第57話 ウルムの進軍

キャッスル戦が始まった。

モニターにはアマテラスが街全体に向けて喋ってる姿が映っていた。

街に対して小粒なアマテラスはなんというか、本人の後ろに拡大された映像がさらに映し出されてる様な感じになっている。


そしてアマテラスの言葉は大声というのでもないにも関わらず全員に伝わった。

「やっほー!みんな聞いて!これから戦が始まるよ!敵はあっちの方角にいるよ!」

そう言ってアマテラスは敵陣のある方向を指さした。


街の中の人間は全て家から出て空を見上げ、アマテラスの話を聞いていた。

パーティー戦と違って色々と景色が壮観だ。

「期限は3か月、敵の城を落とすか敵の軍が戦えない状態になったら勝ちだよ!みんなが強いのは知ってるけど、敵もすっごく強いからね!頑張ってね!」

アマテラスがパンチする様に右手の拳を前に突き出した。


状況的にはすっごく高揚する雰囲気のはずなんだが、何か絵面的に締まらない。

そう、デュエルの度に思うけどアマテラスの話って緊張感ないよね?

なんか小さい頃の運動会で先生がみんなに頑張りましょう!とか言ってるレベル?

まぁゲームだからみんな納得して戦い始めるんだが。


ついついかっちょいいシーンを期待していまうが・・・いや、それがアマテラスのキャラクターだからそれでいいんだ。

今はデュエルをできる事を喜ぼうじゃないか。


そんなことを考えているとアマテラスが帰って来た。

「国之さま、遂に始まるね!」

ワールドでは既に二日目。

モニターに映っている画面が街の外に移動すると、既に軍隊が次々と街から出てきて壁の外に並び始めていた。


「へ?」

それを見て思わず俺の口から変な声が出た。

いや、そんな声だって出るってもんだ。


何せ出て来たヤツらは木の盾と鈍く青光りする切れ味の悪そうな槍を持った腰巻だけ付けた漢達、そして弓矢を持ったこれまた腰巻だけの漢達だったからだ。

な、なんで腰巻だけ?しかも剣持ってるヤツとかいないんだけど?


そして準備が整ったのか出発し始めた。

一塊50人位の集団が一直線に敵陣営に歩き始める。

全部で二の四の六の八の・・・12部隊。大凡600人か。


なんか、まとまって移動してるだけだしなんというか、戦略を感じないというか。

昔やったウォーゲームのゴブリン歩兵大隊並みの期待感しか持てない部隊だった。


この時点で俺は猛烈に反省していた。

なぜにこのワールドでの戦争をしている所を見なかったのか、彼らの軍隊がどんな練習をしているのか、どんな武器を使っているのか。


しかし何をどう反省をしようと今の俺は固唾を呑んで見守る事しかできなかった。


————————————————————


ルガメは空を見上げていた。

王たる彼は執務執行の場所としても使われる神殿から出て街を一望できる場所に立っていた。

神殿の建っている高台から望む街には白いレンガ造りの家々が連なっていた。

その家々からも人が顔を出して同じ様に天を見上げていた。


そして空には可愛くも威厳の無い一人の少女が神託を下している所だった。

白く袖が下まで垂れた見慣れない服を着たその女神は倒すべき敵がいるという。


ルガメはそれを聞いてすぐさま討って出なければと感じていた。

ルガメの軍は負け知らずであり、最早遠征可能な距離に彼の敵は存在しないはずだった。それは街の全ての民が知る事であった。


しかし神託は下された。


全く説得力の無い言葉遣い、気の緩む見た目の女神に何かの悪戯ではなかろうか、という思いもよぎるのだが、どう考え直してもそれが本当の事であり、やらなければならない事なのだと理解していた。


彼はすぐさま臣下の数名に戦争の準備をする様に命を下した。


ウルムには凡そ1300名程の兵士が常時待機していた。

基本的には街の警備やウルムを囲う壁の周りの見張りをしていたが、いつでも呼び出しには応じられる様になっていた。


兵を動かすのは神殿建築のための木材を得るために東へ遠征した時以来である。

その際の遠征軍は300名。今回は神の敵を討つのでその倍を進軍させる事とした。


王の呼びかけに早速神殿に続々と屈強な兵士が集まり始める。

彼らも女神の神託を聞いており、その士気は高かった。


彼の軍の特徴は弓部隊がいる事だった。

周囲の国は専門部隊が無かったのだ。

先ずは弓で攻撃を仕掛けながら前進し、距離が近づいた所で槍で突撃する。

彼の統率のとれた指揮の下、多くの敵が反撃の余地を見出す事もなく敗れていた。


それもあって彼らは勝利を確信していた。


「天空の女神の神託により、我らは進軍する!必ず神敵を内滅ぼすのだ!!」

ルガメが兵士に檄を飛ばす。

兵士が地鳴りせんばかりの声でそれに応える。


ルガメを先頭に進行を開始する。

神殿を出て、町の大通りを進み、街の門を抜ける。

そして敵の居るであろう方向に一直線に進み始めた。


兵士はそれぞれに食料を背負い、武器を携え意気軒昂に進んだ。

夜になり、火を起こして食事をし、そのまま大地に眠る。

朝、日が登るとまた食事をして進軍を開始した。


そして神託から三日目、彼らは己の敵を知る事となった。

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