第18話 俺、今後の方針を決める

ビーチャムがドラゴン達に手を向けて叫ぶ。

「喰らえ!ライフレイ!!」

手から眩いばかりの光の線が放たれる。


その光は左端の一体に当たり、次の瞬間には背中から突き抜ける。

ビーチャムは更に手を右に流しながら次のドラゴンにその光を当てていく。


次々とドラゴンは焼き殺されて行くが、4体目を貫いた所でその光は消えてしまった。それと同時にビーチャムは膝から崩れ落ち、地面に突っ伏した。

「クソ、俺の命じゃ足りなかった、か。ボス、後は頼みます。」


自らの命をマナに変換しその強大なエネルギーを光の柱として出す魔法、わずか5秒の奇跡、それは4体のドラゴンを屠り、そして自らの命を燃やし尽くした。

2体のドラゴンが倒れているビーチャムに食らいつく。


「リズネリー、待たせたな。」

絶命したビーチャムの顔には微かに笑顔が浮かんでいた。


その頃、ボスもどうにか残りの2体を切り倒し、そして周りを見渡した。

そこには無数のドラゴンの死体と血の匂いにかぶり付く両目を潰されたドラゴン、そして少し遠くから2体のドラゴンがこちらに向かって帰って来ていた。


その様子からボスは既に自分一人だけになっている事に気が付いた。

「おいおい、マジかよ・・・お前ら。チクショオオオ!!!」

ボスが空に絶叫する。その声に盲目のドラゴンが反応する。

2体のドラゴンもすぐ近くまで来ていた。


ボスの武器への付与魔法は既に切れていた。

満身創痍で自身の魔力も体力も尽きかけていた。

しかしそんな事はボスには関係が無かった。


大剣を構えなおすと一番近い盲目のドラゴンへと切りかかる。

ドラゴンも走り寄る気配に食らいつこうと頭を向ける。

その頭を血糊で切れ味の落ちた剣で切り付けると、骨で止められる手ごたえを感じる。

ドラゴンはそれでもたまらず頭をもたげて唸り声を上げる。


「うおおおりゃぁぁぁ!」

その隙を逃さずボスは懐に入り込みその腹に深々と剣を差しいれる。

あまりの痛みにドラゴンが体を振るとボスの手は、その勢いに耐えられず剣を放してしまった。未だかつてない出来事にボスは自らの手を見る。


既に手に感覚は無かった。手を広げて握ってと確認するが、力が入らない。

横になり、身もだえしているドラゴンから剣を引き抜こうと走り寄るが、己の状況を認識してしまったボスの足取りはよろけて今にもつんのめりそうだった。


剣に手を掛ける。しかしなかなか抜くことができない。

もどかしいほどゆっくりと剣が引き出される。

自分の手が、震えている。

「マジかよ。」


正直武芸に目覚めてから今まで身の危険を感じた事は無かった。

もちろん危うい場面はあったが、追い詰められたという感覚はなかった。


それが遂には万が一の事態に陥っていた。現実味がない。

いや、そもそもそんな話をしてきただろうか。なんだか記憶が曖昧になる。


そもそもこんな大きなドラゴンをどうやって殺せたのか?

この非力な手でドラゴンなんて殺せるのか?


段々過去が曖昧になる。自分は今までどうやって敵を屠って来た?

自分より力を持つ魔獣を一振りで切り倒すなんてできるか?

自分が作ったと思っていた農園は本当にあったのか?

スラム出身の自分が領主なんて脅せるか?


全ての記憶が自分の妄想だった様に曖昧で朧げなものに変わっていく。


ガラン


剣が抜けて支えきれずに地面に落ちる。その音が一瞬ボスを現実に戻す。

ボスは改めて両手を見つめる。その両手から何かがこぼれていく様な感覚に襲われる。自分の身体から力が抜けていく。ボスは人生で初めての絶望を感じていた。


ふとボスに影がさしたのでそちらに目をやると、すぐそこに2体のドラゴンが迫っていた。ボスは呆然とした顔で次に起こる事を待っていた。


————————————————————


俺はWINERの文字と消えていく世界をじっと見ていた。


なんだあの魔法。まるで巨大な光の槍だ。いや、やっぱ横薙ぎしてたし刀?

まあ、例えなんてどうでもいいや、やっぱ魔法は凄い。

ドラゴンが一気に4体もやられて正直震えが来た。


辛勝だった。

いや、実質的には負けていた。何せ相手はパワーだけ見れば格下だったのだ。

魔法の有無でこれだけの結果の差が出るという事に改めて驚かされた。

どうやらちょっとしたイベ書使でのテコ入れ程度じゃ厳しい事を悟らされた。


「アマテラス。」

俺がアマテラスに声をかけると、アマテラスは涙ぐんだ目でこちらに顔を向けた。

「国之さま~、うちの可愛いドラゴンちゃんたちがぁ~。」


流石に今回は自分もドラゴンにも頑張って欲しいと応援していた。

なにせあれだけの数を倒されたのだ。最後の2体の時には手の平は汗だくだった。

まぁ可愛いには議論の余地があるが。


「ああ、だが最後まで頑張ってくれた。」

「国之さま。そうだよね!ドラゴンちゃんたち凄く頑張ってたよね!!」

アマテラスが少し元気を取り戻してグッと両手を握った。


ふぅ、単純で助かった。アマテラスは『頑張る』の言葉に反応が良い。

やっぱアマテラスは笑顔が一番だ。


「なんにしても今回の結果はかなり深刻だな。今のまま上位と魔法世界で戦ったら瞬殺間違いなしだ。」

「あの子達が瞬殺なんて絶対だめだよ!どうすれば良いの、国之さま!?」

うむ、いつも通りアイデアはなしっと。


俺は色々と考えていた事をアマテラスに話す。

「まず、当分魔法世界での戦いは避ける。で、勝ち続けられる限り勝つ。」

「はい!メモメモ。」


「でだ、その間にどうにか開拓レベルを上げたい。それできっと強さの底上げがされるはずだ。それにこのワールドには国どころか組織すら存在しない。つまりキャッスル戦もクラン戦すらできない。それもどうにかしたい。」

「開拓レベルを上げると。メモメモ。」


うん、どう考えても言ってることメモしてるだけだな、これ。

「そこでだ。アマテラスには時代毎のパーティー探しと、開拓レベルを上げるための方法を試行錯誤して欲しい。」

「パーティー探しと試行錯誤っと。」


アマテラスはメモを書き終わると顔を上げる。

「よ~し!どんどん開拓レベル上げていっちゃうよ!!」

おお、なんかすごく気合入った顔してるぞ!これは期待できる!?


「ところで国之さま、開拓レベルってどうすると上がるんですか?」

・・・だよね。期待通りだわ。


「いや、俺も判らん。今からイベガチャをどんどん引くからそれらのイベをどんどん使って開拓レベルを上げる方法を探して欲しいんだ。」


「じゃ、イベ書をどんどん使っていけばいいんだね!それなら任せて!!」

これは・・・任せられないパターンだわ。

「すまんアマテラス、やっぱ俺が選んだカードの中で選んで使ってくれ。」

「あいさー!」


アマテラスのおかしな返事に一抹の不安を感じながら俺は残ポイントが10,000になるまでイベガチャを引きまくった。


もちろん全部演出見たぜ?

100個目達成の度になでなでしてあげたら凄い喜んでたのが心の慰めだったわ。

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