第97話 魔王との死闘

戦いの合図は、魔王が再度放った光線の魔法からだった。

今度こそ、彼らは防御魔法でそれを防ぎ、魔王へ攻撃を開始した。


「っち、ちゃんと弾けるのかよ。面倒くせぇ。」


全ての能力に置いて魔王は彼らを超えていた。

しかし、彼らも多くの試練を乗り越え、人世界最強と言われているパーティーだ。

不意打ちを喰らったとは言え、総合力では魔王を超える力を有していた。


魔王の愚痴を無視してイブライの盾に隠れる様に三人並んで魔王に突撃する。

撃ち込まれる魔法を全て盾で受け切り、その背後からムシュタークとムラートが左右に飛び出して魔王に切りかかる。


「おらあぁぁ!」

「っせい!!」


その瞬間魔王が手を振り上げると魔王の周りに波動が起こり、その衝撃に二人は吹き飛ばされ、床に転がる。


ムシュタークはすかさず起き上がり、再度魔王に走り寄った。

その歩みは神速と言われる程の速度。剣を向けて突撃する。


魔王はその剣を最小限の移動で避ける事で間に合わせる。そこを狙って背後からムラートが切りかかった。

しかし、その攻撃も既に見切られており、魔王は走り去ろうとするムシュタークの鎧の襟首を掴んで振り回す様にムラートに突き出す。


強制的にムラートと向き合わされたムシュタークはわけも判らず構えた剣でムラートの袈裟切りを受け、床を蹴り上げて魔王の掴んだ襟を外し宙返りをしながら魔王の頭へと突きを繰り出す。さらにムラートがしゃがみながら魔王の足を切り払う。


流石に魔王も意表を突かれたのか、「うおっと!」と声を出して横になって大きく飛び、その攻撃を避けた。


魔王が膝をついて着地する瞬間、床で魔法陣が光り一瞬で魔王を飲み込む。ゼスダンが瞬時に仕掛けた光魔法バニッシュメントだ。

「ぐああああぁぁ!!」


そこから跳ね飛ばされた魔王にリーファルファによって召喚された精霊サラマンダーが噛みついた。

すかさず庇った魔王の左腕は血が出る事もなく炭になり、崩れ落ちた。


魔王は跳ねる様に起き上がると彼らと距離を取る様に飛びのいた。

「くっそ。いきなりピンチかよ!やっぱ素手じゃ無理だわ。」


6人が距離を詰めようとすると、魔王は空間に手を突っ込み、ズルりと剣を引きだした。それは刃渡り150cm程もある厚手の漆黒の剣であった。つばに赤黒い小さな球が嵌っていて、そこには瞳があった。


「なんだ、あの異様な剣は?」

「何とも禍々しい魔剣じゃな。」

イブライの驚きにゼスダンも同意する。


魔王は右手で剣を振り上げ、自分の左腕を切り落とした。

その切り口からは鮮血が吹き出し、その血が集まる様に左手に成った。


「あり、かよ・・・」

ムラートが顔をしかめる。


「気圧されるな!イブライ、頼む!」

「おお!」

状況を変えようとムシュタークが声を上げ、イブライが前進する。

幾重にも加護の付されたその盾は絶対の守り。


アーリンが更に破邪の守りを唱え、呪い無効を全員に付与する。

イブライの前進にムシュタークとムラートが続き、再度攻撃が開始される。


見るからに重そうなその剣は、魔王の片手でやすやすと振られ、何度もイブライの盾を叩いた。その度にイブライには重い衝撃が伝わり、前に進む事ができない。


魔王の左右から機会をうかがうムシュタークとムラートもその長い間合いに上手く入れないでいた。


そこにサラマンダーが魔王の上から襲い掛かった。

一瞬魔王の意識が上に向いたのを見逃さず、ムシュタークが魔王の間合いに踏み込むと、連撃を繰り出す。


魔王は瞬時に左手で水魔法を放ってサラマンダー飲み込ませて潰すと、ムシュタークの剣を自分の剣で全て受ける。更に反対側から来るムラートは一瞬遅れており、魔王は顔も向けずに魔法を放つ。それはアーリンの張った防御魔法に防がれたが、勢いは止まらず、ムラートが後ずさる。


その間にもムシュタークの攻撃は続いていたが、魔王が両手を使った瞬間を狙ってイブライが盾の上縁で魔王の顎を弾き上げた。

「うらあ!!」

「ぐぐぅっ!」


イブライを単なる盾としか見ていなかった魔王は顎を跳ね上げられた姿勢で憎々し気にイブライを睨みつける。

そしてその隙をムシュタークもムラートも逃すはずもなく、その体に剣を刺し入れんと腕を突き出した。


ムシュタークの剣は弾かれたがムラートの剣が魔王の脇に深く沈んでいき、その位置は明らかに心臓を貫いていた。


「やったか!?」

叫ぶムラートに魔王は拳を固めて振り下ろす。上から殴りつけられたムラートは床に叩きつけられ、跳ねた。それによって一瞬で右肺を潰され、虫の息になった。


「ムラート!?」

ムシュタークが叫ぶ。

アーリンが回復の為に走り寄り、イブラムがそれを隠す様に盾を構える。


魔王は数歩下がると、吐血する。

「ごばぁ!ぐべえぇぇ!ゲホッ、ゲホッ!」

そして自らに刺さる剣をズルりと抜き取り、捨てた。


「はぁ、はぁ、なーんちゃってな。」

明らかに肩で息をしている魔王はさも冗談です、と言う様に肩をすくめる。


「ふざけるなぁあ!」

ムシュタークは沸き立つ怒りに任せて魔王に切りかかる。その横をゼスダンの放った光魔法が魔王へと走り抜ける。


魔王は光魔法を防御魔法に任せてムシュタークに剣を構える。と、魔王の左肩に一本のダガーが刺さり、爆発した。魔法を隠れ蓑にダガーを一緒に飛ばしていたのだ。


「ぐあああああぁぁ!!」

魔王の左肩ははじけ飛び、丸くえぐれていた。

「魔法でも融けないオリハルコンの一品じゃ!」

ゼスダンが得意げにネタ晴らしをする。


「ぐぞ、まだ心臓も治っでなぃ、のに。じがだねぇ。」

血を詰まらせながらしゃべる魔王にムシュタークの剣は遠慮なく振られるが、魔王は冷静に対処する。えぐられた肩に少しずつ肉が盛り上がり修復している。


「再生速度が落ちておる!今の内に畳みかけるんじゃ!!」

ゼスダンが叫ぶとムシュタークは更に速く剣を振り続ける。

「うおおおおおぉぉぉ!!!」


「おいおい、ごっぢ、にも、じがんぐ、でよ。」

魔王は息も絶え絶えにぼやく。

ムシュタークが黙れとばかりに切り上げると魔王の剣が跳ね飛んだ。

そして、その剣は勢いを増してゼスダンの腹に突き刺さった。


「「!?」」

ゼスダンは信じられないものでも見る様に、自分に突き刺さった剣を見つめていた。

ムシュタークもまるで時間が止まったかのように動けず、ゼスダンを見た。


「ざっぎの、おがえじ、な。」

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