第4話 俺、早速世界創造を失敗する
あれから集められるだけ粉を集めて台座のくぼみに投入したが、
粉は揮発するため、通常はスタートする直前に台座のくぼみに入れるらしい。
説明書にも設定後のページにちゃんと書いてあった。
でも、できればエージェント機能に指示させる仕様にしてもらいたかったよ。
それになんであんな開けにくい袋に入ってるんだょ。
アマテラスの説明によると魔法やその威力なんかに関係するものらしい。
「ま、まぁ、マナの粉の使用量は任意だから。全部入れればいいってわけじゃないし、きっとどうにかなるよ!」
「流石に2%は無いだろ?誰か入れないで作った奴とかいるのか?」
それを聞いてアマテラスは世界ネットワークで確認する。
「やったよ、国之さま!60%以下で世界を創り始めたのは国之さまが世界初だって!世界初なんてさっすが国之さまだね!」
アマテラスが振り向きざまにサムアップしてくる。
「それやったじゃなくてやっちゃっただろ!?」
そんなヒャッホー!みたいな感じで言われても騙されないからね?
俺泣くよ?いや、なんかほっぺた冷たいし既に泣いてるかも。
いやまて、そもそも単なる添加物だぞ?あとからふりかければいいんじゃないのか?
俺は一縷の望みをかけてアマテラスに確認する。
「もしかしてマナって、後から追加、できるんじゃないのか?」
アマテラスは肩をすくめて苦笑いしながら容赦なくその望みを切り捨てた。
「残念だけど、既に出来上がった空間に後から追加はできないんだよねー。」
理由はこういう事らしい。
台座の上に直径50cm程の球の空間は内部でどんどんと広がっており、外側に行けば行くほど距離の密度が違うらしいのだ。つまり見た目は50cmだけど、例えば一番外側から1㎜までは1億光年、中心の1㎜は100kmと、同じ1mmでも中心付近と外側で距離が違うらしいのだ。
そのため後から振りかけても俺の世界に行きつく量は本当に微量で意味が無いらしい。つまり、作りなおすためには再度コアを購入するしか無いと、そういう事らしかった。
俺は無理やり指で押し込めばいけるんじゃないかと試しに指を入れてみた。
なんだろう、スポンジを押したら凹むんじゃなくて、中に沈んでいっちゃったみたいな?そんな凄い変な感触で第一関節まで空間に入ったんだが、全く球の中に指が見えてこない。いや入っているが短い空間しか進まないから入ってない様に見えるんだ。
さらに往生際悪く、巻き戻しができないのかも確認したが、それもダメだった。
このワールドは起動を始めたら一方通行らしい。
まぁ巻き戻せるなら流石に教えてくれるよな。
しかし何なんだ、この無駄に凝った設定は!
それらの事実を確認した俺は今、ベッドにうつぶせになって枕を涙で濡らしている。
アマテラスは甘え口調で一緒に頑張ろ!とか言ってたけど、絶望感しかない。
魔法の無いであろうワールドで羽部八に勝つなんて絶対無理だろ。
この一年の努力が走馬灯の様に頭に流れる。
あれをもう一回・・・
いや、半分は今まで貯めていたお金なので二年は掛かるはずだ。
気が付けばもう朝だった。
「あ、国之さまおはよう!遂に星が形成されたよ!」
「そっか。」
おれは空間の中央にある赤茶色の星を一瞥してから部屋を出る。
ちらりと見えたアマテラスの顔が流石にしょんぼりしていた。
いや、でも仕方ないでしょ?
だってあれだけ情熱をかけて手に入れた世界創造に失敗したんだぜ?
俺はテーブルに用意された朝食を食べて学校に行く。
学校は特に制服があるわけでもなく、勉強道具も学校で貸し出される端末一つなので持っていくものもない。
そもそも社会管理をAIがする様になってから学校や勉強なんて伝統的なもので特に必要も無いんだけどな。まぁ皆行くし、友達と会えるから行ってる様なものだ。
一部のエリートなんかは学校の勉強を大学までみっちりやってAI開発とかに配属されるらしいけどな。
学校の教室に入ると扇状の階段教室の中で、いつも通り唯一の親友である
増田は入学以来の友人でオタク眼鏡の趣味仲間だ。
運動も勉強も顔も人並み以上なのに何を間違えたのか、俺と一緒にオタク街道を突き進んでいるいい奴だ。
俺はいつも通り、左よりの中段あたりに座っている増田を見つけて、その隣に座ると増田は待ってましたとばかりに俺に話しかけて来た。
「お、国立、聞いたぞ、遂にコアセット買ったってな?」
「おう、ってなんで知って・・・」
増田の面白そうな顔でピンと来たわ。羽部八だ。
絶対SRの件を面白おかしく言いまわってるわ。
「羽部八が話してたぜ。お前がコアセット抱えてなんか叩きつけてるの見て近づいたら手にSRのケースが握られてたって。」
おいぃぃ!そっから見てたのかよ!俺もうお嫁いけねぇよ!
「しかもしらばっくれるから下に落ちてる紙拾ったらクソSRの神の怒りだったとか。お前、神に愛されてるな!笑いの神だけど。」
「うるせぇ!」
その手で口かくしてプッて笑うのやめろ!腹立つわぁ。
肩ポンしようとする増田の手を払って俺はふて寝する。
「そういや、もう創造始めたんだろ?どこまで進んだ?」
キター!そりゃその話題触れるよね。こいつもやってるし。
だが言えねぇ。マナの粉入れ忘れたとか絶対にいえねー!!
俺は突っ伏したままの姿勢で三回程深呼吸して精神を落ち着かせてから顔を上げる。
「いや、ちょっと忙しくてまだ中見ただけなんだよね。あー、家帰って早く始めたいぜ!ま、今日もちょっとなんだがな。」
っく、時間稼ぐ様ないいわけしか思いつかね。最早買ってないとか通じるはずも無いし。家帰ってから何か言い訳を考えなければ。
「マジかよ?セットアップなんて確か20分位だったぜ?」
「いや、説明書見てて色々と設定考え込んじゃってさ。エージェントとか。」
「あぁ、あれは色々と考えるよなぁ。」
その時俺に神降臨!
「あ、増田。参考にするからお前のエージェント見せてくれよ。この前家に行ったときエージェントは見せてくれなかっただろ?」
「ダメだ。」
即答!?しかも増田の顔に表情が無い。
同士の俺にすら見せられないとは想像以上にヤバいのかもしれない。
「そ、そうか。」
俺はこれ以上この話題に触れるのは止めた。
だが、どうにかこの難局は乗り切った様だな。
と思ってたのは俺だけだった。
あれから休み時間毎に、会う奴会う奴全員にSRの件でイジられた。
くそ!いつもはそんなに親し気に話しかけてこないくせに!
羽部八との遭遇を回避できたのがせめてもの救いだ。
これでワールドにマナが入ってないとか知られた日には・・・想像したくない。
そう言えばクラスで大会開かれてる時あるんだよな。
あれに呼ばれたらどうしよう?
いや羽部八の事だ、自分の強さを見せつける為に絶対に声をかけてくる。
そんな事を考えていると、後ろから声を掛けられた。
「国立君、遂にコアセット買ったんだって?」
この声は
振り向くと俺のアイドル天野さんがそこに立っていた。
天野さんは俺みたいなオタクでも分け隔てなく話をしてくれる可愛い女の子だ。
あ、アマテラスと顔がちょーっと似てるのは秘密な。ちょーっとだし。
実はというか当然というか、彼女も
「あ、いや、うん。実は忙しくてまだ始めてないんだけどね。」
お近づきになる前に終わってる予感しかしないな。
「そうなんだ。そう言えば一番最初のガチャがSRだったんでしょ?凄いね!」
「そ、そうなんだよ。なんか、い、一番使えないSRだったんだけどね。」
おれは緊張のあまりしどろもどろになりながら受け答えする。
「らしいね。でも最初からSRは凄いよね!」
流石我が女神。なんてピュアな感想。愛してます!
「俺、羽部八に勝ったら告白するんだ。」
・・・は?今の、俺の声?俺、声に出してた・・・だと?
ひ、独り言の癖がこんなところで暴発起こすとか!!!
俺は震える指を見ていたチェリーより赤くなった顔を恐る恐る上げた。
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