第69話 異世界に送られた男たち

アマテラスに送られた三人の男は山間の道の脇に倒れていた。

そのうちの一人の男が頭を押さえながら起き上がった。


そして日差しを感じて慌てた様に辺りを見渡す。

「ここは・・・どこだ!?」


そして近くに仲間の二人がいる事を見つけると、彼らを揺り起こした。

「おい、起きろ!お前ら起きろ!!」

身体を揺らされた二人もうめき声を上げながら目を覚ました。


「あ?ここはどこだ!?なんでこんなとこにいんだよ!?」

一人の男が同じように周りを見回しながらつぶやく。

「は?は?はあぁ!?」

もう一人の男は驚いた様に首を振っている。


そんな二人を見て最初に起きた男は冷静さを取り戻したのか落ち着ていった。

「俺にもさっぱりだ。」


それを見て二番目に起きた男が舌打ちをする。

「っち、クリス、てめぇなんでそんな落ち着いてやがる。」

「お前らの慌てぶりを見て逆にな。」

クリスに鼻で笑われて再度男は舌打ちをする。


「クク、クリス!ここここ、ここはどこなんだ!?なんか知ってるのか!?」

一番慌てている男を見てクリスは右手で顔を覆って天を仰いだ。


「った~く、スパルタス、もうちっと落ち着けや。そんなん俺も知らねぇよ。」

「いや、そんな落ち着いてられるかよ!ダンジョンいたのにいつの間にか外に居るんだぞ?エノマス、お前もなんか知らないのか!?」

「っち、知るか!!」

スパルタスがエノマスに顔を向けると、エノマスは怒鳴る様に返した。


「ったく、一先ず体の傷とかは無いだろ?そんなに慌てる状況じゃねっての。」

既に立ち上がっているクリスが更に落ち着いた様に言うと二人は自分の身体を見渡した。確かに何か不調や不具合の様なものは感じない。装備なんかも特に盗られた様子もなかった。


「っち、なんにせよ都合のいい事に目の前は道だ。まずは街を探して歩くぞ。」

エノマスが立ち上がり、尻の土を払いながら二人の顔を見る。

クリスはそれを聞いて頷いた。スパルタスは未だに釈然としない顔だがやはり頷く。


「おっし、右か左か・・・。」

エノマスはポケットからコインを取り出すと空に弾いた。


「そ、そんな決め方なのか?」

「ああ?ほかになんかいい決め方あるのか?」

スパルタスがモノ申すとエノマスがかみつきそうな勢いで前に出る。


そんな二人を見ながらクリスが肩をすくめて言った。

「おい、裏だぜ?」


それを聞いてエノマスがコインを拾い上げると西の方角へと歩き始めた。

クリストとスパルタスもそれに続いて歩き始める。


しばらく歩くと三人は前方から整然と行進する軍隊を見つけた。

道の幅いっぱいに四列縦隊の兵士はみな一様に槍を持ち、おそろいの鎧を付けて行進していた。


「おいおい、近くで戦争か?そんな場所最近聞いたか?」

ヒントが現れたとでも言う様にエノマスが二人に問う。

「いや、そもそもあの鎧に見覚えがねぇ。なんだあの鶏冠?イカすじゃねぇか。」

クリスがそう言って鼻で笑う。


「ちょっと遭遇するのはヤバくないか?いざこざは御免だ。」

スパルタスは道の脇の森を見ながら二人に進言した。

「っち、別にやましいこたぁねぇんだ。ビビんじゃねえ!」


そう言うとエノマスは行軍を避けながら脇をどんどんと進んでいった。

兵士達も何も言わないのでスパルタスも少しホッとしてそれに追従する。


紅軍は非常に長く結構な距離続いていた。

その切れ目に差し掛かった所で騎乗した一人の兵士に声を掛けられる。

「おい、そこの三人、何者だ!?」

「あ?俺らは冒険者だ。ちょっと道に迷って街を探してるところだよ。」

何という事もない、と言う様にエノマスが返す。


一瞬の間があり騎乗の男が三人を指さして周りの兵士に指示を出した。

「敵の脱走兵かもしれん、捕らえろ!」

素早く周りの兵士が三人を取り囲む様に近づいてくる。


「な!?俺たちはそんなんじゃねぇ!っち、逃げるぞ!」

「わ~、だから言わんこっちゃない!!」

「っく、なんだ?なんか身体強化ができねぇ!!」


結局多勢に無勢、軍隊相手に剣を抜く事も出来ず三人は捕まり、別動隊によって街まで送られる事となった。


「だから言っただろ。」

「っち、街までの案内ができたと思えば上出来だろうがよ!!」

スパルタスが愚痴っぽく言うとエノマスが負け惜しみを返す。

「ったく、こんな不便な案内いらねっての。」

流石のクリスもこれは合意できなかった様だ。


こうして三人はローメンの街へと送られた。

その途中で何度も魔法を使おうとしたが、理由は解らないが全く使う事ができない事を確認したのだった。


街では何日も拘束されて尋問をされたがお互いに全く話が通じず、結局三人は敵の脱走兵として剣闘奴隷として興行人に売り飛ばされた。


三人はそのまま興行人の運営している剣闘士養成所に送られたが、そこはかなり酷い環境だった。彼らの左足には鉄の重りのついた枷が嵌められ、広い不衛生な部屋で50人程が雑魚寝であり、そんな部屋があと5つもあった。


三人が手枷を外されて部屋に入ると奥に居る一人の男がガタイの良い男に目配せをする。すると、その男は立ち上がって三人に近づいて来た。

「っち、こういうのはどこでも同じで判りやすくて助かるぜ。」

エノマスが二人に小声でつぶやくと二人もそれに同意した。


「ったく、頼むぜスパルタス。」

当然の様にクリスがスパルタスに顎をしゃくる。

「はぁ、こんなのばっかだもんなぁ。」

あからさまなため息をつくと、スパルタスが前に出る。


二人の男は向かい合うと拳を構えた。

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