第20話 俺、希望の書を手に入れる
俺はずっと開拓レベルを上げる打開策を考えながら学校に向かった。
正直、マナの無い世界でイベの発動も全く期待はずれな状態でどんな打開策があるのか皆目見当もつかない。
だが俺には信じるしか道はなかった。きっと
俺がいつも通り
「国立知ってるか?なんか
俺は一瞬固まったが、どうにかして平静を装って返事を返す。
「へ、へー。魔法が使えないとかあるのかよ?」
「だよなぁ。そんなフィールドあるなら一度試して見たいよな。」
「いやー、俺のワールドはまだまだだから、そういう厳しい環境は勘弁かなぁ。」
上手い!上手いぞ俺!いかにも低ランクには関係ありませんみたいに話が出来てる。
「でさ、そいつの名前がさ―」
「名前!?知ってるのか!?」
俺は動揺を隠せず思わず増田に食いつく。
「いや、全く出てなくてさ、分からないから対戦できないんだよなー。」
「そ、そうか。」
焦った~、いや、今のは焦ったわ。てか名前って変えられるのか?なんか自分の名前そのまま入れ替えただけですぐバレそうで心配だわ。
「てかなんか焦ってなかった?なんか知ってるのか?」
ホッとする俺に増田は訝し気に聞いてくる。
「いやいや、知らんけど。てか俺も対戦してみたいな~って。」
「そうか・・・ま、座れよ。」
俺は自分が腰を浮かしてた事に気が付いて慌てて席に着く。
増田の変なものでも見る様な視線が辛い。
「そう言えば国立のワールドってまだ見せてもらってなかったな。そろそろ見せてもらいに行こうかな。」
「おいおい、勘弁してくれよ。まだ二週間も経ってないんだぜ?それよかお前のエージェント見せてくれよ。」
増田は眼鏡をクイッと持ち上げて視線を逸らした。
そう、増田にはエージェントの話題、これで黙らせられる。
でもホント一体どんな格好させてるんだコイツは?
「そう言えばさ、お前のワールドって文明が生まれる前ってどうなってたんだ?」
俺は今まで気にも留めていなかった質問をした。いや、気に留めてなかったというか俺のワールドがアレ過ぎて他のワールドの事なんて頭になかっただけなんだが。
「は?フツーだよ。」
「いや、フツーってなんだよ、フツーって。」
「朝起きたら村ができてて、学校から帰ったら国ができてたわ。」
ガーン
なんてイージーなんだ!一日かよ!?
クッソー!俺のワールドなんかそろそろ二週間なのにずっと野生だっての!!
「へ~、やっぱフツーそうだよな。気づいたらできちゃってるよな!人間生まれる前とかどうなってたか気になるわ~。」
俺は泣きたい気持ちを押さえて好奇心的質問に仕立て上げた。
増田も「そう言われればそうだな」とか同意してくれた。
ふぅ、これ以上この話を掘るのはよそう。
帰りがけに
すっごい嬉しいんだが、正直これが天野さんだったらと思うと俺の心は複雑だ。
隣で天野さんも羨ましそうに聞いてるのが尚更心に来るものがあるぜ。
というかマスコットそんなに希少なのかよ!?運営出てこい!
で、俺は久しぶりにバイト先に向かった。
まぁバイトはコアセット買うスコアが貯まった時点で辞める事にしたんだが、人を雇うまでの間と引継ぎで予定より少し長く働いたのだ。で、その最後のスコアを頂きに行こうってところだ。
本当は振込にしてくれって言ったのになぜか頑なに現地渡しになったんだよな。
カランカラン
俺は喫茶『創造してごらんなさい』のドアを開ける。
え?なんて名前だって?俺もそう思うわ。
だが、店の席は8割程埋まっている。
俺はこの名前なら客は少ないと踏んでバイトに募集したんだが、それはとんだ間違いだった。まぁ時給高かった時点で気づけってとこだよね昔の俺。
「あら~常之ちゃん、久しぶり~。」
「マスターお久しぶりです。」
「常之ちゃ~ん、マスターじゃなくて、マ・マ、って呼んでよね~。いつも言ってるじゃな~い。」
「いやです。」
で、これがこの喫茶店のマスター、ダリーネさんだ。
本名は知らない。
で、聞いての通りの愉快な人なんだが、実はこの人世界創造でランクが1万台に居て、それでこの店に入り浸る人達で潤ってるという事なのだ。
「マスター、最後のバイト代ください。」
「ダメよダメダメ!ちゃんとママって言わないと上げないから。」
ダメダメじゃねえよ!ちゃんと働いた分払えやー!
お互いににらみ合う。
おもむろにマスターが視線を外して両頬を押さえて赤くなる。
なんだその仕草は!?怖いからやめろください。
「っぐ、マ、マ、バイト代、ください。」
俺は観念して希望通りの言葉を述べる。多分泣きそうになってるわ。
「んもう、そんな顔しちゃってかわいいわね!仕方ないからあ・げ・ちゃ・う♡」
ごはぁ!
久しぶりに会うと精神
俺よくこんなバイト耐えてたよな。
いくら時給良くても今やれって言われたら無理だわ。
そんなこんなでバイト代を受け取ると8万スコア位あった。
おお!結構あるな!
これはリアルガチャが唸るぜ!!
そこへガチャリとドアが開く音がして、裏から女の子が入ってくる。
俺と入れ替わりでバイトに入った
「ママー、裏の整理終わったよー。あれ?国立さん?」
「や、木花さん元気?」
「元気元気!ママ、国立さん来るなら教えてよ~。」
「あら~?常之ちゃんは渡さないわよ?」
「ップ、貰わないから~。」
木花さんはそう言ってケタケタと笑った。
受け取り拒否された俺はちょっと傷ついた。
それにしても引継ぎの時から思ってたけど凄いいいコンビだわ、この二人。
「国立さん、
っぐ、そこは突かないで。
俺、ワールド失敗しちゃったとか言えない。
「いや、ちょっとあんま発展してなくてさ。あとリアルガチャ引かなきゃだから今日のバイト代待ちだったんだわ。」
この手の言い訳が上手くなっていく自分が悲しい。
「んもう、常之ちゃん、
ありがとうマスター、手取り足取りは勘弁だけど、アドバイスはもらいたかった。
でも今の俺には活かせそうにないです。
「お気持ちだけ頂いておきます。俺、一人でどこまで行けるか試したいんで。」
キリっと心にもない事言ってみたわ。
「そ~お?じゃ、このイベ書は咲夜ちゃんにあげようかしら。」
それは
「え?それって、SRじゃないですか!?」
「そうよ、これ一番最初に使うと結構文明発生が早くなって育ちがいいのよね。」
え?文明発生!?育ちがいい!?
「ちょ!ちょっと!それなんてイベ書ですか!?」
マスターはあまりの食いつきにちょっと驚いていたが、説明書を渡してくれた。
「SR:長足の進歩:一つの大陸の発展速度が上がる。」
マジか!マジかマジか!!
これで文明が発生するのか!?
俺の苦しみは解消されるのか!?解放されちゃうのか?
俺は震える手で説明書を何度も見る。発展速度が上がるだけで文明が発生するとは書いていない。だが、発展速度が上がれば文明は発生するはずだ。
「マス―いやママ!これもらっていいの!?」
「え?ええ、でももうパーティーとか決めてるんじゃないの?」
ある程度ワールドが発展してくると、創造主は経過スピードを落として一つのパーティーやクランを選んで長く使う事がおおいのだ。
「いや、実は思った様に行ってなくて・・・これ打開策になるかなと。」
「あらあ、じゃ、あげるわ。もともと常之ちゃんがコアセット買ったお祝いのつもりだったのよ。」
マスター、なんていい人なんだ。色々と来づらくて避けてた俺を恨むぜ。
俺は感激のあまりイベ書を胸に押し付けていた。
「あ、国立さんいいんだ!ママ私もコアセット買ったら何か頂戴ね!!」
「そうねぇ、なんか役に立ちそうなのとっといて上げるわ。」
木花さんは気持ちいいくらい遠慮がないな。まぁ俺も遠慮なくもらうんだが。
そうだ、こうしちゃいられない!とっとと帰らねば。
「ありがとうマスター!俺、帰ります!!」
俺は慌ただしく店を飛び出していった。
うしろからなんか聞こえた気がするが、気のせいだろう。
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