第70話 男たちの反乱
スパルタスと男はお互いに拳を構えると周りが移動し、場所を作る。
「スパルタスだ。」
スパルタスが名乗ると、男もちょっと考えてから名乗る。
「クレトース。」
しばらくお互いを観察してにらみ合いが続いたが、先に手を出したのはスパルタスだった。放たれた右のストレートはクレトースの左肩で止められる。
その瞬間にクレトースが右足を踏み込みそのまま右のボディーを打ち込む。
「ぐっ!」
スパルタスはうめき声を上げる。その怯んだ隙に左のストレートが飛んでくる。
スパルタスはそれをくの字に曲げた腕でカバーし、一瞬しゃがみこんでからクレトースの足を掴み、勢いよく持ち上げて浮かすとそのまま地面に叩きつけた。
「っか、あ。」
思い切り背中を打ったクレトースは息をできずに目を見開く。そこを逃さずスパルタスはタイミングを見て腹を踏みつける。息を吸い込もうとしたところで腹を踏まれたクレトースはあまりの苦しさに身もだえして、片手をスパルタスに向けて広げ、降参の意を表した。
「それ結構キツイからな。ゆっくり休んでくれ。」
一瞬の勝負を制したスパルタスはそう言うと一番奥に座っている男を見た。
その男の髪は既に白く、既に身体はピークを過ぎていた。
「あんたもやるのか?」
スパルタスが声をかけると男は首を振った。
エノマスとクリスがなぜがどや顔でスパルタスの両肩にそれぞれ手を置いて並んでいる。
「なかなかいい動きだ。歓迎するぞ。」
その男はクラックと言った。この訓練場の部屋頭の一人であった。
それから三人は剣闘士として訓練をし、二度の試合を行った。
三人とも元の世界では凄腕の冒険者だったため、剣の扱いはお手の物だ。
魔獣などを相手していると臨機応変な戦いを求められるので、それに比べるとここにいる剣闘士は力任せな戦いばかりで相手になる者が少い。
試合が終わればまた足枷を嵌められ、養成所に押し込められる。
三人は最初こそこれも土産話と楽しんでいたが、何せ食べ物が美味くない。それに訓練以外で外には出れず寝る時は大の男が50人で雑魚寝だ。弱った者は放っておかれ、病気になった者は捨てられた。
「おい、クリス、向いの部屋の頭とは話が付いたのか?」
「ああ、二部屋ともいけるぞ。」
「スパルタスの方はどうだ?」
「俺の方もクレトースと段取りは済んだ。」
「俺の方も乗って来た。したら次の新月に決行だな。」
三人は鍵のありかや街の様子等の情報を集め回って反乱を起こす手立てをしていた。
他の仲間達も元々は戦争で負けた兵士が多く、中には稼げるという話で騙されていた者もあった。彼らも自分達の故郷に帰れるならと協力する事になった。
決行当日、食事の時間。
食事の時は配給係りと武装した兵士5人が部屋に入ってくる。その際には全員自分の椀を持って座っていなければならない。配給係りがバケツを持って周り二人の兵士がついており、ドアの内側に一人、外に二人が立ってた。
突然一人の男が立ち上がって大声を上げた。
「もう勘弁ならねぇ!こんなしみったれた残飯飯なんざ食ってられるか!!」
それに呼応する様に周りの男たちもそうだそうだと立ち上がる。
それを見てドアの男が外に応援を呼ぶ様に声をかける。
その瞬間、スパルタスが男の背後から掴みかかり、首を締め上げる。
そして手に持つ槍をエノマスが取り上げてすかさず殺す。
「まずはカギだ!詰所に行くぞ!!」
エノマスが叫ぶと男たちが続く。
他の部屋からも続々と足枷を付けた男たちが出てくる。
どうやらどの部屋も奇襲に成功した様だ。
と言うよりこれだけの男がいて成功しないはずもないのだが。
詰所にも二十人程の兵士がいたが狭い建物の中なので三人並べば幅一杯だ。
三人は巧みな槍裁きで詰所の兵士たちを倒して制圧をする。
鍵は情報通り机の脇板の裏につるしてあった。
エノマスが20本程のカギをジャラジャラと探して足枷を開けようとしているのをスパルタスが取り上げて鍵をバラす。
「ええ、貸せ!こうすれば効率がいい!」
「っち、ちったぁ待ちゃいいだろが。」
「何人いると思ってんだ!?」
クリスも文句を言いながら自分のカギを探し出す。
「皆!足枷に番号が彫ってある!鍵を回すからそれぞれ探してくれ!!」
スパルタスが後ろに声を張り上げると「うおおおぉぉ!」と反応が来る。
「俺は13番だ!」
「俺に5番をくれ!!」
「8番!8番探してる奴はいるか!?」
枷が取れた者から養成所を出るとそこには100人程の兵士が立っていた。
「おいおい、こりゃどういう事だ?」
エノマスがクリスに聞く。
「俺が知るわけねぇだろ?漏れてたのかもな。」
「あの数は、無理じゃないか?」
スパルタスがエノマスに判断を仰ぐ。
「ここまで来て無理も何もあるかよ!こっちだって人数はいるんだ!」
そう言うとエノマスは後ろに向かって叫ぶ。
「俺があいつらを
エノマスは殺意と無理押しだけで生きて来た男である。
全く引く気配すらなく気勢を履く。
「はぁ、お前たちは後ろから投石を頼む!」
スパルタスが後ろにフォローを入れる。
そうして三人はお互いをカバーし合いながら先頭に立った。
投石を盾で防ぐ兵士に三人は槍で襲い掛かり、倒しては引き、飛び出て来た兵士を倒し、落ちた武器を拾って後ろに投げ渡す。
そうして、どうにかして包囲を突破して街を駆け抜けた。
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