第54話 エンメカ
エンメカはツキの無い子供だった。
生まれたのは王都の貧民街。
救いは両親が善人だったことだ。
だがその両親も8歳の時に殺された。
借金のカタに悪事を手伝わされ、その罪を全て背負わされて殺されたのだ。
彼はいつか自分が強くなってそんな理不尽を許さない男になろうと決心した。
そのために冒険者を目指していたが、10歳の時に魔力が一切無い事を知った。
この時、彼の人生がどういうモノになるのかは容易に想像する事ができた。
環境に恵まれず、一切の魔力は無く、努力は実らない。
彼には最早何も無かった。
彼はただ座ってこの世からいなくなるのを待った。
多分三日程裏路地の隅に座っていただろうか。空腹と乾きから意識は朦朧とし、最早何も思考していなかった。フッと心が軽くなった気がする。きっとお迎えが来たのだと彼は思った。
気が付くと彼は板間の立派な部屋に居た。
エンメカは周りを見渡す。
左右に均一に立派な柱が支え、その外側にこれまた木でできた壁がある。
かなりの広さだ。
彼が正面に顔を上げると、そこには変わった服装の女性が座っている。
にこにことした満面の笑顔で彼を見ていた。
全く見覚えが無い。
エンメカは冷静になって考える。
自分は裏路地で座ってお迎えが来るのを待っていた。
その時気を失って誰かが拾ってくれたのか?
いや、自分の様な子が居るのは日常茶飯事だ。
それに彼は全くお腹がすいていない。
手を見る。
その手は痩せこけた手ではなく、栄養の通った子供のそれであった。
食べてすぐそんな風になるなんて事が無いのはエンメカも知っている。
そうなるとここは、と後ろを振り向く。
それは広い屋敷等というモノでは無かった。
壁と床と天井が点になるまで、永遠と屋敷が続いていたのである。
彼は確信した。
そう、ここはあれだ、所謂あの世という所だ。
突然怖くなって彼は正面に居る女性を見た。
「エンメカちゃん、ようこそだよ!わたしはアマテラス。よろしくね!」
突然目の前の女性に名前を呼ばれ、一瞬身体がビクリとなる。
しかしここはあの世だ。
という事はこの目の前の女性は神様に違いない。
彼は良い取り計らいを受けられるよう勇気を出して声を出した。
「あ、あの、アマテラス様。よろしくお願いします。」
女神様はなんか嬉しそうに頷いている。
いい人なのかもしれない。
「あの、僕はどうなるんでしょうか?」
エンメカは勇気を出して聞いてみる。
それを聞いて女神様は待ってましたとばかりに言い放った。
「うん、エンメカちゃんには別の世界に転移してもらうよ!」
「え?別の世界?転移、とは?」
「あ、心配しないで大丈夫!今回はちゃんとするから!転移先の人と喋れる様になるし、ちゃんと人のいる所に送るから!」
アマテラスの強引な展開にエンメカは全く着いて行けてなかった。
生まれ変わるの?ちゃんと喋れるとか人のいる所とかどういう事だろう。
しかも、今回はって前回は違ったんだろうか?怖い。
「あの、僕、生まれ変わるんですか?」
「あ、そうそう、そんな感じだよ!新しい世界でそのまんま生まれちゃう、感じ?」
「そしたら、僕お願いがあるんですが。」
それを聞いてアマテラスはドンと胸を叩いた。
「なんでも言ってよ!私にお任せだよ!」
エンメカは嬉しくなった。何せ相手は神様なのだ。
きっとなんでもできるのに違いない。
「どうか、次の人生では僕も魔法を使える様にしてください。」
その願いを聞いてアマテラスは一瞬で自信満々の顔を曇らせた。
何か不味い事を頼んだのだろうか?
いや、でも誰でも使える魔法が自分だけ使えないなんてことがあっていい物だろうか?それをただ使える様にするだけの事に何が難しい事があろうか。
「ごめんね、エンメカちゃん。次の世界では魔法は使えないんだよね。」
エンメカはそれを聞いて膝から崩れ落ちた。
「そ、そんな。また僕は魔法を使えず虐げられる人生を歩まないといけないんですか?」
「え?虐げられる?魔法使えなくて虐げられる事はないと思うよ。そもそもこの世界は魔法使えなし。」
エンメカは顔を上げる。
この世界、女神はこの世界では、と言った。
「つまり、僕以外の人も魔法を使えないってことですか?」
「そうそう、この世界にはマナが無いから誰も魔法を使えないんだよ~。」
それを聞いてエンメカはがぜんやる気が出て来た。
彼は魔法以外では非常に利発で優秀な子どもであった。
そのため冒険者に成れる事は確実だと信じていたのだ。
次の世界では魔法が存在しない。
全員同じならきっとやっていける。
次こそは理不尽の無い世界を作るんだ。
エンメカはそう確信してアマテラスに感謝した。
「アマテラス様、ありがとうございます!僕、頑張ります!!」
「うん!応援してるよ!」
「ところでアマテラス様はなんの神様なんですか?」
「え?なんの?」
「例えば太陽の神様とか、大地の神様とかいろいろな神様がいると思うんですが。」
「うーん、私の名前は天を照らすって意味だから・・・太陽の神様?」
なぜ疑問形?とエンメカは思ったがそれは口に出さなかった。
「僕はあなたに新しい人生をもらえたことを感謝します。新しい世界にいったら、あなたの子として信仰を深め、広めて行くことを誓います。」
それを聞いてアマテラスは目を丸くした。
「えぇ!?私お母さん?そうかぁ、確かにワールドは私の子供の様なもの、なのかな?そしたらみんな私の子ってことだぁ。」
なにやらアマテラスは一人納得した様に頷くとエンメカを抱き寄せて頭を撫ぜた。
「じゃ、エンメカちゃん、いってらっしゃい!みんなと仲良くね!!」
アマテラスの思わぬ行為に顔を真っ赤にしてエンメカは元気よく返事をする。
「は、はい!」
彼は長らく忘れていた母親を思い出していた。
彼が小さいころ、彼の母も良くそうしてくれたものだ。
もう一度頑張ろう。エンメカはそう固く決心した。
そしてふと、そう言えば何を頑張るんだろう、と疑問が沸いた。
その瞬間、エンメカは新たなワールドへと送られたのだった。
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