第7話 俺、遂に戦場に立つ いや、俺じゃないけど

戦いは始まった。

何もいないフィールドに突然コンピュータグラフィックス的なワイヤーフレームが描き出され、徐々にその表面に色彩が配色されていき、俺のワールドのドラゴン達が配置される。


その処理が改めてこの世界がシミュレーションでできている事を思い出させる。

ドラゴン達は突然周りの景色が変わった事に驚いているのか、周りを観察していた。


あれ?なんか・・・

「1、2、3・・・13!?」


俺がアマテラスを見るとアマテラスも同じことを考えていた様だ。

「なんか、数が多いんだけど?」

「だね~。多分この子達はいつもこれくらいの数で連携して狩をしてるのかも?」


そういう事?どういう事?つまりパーティーっていつも群れてる数が関係してるって事?動画なんかだと大体多くて6人、少ないと3人だったりするけど、こいつらはそれが13体だって事?マジか!?


「じゃ、ちょっと行って来るね!」

アマテラスが俺に声をかけると、突然目の前からいなくなる。

「え?ちょっ、どこに行くんだ?」


俺がきょろきょろしていると、アマテラスがモニターの中に現れ、ドラゴン達の目の前に浮いて立っていた。


ドラゴンの一体が目の前に突然現れたアマテラスに獰猛な唸り声を上げる。

そんな事を気にする風も無くアマテラスはドラゴン達に向かってしゃべり始める。

「私はアマテラス!あなた達の創造主の御使いだよ!」


それを聞いてドラゴン達が全員アマテラスに注目する。

通じてる、のか?


「い~い、あなた達?これはあなた達を創った創造主、国之さまの為の大切な戦いなの。ぜったい勝ってくるのよ!」


アマテラスが拳を突き上げると、ドラゴン達が一斉に空に向かって咆哮した。

その声はまるで大地を揺るがす様に響き渡った。

いや、こっちにはそこまで聞こえないけど。アマテラスが耳塞いでるから多分そんな感じだ。


咆哮が終わるとアマテラスが敵がいるであろう方向をビシッと指さして号令する。

「さあ、行ってらっしゃい!」


するとドラゴン達はなんの迷いもなく、姿勢を屈めて大地を疾走して行った。


————————————————————


一方、相手側、大吉の陣営でも似た様な事が行われていた。

大地には4人の男と一人の女が立っていた。

5人は何が起こったのかと周りを見渡す。


一人の若い男が他の皆に話しかける。

「こ、ここはどこだ?俺たちは確かダンジョンの63階層に潜っていたはずなのに。」


それに対して老人が応える。

「ふむ、確かに。しかも周りの植物、全く見たことも無い植生じゃ。」

「マグナじぃはなんでそんなに落ち着いてるのよ!?きっと何か転移の罠に掛ったんだわ!アルタどうする!?」

女性が声を荒げる。


少し背の小さめな男がなだめる様に声をかける。

「リーナ、慌てたって状況は変わらない。まずは周囲を観察するんだ。みろ、ドミノの落ち着きっぷりを。」

そう言って空を見上げている重装備の男を指さす。


ドミノはそれに気づいて空を指さす。

「違うんだ、ナダ。空を見てくれ。何か、何か浮いてるんだ。」


その言葉に全員が空を見上げる。

そこには無駄に露出の多いドレスを着た女性が浮いていた。女性の背中には純白の翼が生えており、明らかに人では無かった。


「そろそろ落ち着いたかしら?私は創造神、大吉さまに使える女神ミーシャル。」

「創造神の?女神、様?」

リーナが声を上げる。


しばしの間があり、5人は集まってコソコソと話を始める。

「おい、なんかやけに破廉恥な恰好なんだが、あんなのが俺たちの天使様なのか?」

「あんな服着せて恥は無いのかしら?創造神も程度が知れるってもんだわ。」

「お嬢様の言う通りじゃ。ありゃ若気の至りなんてもんじゃないぞ。」

「お前ら、良く観察するんだ。センスは無いが露出度はナイスだぞ?」

「ナダ、君だけ違う方向に行ってる。」


「毎回このやり取りで正直うんざりするわ。この大吉さまの素晴らしいセンスを理解できないなんて、ホント残念。」

ミーシャルはため息交じりにつぶやく。


そう、彼らは大吉ワールドの現在のベストパーティーである。なのでパーティー戦では毎回呼ばれるのだが、その度にこれに近いやり取りがあるのだ。何せ元の世界からコピーしてきたので、デュエルフィールドでの記憶が無いのだ。


「おっだまりなさい!大吉さまの悪口はそこまでよ!いや、そんなことはどうでもいいわ。貴方たちがここに呼ばれたのは小憎らしい敵を打ち滅ぼすためよ!」

「おい、創造神をどうでもいいとか言ってるぞ?」

「なんじゃ強大な敵って。」

「きっと魔王だわ!」

「選ばれし者の試練か!」

「武者震いが。」


「い~い、貴方たち?貴方たちは世界で一番強いパーティーとしてここに呼ばれたの。そしてここには他の世界からの敵が居るの。そいつらを倒さなければ、世界は終わるわ!」

「「「「「なんだってー!?」」」」」


ミーシャルは何度ものやり取りを通して、段々と彼らがどう言えば動くのかを理解していた。どうやら彼らは魔王の手から世界の危機を救うために立ち上がった自称勇者パーティーなのだ!まぁ大吉のワールドにはまだ魔王は居ないのだが。


「貴方たちなら世界を救えると信じています。さあ、行くのです、勇者達!!」

その言葉に5人は決意を固めミーシャルの指さす先に歩き始める。


「聞いたかリーナ!やはり俺たちは勇者だったんだ!」

「そうね!私たちが神に選ばれたパーティーだったって事だわ!」

「そうはしゃぐな。ワシらの実力からすれば判っていた事じゃわい。」

「そうは言ってもお墨付きだ。無事帰れる様、慎重に事を運ぶんだ。」

「そうだな。生きて帰って、あのダンジョンを攻略しないとな。」


「ところで敵ってどんな奴なんだ?」

肝心な事を思い出してアルタがマグナに聞く。

「さあな。創造神の御使いたるミーシャル様が行けと言うのじゃ、きっと遇えば判るんじゃろう。」


実はエージェントも対戦相手がどのようなパーティーなのか知らないのである。お互いに分かるのはモニターに表示された情報程度で、会敵しない限りそれ以外の情報は一切知る事ができない。


だが、会敵すると彼らはお互いに誰が敵であるのかを自然と知る様になっている。

むしろ必ず倒すべき存在と認識する様になっているのである。


それから5分程、両パーティーは互いを知る事になる。

「ちょっと、何よあれ?」

「ド、ドラゴンか?」

「なんという数じゃ。」


ドラゴン達もアルタ達5人を見つけ、立ち止まって唸り声を上げる。

その距離は既に20m程であった。

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