第38話 俺、人が生まれる予感を得る

「国之さまおかえり~。」

アマテラスの声に迎えられ俺は部屋に入って行った。


「おう。今どんな感じになってる?」

俺は挨拶を返しアマテラスに報告を求めるとアマテラスは嬉しそうに俺に話し始めた。


「なんかね、最近は森じゃなくて洞穴を掘って森とサバンナの近くに住むユニットが増えて来たよ。そっちの方が便利みたい。」

「へ~。」

俺はそれがどういう事なのか解らないので適当な返事を返した。


「あとね、自分達で狩りができる様になったんだよ。」

「なんだと!?ついに戦えるレベルになったのか?」

「一応パーティー戦できるけどね。ドラゴンちゃん達に比べると全然そんなレベルじゃないよ?」

俺はちょっと期待していただけにガッカリした。まぁ確かにこんな猿達が13体のドラゴンに勝てるイメージが沸かないわ。


「狩ができるってどんな感じなんだ?」

「これ見て。ほら、みんなで追い立てて動物を狩れる様になったんだよ。」

俺がモニターを見ると、そこにいたのは既に昨日の猿ではなかった。


猫背ながらかなりしっかりと二本足で走り、先のとがった木の棒を突き立てながら動物を扇状に囲み、追い立てていた。


「おお、なんか変化してるぞ?」

「でしょ?なんかちょっと人に近くなってるよね!」


そう言えばなんか人は猿から『進化』したとか誰かからか聞いたことあったな。

良く分からんから聞き流してたけど。

生物古学とかいう科目でやるんだっけ?殆ど取ってる人いないんだよな。


因みに学校で主にやるのは数学、論理学、物理学、工学、情報学、生命工学だ。

それ以外は趣味でやる学問ばかりで先ほどの生物古学、地勢歴学と言ったところだ。


かなり年配の先生の話では大昔には哲学、歴史、文学、政治・経済とかいうものが学問としてあったらしいけど、そういった学問はAIや科学の発達に加え思想の偏りを生むだけで世界の発達の寄与度が低いという事で趣味の領域に押しやられていったらしい。


まぁ昔は解らない事が多すぎて、いろんなものが学問として幅を利かせてたんだろうな。良く分からんけど。


なんにせよ猿が人になったって事ならこのワールドにも希望があるのかもしれない。

俺は早速今日買い足したイベ書を取り出した。


既にマスターからもらっているイベ書はほぼ使い切っていた。

いったいどれだけのイベ書が効果を発揮したのかは判らないが、少しずつ変化しているだけでも俺には救いだ。


「今日は10個買ってきたんだが、これらもバンバン使っちゃうか。」

「了解だよ!バンバンいっちゃうね!」

アマテラスは嬉しそうに受け取ったイベ書をワールドに次々と使った。


正直効果のなさそうなSRスーパーレア『新神の誕生』を使うのは気が引けたが今さらだ。

俺は全てを使い終わった後にアマテラスとモニターを観察していた。


そこにはアマテラスがピックアップしたワールドで起こった色々なイベントが見やすいスピードで映しだされていた。それらのイベントがイベ書で起こったのかただ環境状況で起こったのかは謎だった。


しかし一つだけ気になるイベントがあった。


それは猿達が獲物を追って岩山を通っていた時に起こった。

突如岩が崩れ、猿達を襲ったのである。

崩れた岩の音に気が付き、猿達は走り回って逃げたのだが、ひときわ大きい岩が大きな音を立てて彼らの道を塞いだ。


その時に砕かれた岩の破片が一匹の猿の肩に深々と刺さった。

その猿がその破片を捨てて傷口を押さえてうずくまると、他の猿も心配そうに近寄ってくる。そのうちの一匹が血の付いた岩の破片を拾って空にかざして見ていた。


仲間が怪我をした猿を支える様に歩き出すと、その猿も割れた岩々と破片を交互に見ながらついていった。


それから、その猿は肉を捌く時に岩の破片を使う様になった。

おお、ナイフ代わりか!あれが俺のワールドでの魔剣?それともUC『武器の現地調達』の結果なのか?


猿達はその尖った岩のおかげで徐々に肉の解体と皮剥がしの技術を上げていった。

あれはUC『アイテム熟練』の効果か?


正直確証は無い。

でも一応イベ書が所々で効果を発揮している、という事にしておこう。

そっちの方が精神衛生上良いからな。


そして、遂には狩でもそれを使う様になったのである。

獲物を取り囲んだ時に後ろから飛びつき、それで頭や首を何度も刺して仕留める様になったのである。


因みにその間、はるか10万年。

かなり気が遠くなる時間を浪費してできる事が増えていくみたいだ。


「なぁ、アマテラス、もう少し時間の経過スピード上げられないのか?」

俺の質問にアマテラスは少し申し訳なさそうに答える。

「それがね、なんかどんどん処理が重くなってて。むしろ進められる時間が遅くなってきてるんだよね。」


え?なんでそんなに重くなるの?

というか処理なんて一定なんじゃないのか?


「うん、このワールドのイベントが増えてるんだと思うんだよね。こんなに一気にイベ書使う事も普通はないだろうし、なんか感覚的には色々と滞留してる?みたいな。」


なんだそれは?

実は処理できないイベ書がなんか問題になってるのか?

SR『魔王誕生』とか絶対処理できてないよな。


「つまりなんか発動の切っ掛けがなくて溜まってるって事?」

「正直分からないけど、多分そういう事なんじゃないかな?あと純粋にこのワールドの処理自体も増えてる気がするよ。」


そうなのか。

こんな10万年も掛けて石の刃物が出てくる程度なのにイベントが沢山?

解らん。

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