敵は追ってきたが、どうにか振り切って逃れる事ができた。

馬は強化しているとはいえ15分近くも全速で走っており、既に限界であった。

敵の攻撃にマナを使い切った者も多数いる様であった。


彼らは敵が追ってこない事を確認すると、馬を降りてほんの少しの休憩を挟む事にした。マナに余裕があるものが馬に水魔法で作った水を与え、怪我をした者は回復魔法で治療にあたった。


とは言え、相変わらず空には敵が飛んでおり、一息ついたらすぐに出発した。


彼らの被害は大凡300。

箱の攻撃をもろに喰らい、跳ね飛ばされた者。空からの攻撃と歩兵の礫でマナが無くなり、死んだ者。もしかすると跳ね飛んだだけで生きている者もいたかもしれないが、彼らを回収する余裕は既になかった。


あちらの被害は歩兵ばかりで箱は結局落とせなかった。

魔法も効かず剣も簡単に通せないとするとかなりの強敵である。

アーバッキは上への報告を考えると大きくため息をついた。

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