第33話 俺、ちょっと立ち直る
次の日、俺は学校をさぼって喫茶『創造してごらんなさい』に向かった。
学校は別に行っても行かなくても良い場所なので特にさぼったという感覚はない。
今日は別の用事があるから行かない、ただそれだけ。
決して天野さんと顔を合わせ辛いからではない。
とは言え、学校に行かないで事態が好転するはずもないから本当は行った方がいいのかもしれない。
でも好転する方法がイメージできないのに会ってもいい事ない気もする。
うん、よくないな。
俺がグダグダと考えながら歩いていると、気づけば『創造してごらんなさい』に到着していた。
昨日のなんだか訳の分からないあれこれを思い出して結局俺は躊躇した。
でも俺はせめてワールドだけでも何か進展が欲しかった。
俺は決心して扉を開ける。
カランカラン
俺が中に入るとインターホン代わりのベルが鳴る。
中にはマスターが食器を洗いながらこちらを見ていた。
流石に午前中はお客さんが少なくて2人しかいない。
木花さんはまだ来ていない様だ。
「あら、常之ちゃんいらっしゃ~い。」
「・・・」
改めて来てみたが何をどう聞けばいいのか全く考えてなかった事に気が付く。
「まぁ一先ず座りなさいよ。」
そう言ってマスターはカウンター席のテーブルを指でコツコツと叩く。
「・・・マスター、ホットミルク一つ。」
何を言えばいいのか思いつかない俺は定番のセリフを言ってみた。
因みにメニューには、ない。
「んもう、ママにミルク頼むなんて、甘えん坊さんね~。」
そう言ってマスターは冷蔵庫に歩いて行った。
おい、ママって呼ばないからってなんだその言い方は!?
しかも、出す気かよ!?
あ、後ろから吹き出した音が!
「嘘です!コーヒーでお願いします!」
ミルクキャラは嫌なので俺は慌てて訂正する。
「あら、今日はいいの?恥ずかしがり屋さんねぇ。」
マスターは開けた冷蔵庫を閉じて、コーヒーを挽き始める。
「いや、ちょっ、一度もそんなん頼んだ事ないれしょ!ちゃんちょ受け流してよ!?」
俺は動揺バレバレのカミカミ口調で苦情を呈す。
なんかいつもは頼んでるみたくなった。
俺は顔を覆ってテーブルに肘をついた。
少しして淹れたてのコーヒーの匂いが漂い始める。
俺がそのままでいるとカチャリとカップが目の前に置かれる。
「で、あのワールドどうしようと思ってるの?」
仕方ないわね、とでも言う様な雰囲気でマスターが聞いてくれる。
「どうすれば良いと思う?やっぱ買い直すのが正解ですかね?」
「まぁあれで先は無いわよね。」
「ですよねえ。」
分かってたけどはっきり言われるとやっぱショックだ。
「トレードシステムで私のユニットあげられれば良かったんだけどねぇ。」
俺は一瞬期待の目をマスターに向けるが、できない事を思いだしてうな垂れる。
トレードシステムというのはお互いのワールドでユニットを交換するシステムの事だ。
なぜか制限が強くて同等のユニット、つまり同じ種族間でしか交換ができない。
また発展レベルが違い過ぎても交換できない様になっているらしい。
「なんか裏技とかってないんですか?」
ダメ元で俺が聞いてみるが、マスターは肩をすくめるだけだ。
「やっぱコア買い替えるしかないですかね?」
「観賞用なら別にいいけど、デュエルメインならそれが一番よねぇ。」
まぁ何度もたどり着いた結論だ。
結局そうだよな。
「それで常之ちゃんが躊躇してる理由ってなんなの?」
・・・そうなんだよな。
別にお金は問題じゃない。
確かに面倒だし悔しさはあるが、今まで投入してきた時間を考えれば更に3か月程バイトが伸びる事自体苦でもないからだ。
そうなるとやっぱアマテラスの事だよな。
「いや、エージェントって移せないらしいんですよね。全く新しくなるらしくて。」
「あら、そうなの?買い替えなんて考えた事なかったから知らなかったわ。」
まぁ普通だよな。俺も知らなかったし。
「私ならハニーが移せないとか絶対お断りね!」
「やっぱマスターもエージェントに思い入れあるの?」
マスターの言葉に俺は前のめりで聞いてしまった。
「当然じゃない!だって私の大好きが詰まってて、私の為に健気に働いてくれてるのよ!?私のハニーがいなくなるなんて考えたくないわよ!」
マスターがさらに前のめりで応えてくる。
俺はマスターのエージェントのシモンを思い出す。
細マッチョのクールなスーツ眼鏡だ。
あれ?そういやちょっと増田と被るな。眼鏡が。
思わず俺は身体を引いて「ですよねえ」と応えた。
けど、また振り出しかよ!
あー!俺のワールドに微かにでも希望があればこんなに迷う必要ないのに!
「マスター、俺のワールド進めるとしたら何すればいいと思います?」
「ん~、そうねぇ。常之ちゃん、あのワールドに使えなそうなイベ書とかとっといてない?」
「あるある。効果発揮しなそうなのって、ただ消えちゃいそうで使ってないです。」
「ダメ元でそういうイベ書を積極的に使ってみる、とか?」
ダメ元、ダメ元かぁ。
確かにすぐには買い替えられないんだし、ポイントで手に入れたのはガンガン使っちゃっていいかも。
そう考えると俺はすぐに家に帰りたくなり、席を立とうとする。
「あ、ちょっと待ちなさいよ。足しになるか判らないけど、これ持っていきなさいよ。」
そう言うとマスターは下から小さめの段ボール箱を取り出す。
それは箱一杯のイベ書だった。
「え?こんなに?」
「大量に当たったり使う機会なくてそのままクローゼットの肥しになってたやつよ。常之ちゃんのワールドの惨状見て、今日渡そうと思ってたのよ。アマテラスちゃんの為なんだから、ガンガン使うのよ!」
「ママ!ありがとうございます!!」
ママあんた最高だよ!
俺はママの手をガッシリ握って感謝していた。
「あ、あと俺またここでバイトしたいんですけど。」
俺はもう一つ考えていた目的をママに伝える。
「そうねぇ、咲夜ちゃんクビにするわけにはいかないし。夕方のピークタイムからならいいわよ。あ、あと週に一回はあの眼鏡君を呼んでくる事!いいわね?」
増田!いい仕事するぜ!
俺は二つ返事で承知した。
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