第106話 王城都市シェマーンでの議論
メリカン合衆国ジンガー駐屯地側の威力偵察が帰還している頃、王城都市シェマーンでは活発な議論が交わされていた。
それは同じ様に未知の敵への対応方法であった。
切っ掛けは初日に飛んできた謎の物体であった。
けたたましい音を放って城に近づいて来た飛行物体に城壁の護衛隊は魔法で応戦したが、その飛行物体の速度はかなりのもので、彼らは魔法を当てる事ができなかった。
数発の魔法で彼らは撤退していった。
報告ではその飛行物体の中には人らしき影が見えたとの事で、何かの魔道具なのではないか、と推測された。
しかし、その様な中に入る様な魔道具というものは見た事のある者は一人もおらず、それがどれほどの脅威なのかも全く想像がつかなかった。
例の如くに強硬派と慎重派の意見は纏まらず、結局国王の一言で防衛結界を張る事で様子を見る事になった。
彼らは密偵を放ち、それから都市全体に防衛結界を展開して敵が来るのを待つ事にした。
そして次に現れたのが見慣れない模様で塗られた筒を載せた箱である。
それは馬に近い速度で移動し、筒から魔法を放っていた。
その魔法の威力も戦術級で連射もできるとかなり隙の無い存在であった。
敵の箱が去った後、国王と主要なメンバーは会議を開いていた。
「なんというタイミングの悪さだ!勇者さえいればもう少し安心できたものを!」
国王が不機嫌そうに机を叩いた。
「奴等の攻撃魔法はかなりの威力です。防衛結界の魔力が今日だけで1割削られました。回復に三日かかる事を考えると連日同じ攻撃をされると15日で防衛結界は突破されます。」
いかにも魔導士という雰囲気の白髪の老人が報告を入れる。
「我々も準備は整いました。いつでも反撃に出る事ができます。わが軍は生え抜きの精鋭揃いです。どうかご信頼ください!」
更に将軍らしき男が報告をする。
国王はそれを聞いて意見を求める。
「それを期待しておる。で、将軍、どの様な作戦が良いと考える?」
「はっ!陛下の仰る様に相手は未知の敵です。まずは相手の力量を知る為に、小隊を送り込み、その力を測るのが良いと考えます。」
その時、昨日に放った密偵が帰還し、報告に上がった。
「ちょうどよい、報告をしてくれ。」
その言葉に密偵が報告を始める。
「はっ!相手の拠点に城は無く、金属の網でできた壁で周囲を囲われています。更に建物は全て似たような作りをしており、長方形の箱が整然と並んでいるだけでした。防壁も防衛結界も無く、拠点に攻め込む事自体は容易と思われます。ただ、拠点の前に彼らは堀をめぐらしており、我々の攻撃への備えを進めているものと思われます。」
最初の報告に国王たちに少し余裕が生まれた。
聞けば相手は城では無く、貧弱そうな拠点。そして戦争開始から泥縄的に堀を掘っているなどかなり間抜けな話と思われた。
それから、兵士の数や彼らの操る魔道具の数等の報告を受ける。
報告の中で話されるものはあまりに馴染みの無い事ばかりで密偵の報告からその強さを推し量れるものではなかった。
そのため、国王や将軍の感想は、敵はかなり訓練された軍である事が分かったが、勝てない相手でもない、という感じのものだった。
全ての報告が終わると、改めて国王が将軍の顔を見る。
すると将軍は自信ありげな顔で国王に応えた。
「一度我らの騎士で攻め込んでみるというのはどうでしょうか。」
「相手の拠点に攻め込むためには我々は半日を要します。その上、本日の様な魔道具を多数持っているとなると、今攻め込むのは我々にとっては不利な事が多いと存じます。」
宮廷魔導士は冷静な意見を述べる。
「それよりも、我々の近くにおびき出し、戦略級魔法で一網打尽にするのが安全策と言えます。」
「しかしそれでは、魔法を撃つ時に防衛結界が解かれる為、あちらの攻撃を城内に喰らってしまう危険がある。」
侃侃諤諤の議論の末、まずは2000の魔導騎兵で敵陣に攻撃を加え、もう少し敵の情報を得るというものになった。その情報から布陣を再度検討し、戦略級魔法の射程範囲にまでおびき出すことでとどめを刺すという方針になった。
こうして、次の日に魔導騎兵2000が出発した。
しかし、この出陣はジンガー駐屯地側に筒抜けであった。
王城都市シェマーンが密偵を放っていた様に、彼らも偵察部隊を終始配置しており、更に無線機があるため、その情報伝達は一瞬であった。
偵察部隊は本部への報告を追えると再度城塞の動きを偵察する任務に戻る。
ジンガー駐屯地では偵察部隊の報告を受けてその距離と速度からの大凡の時間を計算し、左右に機甲部隊を派遣する。また、ヘリを飛ばして騎兵隊のルートを逐次報告する様に指示する。
魔導騎兵部隊は彼らの頭上に飛ぶヘリに苛立ちを募らせていたが、用心深く距離を取られ手出しする事もできなかった。
ヘリはメリカン合衆国で初めて軍用としてジンガー駐屯地に配置されたものであり、その用途は手探りであり、数も3機と貴重であったため、かなり慎重に運用されていた。
こうして、魔導騎兵部隊が到着する頃には既に出迎えの準備が整えられていた。
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