第72話 反乱の終わり

反乱の拡大は留まるところを知らなかった。

彼らは数に物を言わせて近郊の町に攻め入り、さらにその数を増やし、最大時は5万にも上った。


逆にローメンではあまりに大規模な反乱に発展したために常備兵および市民兵の呼びかけにより3万の兵を正規軍として編成し鎮圧を進めていた。


幾度かの衝突を経て彼らはその数を2万にまで減らし、ローメンの半島南端、港湾の街レギノーに押し込められていた。


当初南から船で他国に渡るつもりだったのだが、先走りをやって契約した船は来ず、他の船も戦争を避ける為に他国へと渡っていた。港に残っているのは小さな漁船ばかりで、2万もの人を乗せて海を渡るのは絶望的である。


「っち、ちょっとばかし派手にやりすぎたな。」

「いや、ちょっとじゃないだろ!?」

エノマスのボヤキにスパルタスが力なく反論する。


「おいおい、どっかいいめどころがあったか?まるで川の流れの様なスムーズな進行だったぜ?それともあれか、ハイ解散!とか言ったら終わったのか?」

スパルタスは今まで起こったことを思い返す。

「・・・確かにな。こんな大規模になるなんて、というか3万を超える人間が戦争するとか初めて聞いたわ。」

スパルタスは顔を覆って言った。


「おかげでクリスも死んじまった。あいつも見境ないと思ったが、まさか半分も引き連れて逝っちまうなんて。」

クリスはあまりに膨れた反乱軍に気を大きくし、復讐に燃える男たちを引き連れて突撃をして死んだ。その戦いで3万の兵を減らしていた。


「っけ、あいつもあれだけの大舞台で死ねたんだ。本望だろうよ。」

「ていうか帰ったらアイツの嫁さんになって言やいいんだ?ダンジョン行ってて、反乱で死にましたとかっ!」

スパルタスが鎮痛な面持ちでエノマスに訴える。


「お前、まだ帰れると思ってたのか!?まぁ能天気な野郎だとは思ってたが、ここまでくるとあっぱれってもんだぜ。」

エノマスはそう言うとこれ以上無いという程の大声で笑った。


「いや、俺は帰るからな!」

「ま、期待してるぜ、将軍殿。」


彼らの軍は補給路を断たれ、大規模な兵糧攻めに合っていた。

最早食料は底を尽き待てば餓死するだけである。

最早彼らは動くしか道がなかった。


「皆、聞いてくれ。俺たちは海路を絶たれ、そして今食料を絶たれた!しかし、我々の希望までもが絶たれたわけではない!!明日、我々は北上を開始し、陸路で故郷へと帰る!これが最後の進軍だ!気合を入れろ!!」


2年の歳月が彼らの精神を削っていた。しかし、このにっちもさっちも行かない状況を打開する最後の進軍、全ての者がここに希望を託した。

男たちが気勢を発する。スパルタスがそれに応えて剣を掲げる。


彼らの最後の進軍が始まった。

敵は道を塞ぐために東西に広がっている。そこにローメンから一番遠い、東側の街道から攻め上がるのが彼らの作戦であった。


彼らは包囲を早く超える為に部隊を3つに分け、突撃を開始した。

東側をクレトース、真ん中にエノマス、そして西側をスパルタスが進んだ。


進軍した先には整然と並んだ盾持ちの兵が待ち構えていた。彼らの密集陣形は歩兵に対して圧倒的な威力を持っており、スパルタス達はその恐ろしさを良く知っていた。


しかし、彼らも無策であったわけではない。

「投石だ!デカいのを投げつけてやれー!」

彼らは適当な大きさの石をいくつか用意しており、それらの石を投げつける。


3キロ程ある石は盾で防いでもダメージがあり、密集しているため避けられない。

敵が突き進んでくれば四散して周りから投げつけ、引けば前進して投げつける。

こうしてスパルタス達は陣形の崩れた箇所を潜り抜ける様に突撃し、どうにか少ない犠牲で駆け抜ける事ができた。


機動性の高さを活かして敵を振り切ると、彼らは高台から他の味方を探した。

他の二つの部隊は抜け出すのに失敗しており、次々とすりつぶされている。


「くそ、助けるぞ!後方から突撃する!続けえ!!」

彼らの軍が反転して一気に敵に突撃を始める。

先ほど振り切った敵も横からエノマスの部隊に攻撃を仕掛けようとしており、それを更に横後方から突撃する形となった。


まさかの反転に敵も対応しきれず、一気に戦場は乱戦となった。

そのおかげで数で優るスパルタス達は敵を殲滅したが、こちらもかなりの犠牲を出していた。


そして遂に彼らは追い詰められた。

どうにかローメンを超えた所まで来ることはできたが、流石に食料も足りず、絶えず押し寄せる練度の高い正規兵に彼らはジリジリと削られ、既に味方は6000名程になっている。エノマスもクレトースも既に死んでいた。


「ここまで、なのか?こんな知りもしない国に飛ばされて、わけも解らず反乱軍になって、仲間も殺されて。・・・いや、俺もこれで最後か。」

最早逃げ道は無かった。

いや、ここに来てから一切の逃げ道は無かったのかもしれない。


スパルタスは意を決して最後の号令をかけた。


————————————————————


俺はアマテラスの報告を聞いてかぶりを振った。

「いや、なんで男三人送り込んだぐらいで国を騒がす反乱が起こってるんだ?」

「え~、なんでって言われても、ねえ?」


ねえ、と言われても何に共感すればいいのか全く分からないぞ。

いや、でも戦いは起こったわけだよな。

「これ、結果オーライなのか?」

「どうなんだろう?どっちかと言うと国力が落ちたイベントに見えるけど・・・。」

「確かに・・・。」


反乱起きたらその国は弱体化しそうだよな?

クッソ―、やっぱ説明無しに放り込むのはちょっと考えた方がいいかもな。


俺は増田から送られたユニットを見ながらどうするか思案していた。

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