第35話 俺、寝てる間に人間らしきものが出現していた
俺はマスターからもらったイベ書をどんどんワールドに突っ込んでいた。
正直何も考えず裏返したイベ書をランダムに選択して使用しただけだ。
見てしまったら先入観で使うのを止めてしまうかもしれないからだ。
まぁ
後で確認したところ、
なんにしたってこのワールドと心中する事にしたんだ。
あまり考えず寝よう。
俺はアマテラスに後を任せると寝てしまった。
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一匹の猿が森の木々を伝いながら餌を探していた。
その猿の主食は木の実等の果物で時折虫やネズミなどでたんぱく源を確保していた。
今日は非常に肉に飢えており、ネズミのいそうな木を探しまわっている所だった。
ふと猿が顔を上げると空からゆっくりと回転しながら石板が落ちてくるのが見えた。
猿が何事かとそれを手にすると石板はそのまま消えた。
不思議そうに何もない手の中を見ていた。
しかし、自分がなぜ両手を見ていたのか全く覚えていなかった。
ふと猿の鼻を何かの匂いがくすぐった。
それは狩を成功させた時に嗅ぐことのできる匂い。
食欲をそそる血の匂い。
猿は自分が肉を求めていた事を思い出し、その匂いめがけて急いだ。
血の匂いを辿って行きついた先は森の終わりであった。
そのほんの少し先に動物が横たわっていた。
上になっている面は真っ赤に染まり、そこから血の匂いをまき散らしていた。
猿ははやる気持ちを抑えて周囲を見渡す。既に捕食者は居ない。
空には何匹か大き目の鳥が旋回している。
ヤツ等もあの死体を狙っているのかもしれない。
猿は意を決して死体に向かって森を飛び出した。
地上は得意じゃない。
もどかしい思いで死体にたどり着く。
それはたまに見かける草食動物だった。
猿はその肉にかぶり付く。
美味い!なんだこの味は!?
ネズミを捕まえた時は骨や内臓を丸かじりしていた。
しかし今回の獲物は大きく、口いっぱいの純粋な肉だけの味に猿は驚愕していた。
こんな美味いものを今まで見逃していたなんて!
もう一口、そう思った時、上空からの気配を感じ猿は急いでその場を離れる。
鳥だ。猿はつんのめりながら自分より少し小さいだけの鳥の攻撃を避けた。
猿は急いで森へと逃げ帰る。
最初猿はいつも通り地上を歩く時の様に手をついて走っていた。
しかしそれでは手が邪魔でスピードが出ない。
もっと速く!木の上を移動する様にもっと速く!
一心不乱に森を目指して走る。
気付けば猿は手を上にあげ、横跳びの様な形で走っていた。
速い、これなら逃げ切れる!
無事に逃げおおせた猿はそれから森の外を監視する様になった。
その猿はあの味を忘れられなかった。
次こそ腹いっぱいの肉を食べてやるのだ。
時折捕食者が満足して置いていった肉にありつける様になった。
気付けば仲間の猿も来るようになっていた。
他の危険な動物が来る前に競い合って食べた。
ある日、引きちぎった肉を複数森に持って帰る者が現れた。
安全な森に帰ってからゆっくり食べようというのだ。
成程賢い。あの猿もそれを真似する様になった。
そしてあの猿が気に入ったメスその肉を与える様になるとモテた。
それもいつしか猿達の日常となった。
肉の獲得は競争であった。
他の猿だけではない。ワシやハイエナとは命を賭したライバルであった。
より早く見つけ、より速く肉を確保するものが勝者だ。
いつの間にか森の端を好んで住処にする集団が現れていた。
木の実は森の中に行けばいつでもあった。
しかし肉にありつける機会は月に数度の貴重なイベントなのだ。
負けられない。もっと速く!
彼らの走りは徐々に洗礼されていった。
気付けばあの猿には多くの子供がいた。
その技は子に受け継がれていった。
訓練のため、森の中でも地上を走る事が増えた。
もちろん何よりも安全な木の上へ逃げ帰る訓練も欠かさない。
その見返りに子ザルはあの猿に肉を持ってきた。
更に世代が進むと、皆で協力して森へ肉を運びこむ様になった。
あの猿の子孫は賢く、肉の取り合いをして争う猿を囮に肉を確保し、身内で肉を分け合った。
世代は次々と入れ替わった。
世代が入れ替わる毎に走りは洗礼され、身内の結束は強くなった。
そしてある日、大胆な集団が捕食者を追い払うという偉業を成し遂げた。
彼らは手に手に木の棒や石を持ち、それらを打ち鳴らし、投げつけながら大型のトラを追い立てたのである。
そのトラは今まで見た事もない異様な景色と数に恐れを抱いて逃げて行った。
しかしそれは偉大な成功であると共に致命的な失敗でもあった。
捕食者はできるだけ森から離れた所で捕食する様になったからである。
最早肉は彼らの必須の食料であった。
多くの肉を得る者が多くのメスを得、多くの子を得た。
彼らはより速く、より遠くへと肉を求めた。
その手には常に木の棒や石が握られる様になっていた。
彼らは徐々に戦い慣れて来ていた。
周りを取り囲み、棒で牽制しながら周りから打撃を与える。
捕食者が一匹に躍りかかり、食い殺す隙に何度も殴られた。
彼らの犠牲も増えていたが、捕食者も戦わない事を学びつつあった。
時には捕食者が頭をかち割られ殺された。
次の獲物を狙う方が効率的であった。
因みに捕食者の肉は猿達の間では臭くて不評であった。
彼らは地上を闊歩した。
最早彼らと好んで戦うものは居なかった。
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