第40話 俺、増田のエージェントにほっこりする

あのあと増田は避ける様に身体を傾けながらもマスターのアドバイスを受けて色々とイベ書を使っていた。まぁ最初はみんなあんな感じだからそのうち慣れるだろう。


そのうち他の客もいつも通りマスターにアドバイスを求めてくる様になりようやく増田は開放された。


「マスターのアドバイスどうだった?」

俺がおかわりを注いでやりながら増田に話しかけると、増田は疲れた様に答えた。

「ああ、参考になったよ。だがちょっと毎日は来られないな。」


この猛者、コーヒー無料だからって毎日くるつもりだったのか。

まぁでもまた来てくれそうで良かった。

「そうか、参考になったなら良かった。マスターはいろんな人から情報も入るし、かなりの知識量だからな。来て良かっただろ?」


増田も頷いてから自分を落ち着かせる様にコーヒーを啜る。

まだ精神的ダメージは回復していない様だ。

「ちょっと!あなたがマスターをこんな所に誘いだした犯人なのね!?」

そこへ甲高い声で増田のエージェントが割り込んできた。


「増田、お前のエージェント服装買い換えただろ?」

俺はそれを無視して増田にエージェントの服装について聞いた。

「貴方なぜそれを!?」

それに答えたのは増田ではなくエージェントだった。

増田がブッとコーヒーをカップに戻す。


器用だな。

しかしこいつもアマテラスと負けず劣らず天然か。ホッとするぜ。


「いや、ショコラの服装はずっとこれだから!」

「マスター、前の服の方が断然いいっていってたじゃないですか?こやつにも特別見せてあげましょう!マスターの選ばれた私の素敵な脚線美!」

「ま、待つんだショコラ!それは秘密!いや、俺だけの特別だから!他の人にはお前の本当の可愛さを見せたくないから!!」

「マ、マスター!それほどまで私を!!」


その会話を聞いて所々から噴き出した声が聞こえてくる。

当然増田もそんなこと判ってて顔は真っ赤だ。


おいやめろショコラ、既に増田のメンタルはゼロだ。

これ以上やったらここに来られなくなるだろ!

「おい、増田、今日はそろそろにして是非また来てくれよ。」


俺が引き際を用意してやると増田も素直に頷いた。

「そ、そうだな。今日はこれくらいにしておいてやるか。」

なんだその雑魚キャラの捨て台詞みたいな挨拶は。

「流石ですマスター。皆、マスターの実力に恐れおののいている事でしょう。」

いや、多分誰も何も見せてもらってないと思うぞ?


増田はせかせかと世界創造ワールドクリエイトをしまうと、「ゴチ」と言って店のドアに向かって歩き出した。

「あらん、焙琉あぶるちゃん絶対また来るのよ~♡あなたきっと強くなるから。」

増田はマスターの呼びかけに左手を少し上げて応えて帰っていった。


何となくかっこよく振る舞ってるが、恥ずかしくてこちらを向けなかっただけだろうな、あれは。


俺がカウンターに戻ると木花さんがしゃがみこんで笑いを堪えていた。

「ぶ!あははははは!!」

思わず俺が笑いだしてしまうと周りの客も笑いを堪えていたんだろう皆一斉に笑い始めた。

増田、一瞬で周りの空気を支配するとか、あいつ一体何者なんだ!?


その後、俺はバイトを滞りなく終えてリアルガチャを回してから帰った。

因みに当てたSRスーパーレアは『危機からの生存』と『偉大なるアルゴ』だった。


『危機からの生存』は名前の通りヤバい時に使うと生き残りが可能というものだ。

しかもSRという事はかなりの事態への対応が可能という事らしい。


もう一つの『偉大なるアルゴ』は説明によると大いなる知的存在が出現する、らしい。一体何が出てくるってんだ?賢い猿が出てくるにしてもモノリスとの違いが判らないな。


他に目についたのはRレア『代償を伴う発展』『占いの啓示』だ。

最初のは副作用は分らないがワールドを発展させるのに役立ちそうだ。

もう一つのは、行くべき道を示してくれるらしいが、一体おれのワールドでは誰が占ってくれるんだろうか。謎である。


俺が帰るとアマテラスがいつも通り俺にワールドの報告をしてくれる。

「国之さまお帰り~。今ね、かなりの地域に散って生活をし始めてるよ。」

俺がモニターを見ると確かに最初の大陸から北の大陸へ渡り東へとその生存領域を広げていた。


「しかし見た目的にはあまり進歩してないな。」

「そうだね~。やっぱもっとイベ書がいるのかな?」

アマテラスの言う事も確かだろう。やはりイベ書が何等かの効果を発揮しているとしか思えない。


俺がモニターに目をやると、何やら猿達の住処から煙が立っている。

「アマテラス、あれって何?」

「あ~、あれはね、みんなでバーベキューしてるんだよ!」

え?火使ってんの?昨日は使ってなかったよな?


「つまり火を使ってるんだよな?火なんてどうやって使える様になったんだ?」

俺だって火なんてどうやって起こすのか判らないぞ?なんか木をすり合わせて摩擦で起こすんだっけ?そんな奇妙な事初めにやった奴の顔が見たいぞ。


「うん、なんかね、毛皮の上で石を削ってる時にね、叩いた石から火花が飛んでね、それが毛皮に移っちゃって燃えたんだよね。それで使える様になったんだよ。」

かなり端折られてる気がしないでもないが火ってそんな感じで発見されるのか。


「それにしても、こいつらも肉を焼いて食う様になったんだな。」

「だよね~。以前何回か山火事の時に焼けた動物の死骸食べてた事あったけど、それを覚えてたのかな?今日は私も参加させてもらったよ!ワイルドな感じだったよ。」


え?そう言えばこいつ前にも牛の上乗ってたよな?

「マジかよ!?てかお前あっちの世界に干渉できるなら道具の使い方とかアドバイスしてきてくれよ!」

「うん、アングル的にそれっぽくポーズとってるだけだから干渉はできないよ?」

トリックアートかよ!俺は頭を抱えてのけぞった。


まぁいい。こいつらも少しずつ進歩してるって事だ。

俺は今日投げ込むイベ書をカバンから取り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る