第49話 レギンの斥候
斥候に出たレギンは一時間程で集落に到着した。
近くの森から身を潜めて集落を観察する。
そこには驚愕の景色が待っていた。
「なんだこの集落は。」
その集落は彼が今まで見た中で一番異質な作りをしていた。
集落は石の塀に囲まれており、石で作られた三階程の高さの塔がそびえていた。そしてその周りには複数の土塀の家が建ち、更に適当に集めた木と皮で作ったテントの様な家々も建っていた。
土塀の家も何やらシャキッとしない作りで、熱で溶けたチョコレートの様に角が丸く下にダレており、建築技術の拙さが明白であった。
人々の服装もかなり違和感のあるもので布の上に毛皮を羽織った様な恰好の者も多く、中には何か獣の歯で作った首飾りをいくつもしている者もいた。
しかし、何よりも感じたのはその全体的に薄汚れた雰囲気だった。
どう考えてもそれらの服は殆ど洗濯されていないだろう感じで、彼らの痛んで纏まらない髪の毛を見ても水浴びもあまりしていない様だ。
そのせいなのか村の近くは一種独特な匂いを漂わせていた。
そう、あれは何日も旅に出た時の自分達と同じ状況だ。
旅は過酷である。たまに水浴びもするし服も洗うが、毎日できるというものではない。
それが家があり、定住している集落全体でそんな者ばかりだとすると、これは蛮族の集落に違いない。
レギンはそう確信した。
そうなると忍び込んで情報を探るというのは難しそうだ。
きっと言葉は通じないだろう。
いや、そもそも服装が違い過ぎるし、誰かを仕留めて服を拝借しても潜り込むには人の数が少なかった。多分すぐに外部の者と露呈するだろう。
「人口は大凡300人程か。そうなると成人男性は100~120人程度か。手斧を持っているがあれは石だな。かなり未発達な地域だ。しかも集落からの道も舗装されていない。多分ここは独立した集落だな。」
ある程度の情報と推論を立てるとレギンは一旦引いて今後の方針をライオネルに委ねる事にした。
レギンがライオネルの所に戻るとルーメンはかなり切羽詰まった状況であった。
彼らが最初と少しずれた場所に移動していたのはルーメンが嘔吐を繰り返していたからそれを避ける様に移動した様だった。
魔力が高いとある程度の不調というのはすぐ回復するものだ。
しかしここではそれが無い。そうなると一番体力の無いルーメンにはかなり厳しい環境なのかもしれない。
レギンはそんなことを思いながら見て来た事を仲間に報告した。
ライオネルはしばらく考えた後口を開いた。
「俺たちは今、何故ここに居るのか、どういう目的でここに送られて来たのか解っていない。だがその謎の集落が近くにあったのはきっと意図的だろう。」
ライオネルの言葉に他の三人も頷く。
「問題はあのクソ女神はその集落に対してどうして欲しいのか、だ。不信仰の集落を滅ぼして欲しいのか、あるいは女神信仰のそいつらが何か困っていて助けて欲しいのか。」
全く女神の意図が分からず四人は黙り込んだ。
ライオネルは自分の経験を思い起こしていた。
彼は15の時から冒険者をしていた。それから25年、超一流とまでは行かなかったが一流と言われるレベルまでは達していた。
そうなるまでにかなりの経験をしていたが、今の状況に使える様な経験は持ち合わせていなかった。無論、奥地の集落に行った事はある。しかしどこの集落も少なくとも漆喰の家を建てられる程度の技術レベルの生活を営んでいた。
いや、昔、野盗の大規模集落というのがあった。それはテントを数十張って生活をしていた。ただ、野盗は状況に応じて移動をするからそういう生活をしていただけだった。今回の様に塔を建て、土塀の家があるという事は定住が前提という事だ。
(野盗の群れ、ではなさそうだ。やはり信仰に関する何かなんだろうか。そもそも自分達は何かを成せば元の世界に帰れるのか?いや、あの女神は俺たちが死んだと言った。それが本当だとすると・・・。)
そこまで考えてライオネルは考えるのを止めた。
今は目の前の状況にどう対処するか。
ライオネルはルーメンに目をやる。
かなり苦しそうだ。
手持ちの薬草はあと2日分。
レギンが歩きながらそれらしい草を探していたが、知らない草ばかりで、役に立ちそうな草を見つける事はできなかった。
魔法が無い今、鑑定する術も持たなかった。
決心した様にライオネルは全員の顔を見た。
「一度、集落に行ってみよう。ルーメンが休める場所が得られるなら今はそれが最良だ。」
再度ライオネルは全員の顔を見回す。
ガーランドが頷いた。
レギンも躊躇の表情を浮かべながら頷く。
ルーメンが一言「すまない」と詫びた。
今日は既に日も落ちたため集落に入るのは次の日とした。
夜は人を怯えさせる。
そんな時に訪問しても良い結果を得られない事をライオネルは経験で知っていた。
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