第62話 ンパダとナトゥの旅立ち

ンパダとナトゥが流れ着いてから3年の月日が経っていた。

ペーテルとマリルは二人を我が子の様に可愛がってくれたが、我が子である事を強要する事はなかった。

ンパダとナトゥの親はトトとカカであり、ペーテルとマリルは父と母だった。


ンパダとナトゥはいつか自分の家に帰る夢を隠さなかったし、ペーテルとマリルも心からそれを望んでくれた。それでも四人は既に本当の親子であり、家族であった。


最初の頃、二人は森に入っては狩をし、海に出ては漁をした。

漁は二度と漂流しない様に必ずペーテルについて出た。

そのうちにこの大地の常識というモノを身に着けていった。


ある日の事、二人はいつもの様に狩に出掛けていると、少し奥に入りすぎたため、かなり大きなボアに襲われた。そのボアは巨躯で二人をすりつぶそうと攻撃をし、二人は逃げる事もままならず、どうにか応戦していた。


「ナトゥ!そっちに行ったぞ!」

「おう!てか矢が通らないんだけど!」

二人は脇に避け、木に飛び乗り、弓で反撃をするも矢は浅くしか刺さらない。

こんな事を2時間近く続けていた。


「ンパダ!もう矢が無いんだけど!」

ナトゥの矢が尽きてどうすれば良いか判らずにンパダの顔を見たほんの一瞬、その隙を突く様にボアが突進してきていた。


「っち、ナトゥ!油断するな!」

ンパダは木から飛び降り、ナトゥを抱えて避けようとするがどう考えても避けきる事はできなかった。


ンパダは常々考えていた。弟であるナトゥを必ず自分が守ると、そして自分自身も絶対に死なないと。ンパダが死んでしまったらナトゥはひとりぼっちである。二人がやっていけたのはそれぞれが居たから。ンパダはナトゥを悲しませてはいけないのだ。


「うおおぉぉぉ!」

気合の入ったンパダの雄叫びが森に鳴り響く。

その時、ンパダは自分に力がみなぎり、地面を蹴り上げた体は軽々とボアの突進を避けた。身を包む全能感。今なら勝てる。ンパダはそれが解った。


ンパダは山刀を取り出すとそれに力を籠める。

山刀が不思議な力を発しているのが感覚で分かった。

「だりゃあっぁぁあ!」

ンパダはこちらに向き直るボアに襲い掛かり、一瞬でその首を切り落としたのだった。


「ンパダすげえ!!」

「お、おう。」

生返事を返すンパダ自身も自らの力に驚いて、自らの手を見ていた。

これがンパダが能力の覚醒した瞬間であった。


この世界では田舎で魔力を使いこなすものは居なかった。二人はそれは魔力による身体強化であり、魔法というものであることを知ったのだった。


そうと知ってから二人はトレーニングし、ンパダに続きナトゥも能力に覚醒した。

そして二人はあまりにも自由な発想で能力を進化させていった。

魔法が何なのか理解していなかったため、それがなんでもできる様になると勘違いしていた事が関係していた。


それから更に2年。

二人は町で知った冒険者になる事にした。

目的はただ一つ、自分達の生まれた集落を探すためである。


「そうか、明日出発するんだな。」

ペーテルが確認する様に聞いた。

「ああ、父さん、俺たちの生まれ故郷を探してくるよ。」

ンパダは決意にあふれた声で返した。


「なんだか寂しくなるわ。」

マリルは本当に寂しそうに呟いた。

「母さん、ここは俺たちの家だよ?また帰ってくるんだから安心してよ。」

ナトゥが慰める様にマリルの背中をさすった。


少ししんみりした食事を終えて二人は並んだベッドに横になった。

その部屋は二人が拾われて寝かされていた部屋だった。


二人はそれぞれに部屋を見渡していた。

あの日から一度も壁は襲ってこず、天井は落ちてこなかった。

二人はその部屋で安心して寝る事ができた。


自分達が漂着してから5年、故郷の集落はどうなっているだろうか。

もしかしたらここに近い生活ができる様になっていたりするのかもしれない。

あるいはまだ全然昔のままなのかもしれない。


次の日、空は晴天であった。

ンパダとナトゥは数日分の宿代と愛用の弓矢と山刀という大凡冒険者らしからぬ恰好で村を後にした。


「父さん、母さん、行ってくるぜ!」

「絶対故郷を見つけて帰ってくるよ!」

二人は何度も振り返りながら手を振った。

ペーテルとマリルも二人が見えなくなるまで手を振り続けていた。


それから更に3年の間に二人の強さは誰もが到達する事の無いレベルに達し、数多の魔物を倒した勇者として世界にその名を轟かせた。

その中には2体の魔王も入っていた。


しかし、その世界に二人の探している場所はなかった。


未踏の大地を探し求めて二人の冒険は続く。

最早見つける事のできない生まれ故郷を探すため。


————————————————————


俺は話を聞き終わってフムフムと頷いていた。

なるほどなるほど、つまり俺の送ったユニットが覚醒したと思ったらとんでもない強さを発揮し始めて世界を席巻したと。


どういう事!?

俺が望んでいた事が俺のワールドで起きないで、マスターのワールドで起きるってどういう事!?もしかして俺凄い子供達を失っちゃったって事?俺の世界でそんなユニット一体たりとも見た事ないんだけど?


「でね、私も嬉しくって何度かデュエルしたんだけど、色々と問題があって今このパーティー使うの止めてるのよ。あ、デュエルは全勝だったわよ!」

マスターが意味もなくウィンクする。


更にデュエルも今のランク帯だと敵なしだったと。

問題・・・あったか?

問題はただ一つ、俺のワールドからそんな貴重なユニット出しちまったって事だけだろ!?それ以外の問題なんて皆無だろ!?


俺は意味が解らずマスターの顔をマジマジと見た。

あ、顎にヒゲチョロン発見、って違う、現実を見るんだ俺!

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