第105話 敵城塞へ威力偵察を実施する
今、司令部では兵士より集めた魔法に関する情報のレポートを読んでいた。
結論から言えば、募集した魔法に関する情報はあまり参考にならなかった。
悪魔を呼びだすとか、雷鳴の様な力で地面がえぐれる程強力だとか、変身できるとか、未来予知ができるとか、かなり多岐に渡り、収拾がつかなかったと言った方が正しかったかもしれない。
「まぁ魔法だからな。なんでもありだな。」
「そうですね。速射性や威力が知りたい所ですね。」
「悪魔が呼び出されたら、一体どうすれば良いんだ?」
それを見ていたトラグル少将が口を挟んだ。
「ここから学べる事はなんだ?」
その質問に考える様に司令部は沈黙した。
少しした後、中佐の階級章を着けた男が恐る恐る口を開いた。
「何もわからない事、でしょうか?」
その答えにトラグル少将は頷いた。
「その通りだ、ミルトン中佐。結局我々は彼らがどんな魔法を使えるか想像もつかない事が解った。先入観を排し、できるだけ情報を集め、起こり得る事態をできるだけ想像して臨む必要があるという事だ。」
そこへ少し前に出発した偵察隊からの無線連絡が入ったと報告が来る。
「こちらに回してくれ。」
しばらくして無線機から声が聞こえて来た。
「聞こえますか、聞こえますか?こちら第六戦車小隊隊長ゲイリー。オーバー。」
「よく聞こえる。こちら司令部のトラグルだ。そちらの感度はどうだ?オーバー。」
「こちらもよく聞こえます。現在敵拠点正面6kmの地点に待機。残り2個小隊はそれぞれ左右に5km地点。現在まで敵影発見せず。オーバー。」
コナー少尉が昨日作成した簡易な地図を広げ、それぞれの地点にコマを置く。
「よし、それでは射程まで移動し、城壁への攻撃を開始。以降指令通り。オーバー。」
「偵察隊、作戦に移行。以降指令通り。オーバー。」
ゲイリーの率いる戦車隊は1小隊に戦車4両の合計12両。機動的威力偵察のため歩兵は無し。彼の命令で戦車隊は4.5km地点まで移動し、それぞれ砲撃を開始する。
そして、城門へと向かった砲撃は全て命中した。
「全弾命中!ターゲット損傷なし!」
ゲイリーはそれぞれの報告を聞きながら、自分もそれを双眼鏡で確認する。
砲撃を受けたはずの城門には一切の変化が見られなかった。
左右に展開している小隊からの報告も同様で、彼らの砲撃は城壁に一切ダメージを入れられていなかった。
「おい、チャーリー。ちょっと城内に砲撃してみろ。」
ゲイリーの命令にチャーリーはぎょっとしたように顔を見る。
「市街地ですよ?」
「構わん。一発だけだ。確認しておきたい。」
それから一瞬考えて続ける。
「あそこの城壁に櫓があるだろう。あれを狙って外した事にしよう。」
「はあ。」
チャーリーが気の抜けた返事をして作業にかかる。
砲身を上げて城内に目標を変更し、狙いを定めて発射する。
すると、空中で何かで防がれる様に光りを放った。
「な、なんですか、あれは!?」
「解らん。多分魔法で守られてる様だ。」
それからゲイリーは考える。
重要な情報は得られたが、まだ十分な情報は得られていない。
もう少し敵を挑発して情報を引き出すべきだ。
そう判断して3個小隊に命令し、更に城塞3km地点へと接近する。
そして砲撃を開始しようとすると、城壁に敵が姿を現す。
等間隔に並んだ敵の数は大凡30。
どうやら他の小隊の方にも現れているらしい。
ゲイリーは素早く敵への砲撃を指示する。
「城壁上に敵影!撃て!!」
一斉に戦車が火を噴く。
しかしそれらはやはり見えない壁で阻まれる。
こちらの砲撃が一段落しても相手は何もしてこない。
一旦砲撃を止めさせて、挑発する様にその前をウロウロとするがやはり相手は何もしてこない様だ。
「やっこさん何もしてきませんね。」
チャーリーが気の抜けた様な、少しほっとした様な顔で話しかける。
「そうだな。魔法の射程じゃないのか、あるいは魔法の壁のせいであちらからも攻撃できないのか。」
「よし、更に接近して挑発する。各車両散開して1km地点まで砲撃しながら前進!」
チャーリーの指示で戦車が横一列に並んで走り出す。
城門、櫓、場内と色々な所を狙いながら砲撃するが、結局全て防がれ、敵からの攻撃も一切ない状態が続く。
城壁に上がる敵の顔を見ると弾がバリアに当たる度に身構える様に半身になる。
表情は良く見えないが態度からはあまり余裕は感じられなかった。
しばらく挑発行為を続けていたが、相手からの反応は無く、残弾も25%を切ったためゲイリーは撤退の命令を出した。
作戦行動の開始から二時間も過ぎていなかった。
帰還途中に無線での報告を行う。
司令部は作戦行動中にずっと待っていた様で急かす様に状況報告を要求してくる。
作戦時状況を説明し終えるとトラグル少将が質問をしてきた。
「ゲイリー、君はその魔法を突破できると思うかね?オーバー。」
「正直どの様な原理なのかも解らないものに判断のしようもありません。オーバー。」
「城壁に居た敵兵をどう見る?オーバー」
その質問にゲイリーは少し考える。
「攻撃してこなかったのは妙です。多分あちらからも攻撃できないのではないかと推測はしておりますが、そうなると、こちらの弾切れを待っていたのか、何かの隙を伺っていたのか・・・こちらもはっきりとは・・・申し訳ありません。オーバー」
「了解した。任務ご苦労。オーバー。」
こうして威圧偵察の作戦は完了した。
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