第32話 俺氏の憂鬱

なんか色々と憂鬱な事ばかりだぞ?

特に最後の情報は一体なんなんだ?


テレパシオンで魔法が実現するってのは聞いたことがなかったけど、そもそもたまたま実験とかでバレそうなもんだがなんで秘密なんだ?

いや世界創造ワールドクリエイト内では普通に使われてるし、そんな大した情報じゃない様にも思えるけど。


そんな事を考えてて、ふと俺は心配になったためアマテラスに確認をした。

「そう言えば、アマテラスはネットワークに繋がってるよな?この会話とか漏れてたりしないよな?これ聞かれて捕まるとかないよな?」


「それは大丈夫だよ!基本的に私の記憶はサーバに上がらないし、基本あっちからアクセスもしない様になってるから。」

それを聞いて俺は胸をなでおろした。


なんにしたって俺の生活には関係の無い話だし、忘れよう。

俺には天野さんとワールドをどうするかというもっと大事な問題があるんだ。


「なあ、もしワールドをやり直すとしたら買い直すって事になるのか?」

「うん、台座ごとではないんだけど、このワールドをセンターで回収してもらって、新しいコアを手に入れればやり直しできるよ。」


「そうなんだ。そういやコアだけでも売ってるんだったよな。」

俺は端末で会社のサイトを見ていた。

コア一つ38万スコア・・・高い、が、またバイトを頑張れば行ける額ではある。

というかむしろこの台座が120万ちょいしたって事か。

単なる台だと思ってたのに見誤ってたわ。


「よし、新しく買い直してやり直しかな。またバイトしないとだわ。」

「うん、そうだね。買えるならそれが一番安心かな!」

なんだかアマテラスがちょっと沈んだ声で応える。


そうか、買い替えるとエージェントの作り直しもあるからそれを心配してるのか?

こいつは抜けてるしなんか色々とやらかすが今までも頑張ってくれてたんだ、俺はエージェントを作り直す気はないぞ。


「安心しろ、アマテラス。新しいコアでもお前に頑張ってもらいたいから!」

俺はアマテラスを安心させる様にそう伝えた。


「うん、ありがとう国之さま。でもそれはできないよ。」

「え?」

俺は意味が解らずアマテラスの顔を見た。


「実は私はコアと結びついてるんだよ。だからコアが変わると私では無くて新しいエージェントになっちゃうんだよ。」

「なんかコピーみたいにできないわけ?だってデータでしょ?」

データ、なんかアマテラスには合わない言葉だな。

でもパーティーとかだってコピーしてるし、できそうじゃない?


「うん、良くわからないけどこのワールドが私で、私はこのワールドだから、他のワールドに移る事はできないらしいんだよね。」


マジか、他のコアにアマテラスは移れないのか。


だが流石に台座を再購入する程の気力は無い。

スコアがたんまりあるなら迷わず二つ持つ事もできるのに。

あれ?でも確か一人一ワールドってのもあったよな?

って事はこのコアだけを買ってる人ってみんな買い替えしてるのか?


今度は俺がちょっと沈んだ顔をした。


「国之さま、このワールドは国之さまの創りたい世界にはならないみたいだし、だから、コアが買えるならそっちの方が絶対いいよ!」


俺はアマテラスが何を言っているのか理解できず固まっていた。

いや、言っている事は解っている。このワールドで人型種は生まれない。

俺が創りたいと思っているワールドを創るにはコアを買い替える必要がある。

それは判っている。でも、何か、そこではない何かが理解できていない。


俺が固まったまま何も言わないのを見てアマテラスは続ける。


「私の事は気にしないで。創造主により良い選択を教えるのはエージェントの役割だから。今までは前例がなさ過ぎて全然役に立てなかったけど、最後はちゃんとしたアドバイスができたよね!」


アマテラスはおどけた様に言って頭を俺の方に差し出してくる。

きっとなでてくれって事だろうけど、俺には全くそんな気が起きなかった。


俺はようやく理解した、こいつは自分を破棄して新しいコアを買えと言っているんだ。俺の望むワールドを創るために自分を捨てろと言ってるんだ。

ちょっ、それはなんか外道じゃない?人としてどうなんだ?


いや、でもアマテラスは人間ではなく単なるエージェントだ。

あまりに人に近い感情を感じるので忘れてしまうが彼女はシステムだ。

ダメなら買い替える、ごくごく普通の話じゃないか。


いやいや、でも凄い割り切れない気持ちだぞ?

アマテラスをシステムやデータというにはあまりに人間的すぎる。


世界創造ワールドクリエイトを始めて約一ヶ月。

アマテラスとの付き合いも僅か一ヶ月だ。

だけど、この一ヶ月間、アマテラスとの時間が一番多かった。

他の誰よりもよく話したし一緒にいた。


でも今の状態だと、ただただ世界創造ワールドクリエイトを動かすだけで、俺のやりたかった事はできないし、これを始めるための時間も無駄になるって事だ。


なんか色々とダメだな。踏ん切りがつかない。

まだすぐに買い替えができるわけでもないし俺は問題を先送りにする事にした。


「すまん、アマテラス。色々とあったし、今日は寝るわ。」

「うん。おやすみ~。」


俺は憂鬱な気分で寝る準備をして布団に入った。


俺はこっそりとアマテラスの顔を見る。

いつもと変わらずワールドを操作するアマテラスの後ろ姿が、今日はなんだか寂しそうに見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る