第98話 魔王との決着
魔王との戦いを見ている者がいた。言わずもがな、増田とショコラである。
「おい、なんか徐々に削られてないか?」
「一先ずムラートはC『死線からの復帰』で一命は取り留めましたわ。」
最初は増田とショコラは余裕と思っていた。
ムラートが剣を差しいれた所で勝負は着いたと考えたが、それは全くの見当違いであった。
「なんか、こう、無敵状態になるイベ書とかないのか?」
「流石にそこまでの効果のは無いですわ。イベ書は因果の操作をするだけですから。」
危機一髪を使ってもすぐにその効果は薄れてしまう。
一時的効果はイベ書を浪費するだけだ。
「折角ここまで育ったパーティーだ。何とかしないとだ!ショコラたのむぅぅ!」
「えぇえぇ、解ってますわ!だからこうして可能性を。」
そんなことをやっていると、呆然としていたムシュタークの顔が魔王に殴られて跳ね飛んだ。
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「ぐはぁ!」
「おいおい、よぞび、ずるなよな。」
魔王がムシュタークへと歩いて近づく。
「おおおおぉぉお!!」
イブライがそれを止める様に盾で突撃してくる。
リーファルファが裏で召喚した仔フェンリルがそれに続く。
「うじろ、ぎをづけろよ?」
魔王がイブライに振り向き、指をさして注意を促す。
イブライが後ろに目線を送ると、音もなく魔剣が迫っていた。
「うお!?」
イブライはどうにか避けようとするが間に合わない。
魔剣はどうにか避けようと体を捻るイブライの左腕を雑に弾き飛ばし、盾の裏側に深々と刺さった。
仔フェンリルがその脇を駆け抜け魔王に飛び掛かるが、右手で頭を押さえられそのまま床に叩き潰される。
「イブライィィ!!」
イブライは支えきれなくなった盾を手放し、そのまま床に倒れ込むと、必死に止血
しようと、切られた腕の根本を抑える。
「ムシュターク!戦え!こいつを倒す以外に俺たちが生きて帰る道はないんだ!」
その瞬間、6人の身体が光に包まれる。それはその場にいた誰にも見えていなかったが、魔王はその異常を感知した。
そして、アーリンが内からあふれる力を感じていた。
「女神ぃぃ、見てやがるのかぁあ?」
彼は上を向き、そこにいるであろう存在を睨みつける。
そこでは増田がショコラに疑問を聞いていた。
「ショコラ、あの魔王になんかやったの?」
「あら、なんかって、英雄にしてあげただけですわ。何か勘違いでもあったのかしら?」
ショコラは人差し指を頬に当て、考える様に首を傾けた。
それを見て増田もデレ顔で「だよね~」と相槌を打つ。
「お前の思い通りにはさせねぇ。お前の思惑はぶっ潰す。」
ブツブツ言う魔王の背後へ白い光が伸びる。
魔王がそれを防御魔法で弾いて、その飛んできた方向を見ると、そこにはアーリンが再度魔法を放たんと杖を構えていた。
「来い!魔剣ドレドイーター!」
魔王は飛びのいて魔剣を呼ぶが、魔剣は動かない。
「どうしたドレッドイーター!?」
魔法を弾きながら魔剣を見ると、魔剣はその魔力を全て失い、目を閉じていた。
「その魔剣は封印しました。」
「はぁ!?」
わけが分からないという風に魔王が声を上げる。
「くそっ!」
突然に力を増加させたアーリンに魔王は考えをめぐらした。
それはどう考えても女神の力だった。魔王自身にも何度か覚えがあった。いや、魔王になり、冷静にピンチから生き延びた時の事を思い出し、そうだったのだと理解したのだ。そして、それだけの力を持ちながら不条理を放置する女神への怒りを改めた。
打ち込まれる白い光の魔法はあまりに協力で魔王の防御魔法を歪めていた。
その威力を見て魔王はそろそろ終わりが近づいている事を理解した。
「絶対に、絶対に女神に一泡吹かせてやる。」
魔王は憤怒の形相でアーリンへと駆けだした。アーリンの魔法は全て魔法防御で弾かれていたため、アーリンも焦っていた。
「き、きかない!凄く力が溢れてくるのに!こ、来ないでぇぇ!!」
駆け寄る魔王の脇からリーファルファの呼び出した土の精霊ビヒモスがその質量を活かしてタックルをしてくるが、魔王はそれを強烈な炎の魔法で下から跳ね飛ばして焼き尽くした。
あと少しで魔王がアーリンに手をかけようとした瞬間、ビヒモスとは反対側から走り込んで来ていたムシュタークの剣が魔王の腹に刺さる。
「させねえぇぇぇ!」
「っち、仕方ねぇ。道連れは、お前だ。」
とっさに瞬時に魔王は再生しかけていた左腕で体に入ってくる剣の軌道を変え、上半身を捻って右手をムシュタークの腹に下からえぐる様に刺し入れる。
「ぐ、げぇぇ!」
その手はムシュタークを貫き、勢いで体が宙に浮いていた。
「ムシュタァァーク!!」
アーリンの叫びにムシュタークは顔を向ける。
「やれ!アーリン!!」
躊躇はできなかった。今殺せなければ、魔王はまだ戦える。
ゼスダンは致命傷を負い、ムラートはまだ立つ事ができない。
イブライも腕が飛び、まともに動く事ができず、リーファルファの精霊ではかなわなかった。そしてムシュタークは・・・。
アーリンの身体が光り、イベ書が発動する。
それは、突撃したムシュタークに使われ、タイミングが遅れたため保留になっていたイベント、
アーリンは素早く杖を構え、魔王に向けて白い光の魔法を放つ。
その光は魔法防御を穿ち、魔王の頭を消し去った。
激しい戦いは、あっけなく幕を閉じる。
アーリンが急いでムシュタークに駆け寄ると彼は既にこと切れていた。
「あ、あ、ああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
アーリンの慟哭が玉座の間に響き渡る。
女神の
また新たに魔王が誕生した瞬間であった。
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「っちょ!?どういう事だ!?」
「わ、わかりませんわ!ムシュタークの死がトリガーとなって魔王化したとしか・・・。」
「マジかよ・・・結局新パーティー育成しないといけないのかぁ。」
増田が目を覆う様に手をあてて背もたれに倒れ込んだ。
これから使うイベ書の数を考えると頭が痛かった。
「つ、次の魔王はもう少し弱いと助かりますわね。」
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