第27話 俺、遂にワールドをお披露目する
俺が席に着くと木花さんが注文を取りに来た。
「あれ~、国立さんの友達だったんだ~。」
友達の事なんて話した事ないもんなそりゃ知らないよな。
逆に三人はこの喫茶店を待ち合わせにしたとき、知っている様子だった。
ある意味有名だからな、ここは。
でももしかすると来たのは初めてなのかもしれない。
俺バイトの時にあった事無いし。
「なんだ、国立、よく来てたのか?」
増田が当然とも思える質問を俺にした。
俺は木花さんにコーヒーを注文してから増田に返事をした。
「ああ、一時期毎日の様に来てたわ。ってバイトだけどな。」
三人は俺のバイトという単語で納得した様だった。
流石に毎日600スコアも使って通えるご身分じゃないわ。
はにかむ俺の前にコーヒーが置かれる。
「ちょっとちょっと、常之ちゃん、だ~れこのカワイ子ちゃん達?」
「うを!?」
俺は素で声を出してしまった。
てっきり木花さんが持ってきてくれたと思ったらテーブルの隣に立っていたのはマスターだった。
「いや、学校の友達ですよ。」
そんな俺をさらにおちょくる様にマスターが爆弾を投下する。
「常之ちゃん、私を差し置いて浮気なんて、ダ・メ・よ。」
おいいぃぃ!誰があんたと付き合ったよ!?
ブボ!という音がして増田が盛大にむせていた。
うん、コップの中に戻せて良かったな。
コーヒー服に吹きかけたら取返しつかんぞ。
目の前の二人も呆然と俺とマスターを見比べている。
解る。まあそれが普通の反応だわ。
俺はバイト初期にこの手のジョークで他の常連に紹介されて慌てふためいて必死に否定をしていた、若かりし頃の俺を思い出す。
こういうのは慌てちゃダメなんだ。なんか隠している様で変な信憑性が出てしまう。
「マスター、その手のジョークは普通の子には通じないからマジで止めてくれ。」
「あら?私本気よ~?それにいつもはママって呼ぶのに寂しいじゃなーい。」
まぁマスターもさらに返しを持っていて埒が明かないんだが。
って、ほっぺたツンツンするのやめろ。
「はいはい、ちょっと大事な話があるから引っ込んでてください。」
俺がシッシと手をやると仕方なさそうに俺から離れる。
「じゃ、坊や、お名前教えてくれるかしら?」
って増田を標的にするんじゃない!
いや、まぁいいか。
俺は「国立~」という声を無視してケースをテーブルに上げる。
そこに全員の目線が集まった。
なぜか木花さんも興味津々で近づいて来た。
俺は台座をケースから取り出し、勝手知ったる手際でエナジーラインと接続する。
何せここは創造主の集う店なのでテーブル毎にエナジーラインがあるのだ。
正直まだ俺のワールドを見られるのには抵抗がある。
羽部八に勝つとか絶対強いワールド作るとか周りにさんざん言ってたし、レベルの高いワールドを作る自信があったからだ。
だがもうここまで来てしまったら仕方がない。
いっそマスターにも見てもらって助言なり情報なりがもらえればと思っている。
俺は短く嘆息すると台座をいじってモニターを開き、俺のワールドを映し出す。
「これが俺のワールドだよ。」
そこはサバンナだった。
走り周る鹿の様な生物の集団、悠々と歩く大型のなんか鼻の長い動物の群れ、なんか二本も角を持つサイ、やけに大きなトラ。だがどれも以前いたドラゴン程の大きさも無く、強そうでもない生き物たち。
皆が興味深げに俺のワールドを見ている。
俺は一応別の場所なんかも見せて文明どころかドラゴンもいない事を確認してもらう。
最初に口を開いたのは天野さんだった。
「凄い、動物が一杯なんだね!」
何が凄いかは判らないが嘲笑とかじゃなくて良かった。
俺は心底ホッとして話し始める。
「そうなんだ。全然人型が出てこなくて、文明も生まれなくてさ。結構大口叩いてたのに恥ずかしくて隠してたんだわ。」
「そっか、疑って悪かったよ。」
渦目さんも納得してくれた様で、俺に誤って来た。
実際にはビンゴなんだけどな。俺は心の中で渦目さんに謝る。
「それにしても何で常之ちゃんのワールドは文明が出てこないのかしら?」
そしてマスターが当然の疑問を口にする。
それについても俺は理由を考えていた。
「多分、SR『神の怒り』を使ったからだと思う。」
俺必殺、嘘は言ってないやつである。
全員が驚いた様に俺の顔を見る。
「国立、マジで『神の怒り』使ったのか!?」
「おう、なんか進行遅過ぎたのと、わざわざSRにあんなのがあるならなんか効果あるんじゃないかと思ってさ。」
「でもSR『神の怒り』使ってもある程度時間たったら文明が出てくるはずなんだけど。」
マスターのその言葉に俺はドキリとした。
不味い、ここで余計に話が長引くとボロが出る!
「そうなんですね。マスターにはアドバイスもらおうと思ってたんで、今度またよろしくお願いします。」
そう言って俺はそそくさと台座を片付けようとする。
その時である。
「あれ?国立くん、なんかあそこ、人がいるよ?」
天野さんが何か素っ頓狂な声を上げる。
人!?人だと!?遂に俺が待ち焦がれていた人が生まれたのか!?
俺は天野さんの言葉につられて画面を探す。
俺が見つけられないでいるとさらに天野さんが画面を指して教える。
「ここ、この凄い砂埃で走ってる牛の群れのとこ!」
ホントだ!?人がいる!しかもなんか白い服着て牛にまたがってる!?
遂に、遂に俺のワールドにも文明が!!
俺の目が画面にくぎ付けになる。
「って、アマテラスじゃねぇか!!!!」
俺は声を上げてのけぞった。
「うわ!え?見つかった!?」
モニターから声がしてアマテラスが姿を現した。
その顔は正に悪戯を見つかった子供そのものだった。
「この子、国立くんのエージェントなんだ?」
「へー、増田のと違ってまともだな?」
「お、俺のを見た事ないだろ!?っく、屈辱だ。」
「かわい~。プリンとか食べるかな?」
「そぉねぇ。私のプリンスに迫るかわいさね!」
なんかみんなの反応が俺のワールド以上に良いな。
まぁ俺のはサファリパークなのでそんなもんかもしれないが。
俺がアマテラスにジト目で非難を送る。
「いや~みんな居るのに自分だけ暇すぎてついつい乗せてもらっちゃった。」
アマテラスは頭を掻きながら悪びれもせずいいのけた。
「何もモニター近くでやる事ないだろ?」
「まぁまぁ、国之さま。私このシステムそのものだから、モニターの近くには居ないといけないというか、そこにしか居られないというか、なんだよ!」
「あのなぁアマテラス、そういうのは早めに教えて置いてくれよな。まさかあの中に入れるなんて・・・」
ふと俺は視線を感じて周りを見ると、ほっこりしている木花さんとマスター以外の目線が射すように俺に向けられていた。
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