第43話 俺、新時代の幕開けを迎える

SRスーパーレア『大いなる試練』の結果、俺のワールドで生き残った猿はたった一種だった。

猿たちは食べ物を求めて世界を放浪した。

異種の猿同士で獲物を取り合って戦う事もあった。


食料も乏しく、他の生き物も徐々に数を減らしていく。

しかし、どうにかギリギリ一種が生き残り、獲物との均衡を保ったのである。

アマテラスから「助かったかも」と言われた時は心底ホッとした。


俺は結局寝る事も出来ずに一晩中モニターにくぎ付けだった。

何もできないのに。

創造主なのに何もできない、なんとも歯痒い。


俺の手元には既に一冊のイベ書もなく、ただただ見ているだけ。

猿の集団に危機が迫る度にモニター越しに応援するだけ。

いや、危機の時にしか使えないのでアマテラスが保管してたCコモン『危機一髪』を何度か使ったんだが、所詮Cレベルのイベ書で、焼石に水だった。


その結果どうにか生き残ってくれたのが一種の猿達だ。


こいつらはこの危機的状況を生き抜くために多くの工夫をしていた。

動物の皮を被って蔓なんかで縛って服の様に着るようになった。


また家らしきものも作る様になった。

木やら毛皮やらを組み合わせてテントを作って住む様になったのである。


使う道具なんかも色々と工夫されて石の刃先のついた槍や斧なんかを作り始めた。

器用なヤツはなんと骨とかで飾りを作ってたし、笛や太鼓なんかも作ってた時には本当に驚いた。こんな時でも、いや、こんな時だからこそ楽しみが必要だったのかもしれない。


驚くべき猿達だ。そう思って俺は彼らをまじまじと観察した。

いや、そいつらは最早猿ではなかった。

行動も見た目的にもかなり人間だ。

うんあまりに連続的な変化で気づかなかったわ。


筋骨隆々でゴツイ顔つきだがリアルワールドでもたまに見る様な感じの顔だ。

女性もやはりごついが同じくいなくもない顔な気がする。いや、いるな。


「なぁ、アマテラス。これってもう人間なんじゃないのか?」

「え?どうかなぁ。」

ちょっと確信が持てない感じでアマテラスはステータス画面を確認し始めた。


「国之さま!これ人間だよ!遂に人間が誕生したよ!!」

「マジかああああ!!」

俺は素で歓喜の声を張り上げた。

遂に俺はやった!多くの犠牲と浪費を経て遂に人間を誕生させたのだ。


俺はアマテラスと手を取り合おうとしてすり抜けていた。

頭はなでた感覚あるのに謎だがそんな些細な謎は置いておいて、頭のしびれる様な喜びにしばし身を浸していた。


いや、落ち着けおれ。これはゴールじゃない!これからが本番だ!

彼らの生活はまだかなり不安定で田舎の村程のレベルにも達していない。

今大切な事はこの状態からさらに進歩させることだ。


そのためには再度イベ書を手に入れる必要がある。

あと、このワールドをもっと進めるのもそうだが、また絶滅へ追い込む様なイベントが起こった時に、彼らを救出するためのイベ書が必要だ。


とは言え、手持ちのリアルイベ書は全部突っ込んだし、連戦連勝で貯めてたイベントポイントもガンガンイベ書にして使ったから残り3000ポイントだけ。


その3000ポイントはまたデュエルができる様になった時の為にとってあるのでできれば使いたくない。

そうするとあとは先日もらったバイト代だ。あれを全突っ込みする!


俺は眠たい目をこすりながらリアルガチャを回しに向かった。

今日は休日なので学校は休みだ。

本当は天野さんとも会いたかったんだが仕方がない。


で、リアルガチャの筐体に到着。

そこで俺はほぼ全財産の6万スコアを突っ込んで60連ガチャを実行する。

結果はSRスーパーレア8、Rレア17、UCアンコモン28、Cコモン7。


何気に俺の引きは良い気がする。

良い気はするんだが、SRの一冊は『神の怒り』だった。


「うおおおおぉぉい!」

俺は吠えた。いやこれは誰だって吠えるだろ。

SRがダブった上に『神の怒り』とか、もう二度と使わないぞ!


いや、落ち着け、これはUC枠で当てたイベ書だ。

そういう事にしておこう。


残りのSRは『加工技術の飛躍的進歩』『長足の進歩』『淘汰による選別』『再誕』『圧政からの解放』『術式の進歩』『選民の奇跡』だった。


『加工技術の飛躍的進歩』『長足の進歩』は発展系のイベ書なのでありがたい。

これはすぐに使うやつだな。


『圧政からの解放』『選民の奇跡』も俺のワールドで使えそうな気がする。

『選民の奇跡』は優れた能力者が偶然集まって大きな問題を可決するというものだ。

SRなのできっと結構レベルの高い問題を解決してくれるはずだ。

何か起きた時のためにとっておこう。


『術式の進歩』は儀式魔法が大きく進歩するらしいので不要だ。

これはマスターにこの前のお礼として渡しちゃおう。

あ、代わりになんかもらえないかな。


『淘汰による選別』は逆にかなりヤバいヤツだ。

これ系はもう絶対使わないぞ。

ふむ、これもマスターにあげてしまおう。

何せSRだからな。きっと喜ぶに違いない。


そして良く分からんのが『再誕』だ。

何が判らんってSRなのに対象がユニット一体で、ただ記憶を持って転生するだけなのだ。いや、幼い頃から記憶もってれば凄くなれそうだが。でも高々一人だぞ?

SRなら世界的な効果が期待できるものだと思うんだが・・・ちょっとマスターから情報収集だな。


Rの方で目についたのは『賢王の誕生』『鼓舞する号令』『記録の伝承』だ。

『賢王の誕生』は動乱の後、賢王が誕生するらしい。動乱とか当分やめて欲しい。

『鼓舞する号令』は戦場での指揮を上げるらしい。クランやキャッスル単位のイベ書だ。まぁ俺のワールド、クラウンとか無いしな。保留しとこう。


で、『記憶の伝承』だ。

こっちは生まれ変わるんじゃなくて記憶を引き継ぐらしい。『再誕』と何が違うんだ!?運営の効果管理が迷走してるとしか思えんな。


俺は家に帰りつき、アマテラスと二人でイベ書を今使うもの、いつか使うもの、万が一の時に使う様、いらないヤツに分類した。


そして、今使うものを使ってもらう様にして俺はまた家を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る