第13話 俺、新事実を発見する

槍使いが、どうにか槍でハウリングハウンドの攻撃を凌ぎ、遂には槍が跳ね上げられバランスが崩れる。


その時、ガスパルに過去の記憶が蘇っていた。自分の師事した偉大な魔導士テルグリムとのやり取りの記憶。それはなんの脈絡もなく、まるで何か記憶を思い出させられた様な、そんな感覚であった。


「ガスパル、マナは世界を循環しておる。この空間からお前の身体、そして私の身体、庭に生える木々、その全てを循環しておるのよ。」


その時、ガスパルは良く解らず返事をした。

「御師様、それは私も良く存じております。」

「うむ、お前は知識としてそれを知っておる。しかしそれが本当にどういう事を意味しているかを解っていない。」

「それはどういう事でしょう?」


「お前は魔法を使う。体内からマナが減り、お前は外気からマナを徐々に吸収し、しばらく後に回復する。それは現象だ。真理とはなんだ?それは原理だ。なぜそうでなければならない?なぜお前の体内のマナは外気に消えてゆかない?」

「それは・・・。」


それから5年、今ガスパルは正に自分の身体から外気へとマナが消えてゆく現象を感じていた。ほんの僅かずつ、マナが消費されて行く。


(この空間にはマナがない。俺の体内にはマナがある。魔法にはマナが使われる。外気にマナがなければ魔法は使えない。それが自然の摂理という事か。だが御師様はさらに深く何かを知っていた。いや何かその存在を感じていただけなのかもしれない。私もそれは解らない、だが、今できる事は分かった。)


ガスパルはハウリングハウンドにできるだけ近づき、自らの膨大なマナを開放する。

体内のマナは最早二割もなかった。そしてその全てを使って魔法を放つ。


「ファイアーボール!!」


それは全マナを消費した渾身のファイアーボールだった。

手から炎が放たれ、ハウリングハウンドに伝う様に命中する。


こいつがこの部屋に生まれたのなら魔法を喰らうのは初めてだったに違いない。

ハウリングハウンドは炎に包まれ、突然の魔法攻撃に動揺し、地面を転がった。


正に殺されんとしていた槍使いがそれに乗じてハウリングハウンドに幾度も槍を突き刺し、遂にはとどめを刺したのだった。


あれから更に12年。ガスパルは魔導を究め、若き勇者パーティーの精神的支柱として、今この世界に居た。


「アランよ。」

ガスパルは付与魔法を掛けた一人の若い剣士に声をかける。彼こそが勇者であった。

「なんでしょうガスパル様。」

「どうやら、この世界では基本的に魔法は使えん。」

「先ほどのは、そういう事でしたか・・・。」


「うむ、付与魔法はこの世界では無意味じゃ。そしてわしができるのはファイアーボールが二回と言ったところ。」

「ガスパル様は使えるのですか?」

「どうにかな。なのでお前たちには難しいだろう。お前たちが鍛え上げた剣技だけが頼り。この戦い、奮起して臨め。」

「「「はい!」」」

勇者に加え戦士、そしてメイスを握り直す神官が返事をする。


良いパーティーだ。

彼らならきっとこの難局を乗り越え、女神の望みを叶えるのに違いない。


そして土埃と共についには敵が姿を現した。

そこには13体のドラゴンが我先にと向かって来ていた。


「ドラ、ゴン?」

アランがつぶやく。

「なぜこんなにも群れて!?」

ガスパルが絶望の声を漏らす。


ドラゴン達が半円状に勇者パーティーを取り囲む。


「うおおおぉぉぉ!!」

勇者が、戦士が、果敢に前に出てドラゴンに切りかかる。

それを止めようとドラゴンも鋭い歯で噛みつく様に顔を向ける。


勇者の剣はドラゴンの顔を切り付けるが骨で止まってしまい、振り切れない。

その抜き取りの動作が決定的な隙となって脇から来ていたドラゴンへの対処が遅れた。それでもアランはあきらめずに剣を抜き取り一瞬遅れて迫りくるもう一匹のドラゴンからの攻撃を避けようとした。


「ファイアーボール!!」


その叫び声と共に炎が空間を切り裂き、迫りくるドラゴンの顔を焼いた。ドラゴンの頭は火だるまとなり、のけぞって暴れる。しかし、どう暴れようと、頭を振ろうと炎は消えず、遂には地面に転げまわり、ようやく鎮火した。


ドラゴンは呼吸ができなかったため息も絶え絶えである。

そこにアランが走り寄り逆手に持った剣を喉元に深く差し込んだ。


その直後、後ろから悲鳴が聞こえる。

神官が食われたのだ。


「ミズリー!!畜生!」

アランが後衛に助けに行こうとするのをガスパルは留める。

「そちらの敵をなんとかせい!ミズリーはわしが助ける。」

そう言われ、勇者は悔し気に傷を受けて怒り狂ったドラゴンと対峙する。


ガスパルは神官を咥えたドラゴンにできるだけ走り寄りながら大量のマナを開放する。そして、残りの全マナを使い、渾身のファイアーボールを放った。


炎がドラゴンの身体にまとわりつき、ドラゴンはその熱に思わず神官を口から放す。

ガスパルは落ちてくる神官を受け止めるが、既に神官はこと切れていた。

そして脇から迫る気配を感じ、最早ここまでであることを理解する。


「ミズリーは無事助けたぞ!おぬしらは、安心して戦えい!!」


ガスパルが前方に叫ぶ。

その瞬間、彼は自分の身体が宙に持ち上げられるのを感じた。


————————————————————


そこから均衡は崩れ、圧倒的数の差は奮戦する勇者を徐々に追い込み、あっけない幕切れとなった。

モニターにはWINERの文字が浮かび、背後の世界が粒子の様に消えていく。


俺はしばらく画面を凝視し、今起こった事を思い出していた。

「アマテラス、見たか?」

「ええ、うちのドラゴンちゃんが初めてやられちゃいましたね。」

アマテラスが悲し気に涙をぬぐう振りをする。いや、ホントに泣いてたわ。

俺、どっちかというと人型に感情移入しちゃうんだが・・・。


「いや、それもそうなんだが、今魔法を使ってたよな?」

「そう言えば!」

「俺のワールドにはマナが無いだろ?それで魔法を使う手段って何が考えられる?」


例の如くアマテラスはウンウン唸ってからカッと目を開く。

「分かんない!国之さま答えは?」


うん、凛々しい顔したから一瞬期待しちゃったよね。

「いやいや、俺が知りたいんだよ!というかアマテラスってエージェントなのにあまり情報を得られた記憶がないんだが。」


「が~ん!!私だってもっと役に立ちたいけど、国之さまのワールドが特殊すぎなんだよ~!」

アマテラスはみるみる顔を崩して泣き出しそうになる。


「わ、す、すまん、アマテラスは良くやってる!」

俺は45度に頭を下げて素早く詫びを入れる。

「えへへ、だよね?結構頑張ってるよね。」


すぐに機嫌直すアマテラスって可愛いよな。


いや、それはそれとして、俺の世界で魔法が使えた事だ。

これは重要な事だ。


俺はアマテラスに改めてガスパルのステータスを表示してもらう事にした。

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