第42話 俺、危うく猿達を絶滅しかける

俺が寝る準備を終えて今後の方針を考えながら部屋に戻るとアマテラスが何やら慌てた様子だ。


「あ、国之さま!大変だよ!これ見てこれ!」

俺が何事かと慌ててモニターを覗くと、そこには惑星全体が映し出されており、その上下が白い色で塗りつぶされた様になっていた。


「え?なにこれ?巨大生物・・・とか?」

「違うよ国之さま!こんな国も覆う魔獣いたら誰も倒せないよ。これ全部氷だよ。」

「は?だって星がかなり白くなってるぞ?というか一体何があったんだ?」


俺は何が起こっているのか解らずアマテラスに質問する。

「うん、かなり前にも星全体が凍った事があったんだよね。普通発展レベルが上がると安定するから放置だったんだけど・・・もしかするとこれ『大いなる試練』の効果かも?」

「え?試練って、これが試練!?なんかもっと、こう、巨大モンスターが国々を襲うとか魔王的な存在が現れて世界を征服し始めるみたいなのじゃないのか?」


「国之さま、このワールドでそんな試練は無いと思うよ。それよりも次々と動物達が減ってきてて。かなり深刻な状況だよ!」

「ま、マジか。どうしよう、せっかくここまでこれたのに。そうだ!確か『危機からの生存』があっただろ、あれの効果が発動してないか?」


「あ、あれね!あれは使えるタイミングが限定されてるから残ってるよ!」

「それ今だよ!今つかわなくていつ使うんだ!すぐ使ってくれ!」

「アイサー!」

アマテラスは敬礼してすぐにイベ書を選び出し、それを投入した。


————————————————————


世界は凍えていた。

空も大地もその寒さを誰かに思い知らせるかの様に、灰色をしていた。


その大地で二本脚の猿のおさは頭を抱えていた。

彼は誕生の地で迷っていた。

多くの仲間はどんどんと旅にでていき、二度と戻る事はなかった。


既に森は無くなっていた。

周りに見える植物の殆どは固まる様に生える低木と草ばかりだった。


先祖代々引き継いできたノウハウの半分近くは既に使い物にならなくなっていた。

甘い実がなる木があった場所を教えられたが、そこには木がなかった。

その場所を教えてくれた猿もその木を見たこがなかったらしい。


代々それを教える事になっていたので教えてくれたのだ。

いつかまたそこに甘い実のなる木が生まれるかもしれないから。


夜。彼らは毛皮を羽織り、火で暖を取り、身を寄せ合って眠った。

寒さは嬉しいものではなかったが暖を取る方法はあったので気にはならなかった。

それよりも厳しいのは食料であった。


彼ら同様獲物達もかなり数が減っていた。

周りの集落との競争も激しくなっていた。


これ以上若い者を亡くす事はできない。

獲物の取り合いになった時は横取りでない限り争わずに帰る様にしていた。


大昔には槍を投げれば誰でも獲れる程獲物が大量に走り回っていたらしい。

暖かい火に当たって寝ていると、偶にそんな幸せな夢を見た。


この地を離れると大量の獲物が闊歩する地があるという噂もあった。

しかし、今まで帰って来た者もいないのに一体どうやってそんなことを知ったのだろうか。他の集落には帰って来たものがいたのだろうか。


今はまだ食べられている。

だが、明らかに自分が若い頃よりも獲れる獲物が減っていた。

これから先もこのまま食べられる環境がつづくのか、全く判らなかった。


ふと焚火を見ると、大きな骨がくべられているのが目についた。

誰かが骨髄を取り出すのに割り易くなる様に火にくべたのだろう。


猿は周りに既に誰もいないので自分で頂く事にした。

猿が手を伸ばしたその瞬間、骨が熱で割れて少し転がった。

鋭く割れた骨は、あたかも進むべき道を示しているようであった。


それを見て猿は理解した。

この骨の指し示す先に向かうのだと。


次の日、彼は同胞を引き連れて旅に出た。

左右の指の関節を順番に抑えて数えても足りない人数。

未だかつてこれ程の人数で旅に出た者はいなかったかもしれない。


他の集落からも数人、旅に出たがっていた者が加わった。

旅に出たがる者は若い者が多かったため非常にありがたい事だった。


彼らは日にほんの20キロを進んだ。

周囲には若い男を走らせ、獲物と水の確保を最優先した。

良い場所が見つかると彼らはそここそが求める地と考え留まった。


しかし、冬の訪れがその地が仮初であると教えてくれた。

稀に2,3年居る事ができたが、そこも徐々に獲物が減っていった。

結局彼らは追い立てられる様に、旅をつづけた。


旅に出る前には骨を焼き、その指し示す方向を目指した。

食料のある場所で彼らは子を生し育てた。

冬の旅立ちでは老いた者を残し次の地を探した。


世界は徐々に冷えていた。

彼らは安住の地を探して旅をつづけた。

そしてある冬に遂に猿の長は自分が旅に出られないと悟った。


彼は最早ここまでであった。

身体は衰え、噛む力も弱くなっていた。

狩は最早できない。


彼は若く賢い猿に次を託した。

彼はその若い猿に安住の地がある事を約束し、一本の骨を渡した。

それは一番最初に旅立ちを指し示した骨だった。


彼と数匹の猿が若い一団を送り出した。

彼らの下に残っているのは一食分の食事、焚火と数枚の毛皮であった。

旅立つ彼らの後ろ姿は、当初より減っていた。


しかしきっとあのまま留まっていたら、あの厳しい競争の世界で彼らは生きていけなかったのに違いない。

猿の長はそんな気がしていた。


彼らは質素な最後の食事を楽しみ、それから四日後、空腹を抱えながら死んだ。

焚火だけがまだ消えることなく燃え続けていた。

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