第25話 俺、最後の手段を実行す
俺は足早に家に帰っていた。
少しでも足を緩めると絶望に捕らわれそうだ。
いや、向かう先にあるのも絶望の様な気がしてならない。
俺は先ほどのやり取りを思い出す。
「いや、俺のワールドはまだ作りかけで誰にも見せたくないんだが。」
その言葉に渦目さんはさらに疑念を募らせる。
「つまり見せられない理由があるんだろ?」
「いや、恥ずかしくて見せられないだけだから!」
俺の言葉に嘘はない!
「大丈夫だよ。それくらい気にしないから。それともあれか?国立も増田とかと同じくエージェント見せられない系か?」
一瞬俺は天野さんを見てしまう。
「いや、見せられるから!俺のは大丈夫だから!」
俺は顔を赤くしてそう返した。天野さんの前で増田カテゴリーに入るのはゴメンだ。
「じゃ、何も問題ないな。」
俺は心の中で血反吐を吐いた。
最早俺にこれ以上の抵抗手段は残されていなかった。
得られたのは少しだけの時間の猶予。
今日は用事があるという事で逃げて、明日、喫茶『創造してごらんなさい』で俺のワールドを見せる事になった。
「あ、国之さまお帰り~。」
俺が家に戻ると挨拶も二の次に、最後の希望を託してアマテラスに聞いた。
「アマテラス!村は、村はできたか!?」
アマテラスは気まずそうな雰囲気で俺に返す。
「うん、今日もダメみたい。」
あっさりと返された事実に俺は膝をついた。
何か、何か残された手段はないのか?
いや、ある。
いつも俺の頭の片隅にあった選択肢。
「アマテラス、これを、使ってくれ。」
俺は机の引き出しに置いていたそれをアマテラスに手渡した。
手渡されたイベ書、それを見てアマテラスは俺に目を剥く。
「く、国之さま?」
「すまない、アマテラス。もう、ダメなんだ。最悪の形で俺のワールドが好きな人にバレそうになってるんだ。昨日のデュエルが色々と問題で・・・」
俺は上手く説明できず言葉を切る。
「でもでも、せっかく、永い時間かけて生まれたドラゴンちゃん達が・・・」
そこまで言ってアマテラスも黙る。
「本当に、使っちゃうよ?」
少し間を置いてアマテラスが確認する。
俺は黙って頷いた。
アマテラスは口を引き結び、手にした
画面には綺麗な青々とした星が映し出され、イベ書の効果でその星全体が光った。
「今、近くの惑星の衛星同士の衝突で大きいのが弾き出されたよ。あと一時間位で・・・」
アマテラスは自分の目に焼き付ける様に画面を移してはジッと見ていた。
俺も無言でそれを見ている。
俺達は一時間、ずっと自分の作った星を見て回った。
ドラゴン達はいつもと変わらず野生だった。草を食むヤツ、それを捕食するヤツ、その食べ残しを狙うヤツ、卵を温めるヤツ、親子で散歩するヤツ。
イベ発動までの時間がモニターにカウントダウンされる。
隕石衝突まであと10分。
なんでだろ?別になんの思い入れも無かったはずなのに、ただひたすらに文明の誕生を願って、それを常に裏切られて、ただただ勝つ事だけが俺の慰めだった。
やはりどこを映しても文明の片鱗すら見つからない。
でも文明が無いだけで、やってることは人間と変わらないんだよな。
隕石衝突まであと5分。
何か具体的な思い出を頭の中で探したが驚く程記憶にない。
むしろ対戦相手の方が印象が強い位だ。
これで、この苦労をさせられたワールドともおさらば、か。
この後ってどうなるんだろう?
まぁまずは目の前の問題をどうにかして、これからの事はその後だな。
ぼんやりとそんなことを考える。
そして、隕石が衝突した。
星が割れるんじゃないかと思われる程激しい衝撃に、俺は思わずモニターの裏に隠れている黒い世界の浮いている台座を見た。
星は変わらず丸いままだったが、宇宙からでも判る柱が立っていた。
モニターにも地上から見たその柱が映っていた。
その柱は周りに稲光を纏わせ、黒い煙の隙間からオレンジ色の光を発していた。
柱は大気密度の薄い上方へと伸びていく。
どんな山よりも高く太い柱が、まだ空へと向かって伸びていた。
その先端は大気との押し合いで広がり、まるでキノコの様だった。
アマテラスが「あぁ」と小さくうめき声を上げていた。
俺はそのモニターを眺めている彼女の表情を見る事ができなかった。
何故か俺の頬にも涙が流れていた。
俺はむしろスッキリするんじゃないかと思ってたのに、本当になんの思い入れもなかったはずなのに。我ながらなんの涙なのか解らない。
「今日は、寝るわ。」
俺はどうにかそう言ってアマテラスを見る。
モニターを見たままのアマテラスの後ろ姿から返事はなかった。
俺は寝巻きに着替えてそのまま布団に入って寝た。
どれくらい眠っただろうか。
あまりに早い時間に眠りすぎて俺はかなり早い時間に目が覚めた。
ふと
俺はどう声を掛ければ良いものか判らなかったが、状況を知りたかったので思い切って声をかける。
「アマテラス、今ってどうなってる?」
「あ、国之さま、おはよ~。」
なんか泣きはらした様な顔で俺は妙な疑問が浮かぶ。
こいつって本当にエージェントAIなんだよな?
アマテラスはモニターで今の状況を映しながらぽつぽつと説明してくれた。
「隕石が落ちてきてからね、衝突で飛んだ溶岩でいろんなところが火事になったよ。それからね、大きな津波が空を覆う位の高さでいろんな所に来たよ。」
アマテラスはずっとその経過を見ていた様だ。
俺はなんと声をかけていいのか、黙ってその話を聞いていた。
「でね、1ヶ月位したらね、世界中の火山が爆発し始めたよ。多分膨大なエネルギーの衝突に内部エネルギーが刺激されて過剰分が飛び出したんだと思う。それで空がずっと曇っちゃって。・・・ずっと空が曇ってるなんていやになっちゃうよね。」
どこを見ても空が黒い世界、朝になっても暗く夜の明けない世界。
俺がお世話になったドラゴン達はそんな世界に突然投げ込まれた。
いや、俺が投げ込んでしまった。
「それから何年もそんな状態で、みんな寒そうで、子供達も生まれなくて、食べ物も減ってきて、それで、それで、みんな、いなく、なっちゃった。」
アマテラスは泣いていた。
俺もまた涙が出てきた。
でも俺のそれはドラゴン達へ向けられたものじゃなかったと思う。
多分、ちょっぴりの後悔と無慈悲な行為への罪悪感、そしてアマテラスへの申し訳なさだったんじゃないかと思う。
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