第44話 俺、マスターと交渉する
俺はさらに疲れた体に鞭打って喫茶『創造してごらんなさい』に向かう。
カランカラン
俺が扉を開けるといつも通り小気味良い鐘の音が鳴った。
「あれ?国立さん今日って休みじゃなかったでしたっけ?」
木花さんが俺を見て声をかけて来た。
創造してごらんなさいは休日はピークタイムが無く、ぼちぼち混んだ状態が続くので俺は用無しなのだ。
「いや、今日はマスターに用があってきたんだわ。」
俺が答えると木花さんは一つのテーブルを指さした。
そこには増田がいた。
増田、何気に熱心だな。
「よう、ランク上がったか?」
俺が声をかけると、増田とマスターが顔を上げる。
「おう、国立。」
「あら、常之ちゃん。今日はどうしたの?」
二人がちょっと驚いた様に顔を上げた。
俺が人間が生まれた事を伝えると二人はお祝いの言葉をくれた。
マスターは本当にうれしそうに、増田は形なりに。
「で、実は有り金の殆どをつぎ込んでイベ書買ったんですが、ちょっとマナ関係は使わない様にしてるのでトレードしてもらえないかと思いまして。」
俺は今日の要件を伝えると持ってきたイベ書を見せた。
「あら、
「じゃ。」と手を出す増田を俺は制する。
「いや、やらんぞ?今イベ書がとにかく要るんだよ、なんか別のSR出してくれ。」
「っち、俺もSRはどんどん使っちゃうしな。」
っち、じゃねぇよ、ちゃっかり者め!
「私も先日で出せるの全部出しちゃったしねえ。」
まぁあれだけのイベ書もらったんだし、当然か。
最悪先日もらったイベ書の精算として引き取ってもらえればと思うけど、どうにかしてイベ書を手に入れたいな。
そんなことを考えながらもう一冊持って来たSR『淘汰による選別』を思い出し、そちらも見せる。
「あとこれもなんですけど、俺のワールドだと怖くて使えなくて。なんか使い道ありませんか?」
「それもどっちかと言うと
そうか、どちらかと言うと増田レベルの方が危機系のイベントは効果が高いのか。
危機系のイベントで俺は思い出した様に言う。
「増田、なんか危険時に使う様なSRは残ってないのか?あれっていつでも使えるわけじゃないじゃん?」
俺が改めて確認をすると、増田も思い出した様に顔を上げた。
「そう言えばそんなのがいくつかあったかも。今度学校に持ってくわ。」
俺は増田と固い握手を交わし、不要なSRの引き取り場所を確保して心の中でガッツポーズをした。
どうか増田が使えそうなSRを持ってますように。
「あとマスター、実は人間が生まれたのでユニットのトレードもお願いしたいんですけど。」
「もちろんよー。」
マスターはにこやかに承諾してくれた。
「でも二つ条件があるわ。」
「二つ、ですか?」
俺はちょっと引き気味に聞き返した。
「一つは、今後ずっと私をママと呼ぶこと。もう一つは、ん~、ハグでもさせてもらおうかしら。」
「もちろんお断りします。」
いや、即答でしょ!クイズチャンピオン並に即答でしょ!
「あら残念。」
え?別条件の提示はないわけ?トレードしてくれますよね?
しばしの沈黙・・・。
俺はスッと持ってきたRイベ書を一つ差し出してみた。
「仕方ないわね。今後ずっと私をママと呼ぶこと。」
おお、条件が緩和された。
俺はもう一つRを手渡してみた。
「仕方ないわね。今後ずっと私をママと呼ぶこと。」
おお、さらに条件が・・・って変わってない!
俺がマスターを確認する様に見ると、マスターは微笑んで俺の目を見つめてくる。
いや、どういう事ですか!?
そう言おうとして、マスターの右手が差し出されているのが目に留まった。
俺はその手に叩きつける様にもう一つ取り出したRイベ書を置いた。
マスターはそれをチラリと見てしまうと言った。
「オーケー。交渉成立ね♡」
♡じゃねぇよ!
俺の殺意のボルテージは一瞬でその限界を突破し、一気に冷静になった。
これがあれか、一周回ったというやつか。
「ありがとうございます!!」
俺はさわやかにお礼を述べると、それ以上何も起こらない様に店を後にした。
帰りがけに木花さんに挨拶で上げた右手が心なしか震えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます